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石鹸膜流量計とは?(原理・特徴・用途を徹底解説!)

石鹸膜流量計は、ガラス管内を気体の流れによって石鹸膜が移動する時間を測定し、その結果から体積流量を算出する流量計です。構造がシンプルでありながら高い精度を持ち、特に微少流量の気体計測や他の流量計の校正用途に適しています。本記事では、石鹸膜流量計の原理、特徴、主な用途についてわかりやすく解説します。

目次

石鹸膜流量計とは

石鹸膜流量計では、ガラス管内に形成した石鹸膜が気体の流れで移動する時間を測定しその区間の体積と時間から流量を算出します。構造がシンプルで原理が明確なため計測の仕組みを理解しやすく、研究や教育の場でも活用されています。

計測の仕組み

石鹸膜流量計は、ガラス管内に設定された一定の体積区間を石鹸膜が通過する時間を測定し、その値から流量を算出する仕組みです。シンプルな構造ですが、原理が明確で高精度な測定が可能です。計測は以下の手順で行われます。

参考:堀場エステック製 石鹸膜流量計構造図

  1. 石鹸膜の形成
    計測を始める前に、まずガラス管の内壁に石鹸膜を作成します。専用の石鹸水や指定の溶液を使用することで適切な石鹸膜を形成することができ、膜の安定性と測定精度が確保されます。
  2. 気体による膜の移動
    測定する気体をガラス管に流すと、石鹸膜が管内を押し上げられて移動します。膜が途中で破れたり気泡が混入した場合は、再度膜を作り直し再計測が必要です。
  3. 移動時間の計測と流量の算出
    ガラス管にはあらかじめ一定体積を示す目盛りが刻まれています。石鹸膜がこの区間を通過する時間を測定し、
    流量 = 一定体積 ÷ 通過時間
    の計算式で体積流量を算出します。
  4. 温度・圧力の補正
    気体の体積は温度や圧力によって変化するため、計測時の条件(温度・気圧)に基づいた補正を行います。これにより、標準状態(0℃・1 atm)への換算が可能となります。さらに、気体の種類に応じた密度を用いることで、体積流量から質量流量へと変換することができ、より精度の高い計測が実現します。
    ※一部の製品では温度センサや圧力センサを内蔵し、補正を自動で行うことで、スタートボタンを押すだけで高精度な計測が可能です。

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    SF-U Series

石鹸膜流量計の特徴と他方式との比較

石鹸膜流量計は、シンプルな構造を活かした高精度測定が可能です。実験室や研究向けの用途に適した流量計ですが、差圧式や渦流量計のようにプラントや配管に常設されるタイプとは異なり、主に「基準器」や「微少流量の測定器」として位置づけられます。この章では、石鹸膜流量計のメリット・デメリットに加え、他の代表的な流量計との違いについても、比較表を用いて分かりやすく解説します。

石鹸膜流量計のメリット

 高精度な流量測定が可能

石鹸膜流量計は非常に高い測定精度を持っており、微少流量の領域において非常に信頼性が高く、他の流量計を校正するための基準器として利用されることもあります。

 気圧や気温の補正が可能で、標準状態への換算が容易

石鹸膜流量計は、測定値に気圧や温度の補正を加えることができるため、測定結果を一般的な標準状態(たとえば0℃・1気圧)に換算する作業が比較的容易です。これにより、異なる条件下で得られたデータの比較や管理がしやすくなります。

 操作が比較的簡単で、専門知識がなくても扱いやすい

石鹸膜流量計は構造がシンプルで特別な技術や経験がなくても扱いやすいのが特徴です。基本的な操作を習得しやすく、初めて使用する方でも導入しやすい点が特徴です。

石鹸膜流量計のデメリット

 石鹸膜の準備が必要で、連続測定や長時間測定には不向き

測定のたびに石鹸膜を形成する必要があるため、準備やメンテナンスに手間がかかります。そのため、自動連続測定やインラインでのリアルタイムモニタリングには適していません。また、石鹸膜は非常に繊細で、乾燥や外的要因によって短時間で破れることがあるため、長時間にわたる安定した測定にも向いていません。

 外部環境の影響を受けやすく、取扱いに注意が必要

石鹸膜は非常に繊細で、振動や気流、ガラス管内の異物などにより破れやすく、安定した測定の妨げとなる可能性があります。外部環境に影響されやすいため、安定した条件下で使用することが求められます。

 液体の測定には不向きで、特定の気体にも注意が必要

石鹸膜流量計は気体専用のため、液体の測定には使用できません。さらに、水に溶けやすい性質を持つ気体(例:二酸化炭素(CO₂)アンモニア(NH₃)など)は石鹸膜に吸収されやすく、正確な流量の測定が難しい場合があります。

他方式との比較表

石鹸膜流量計と主な流量計の違いを比較すると下記のようになります。

種類測定方式メリット主な用途
石鹸膜流量計石鹸膜が一定の体積値間を移動する時間を測定高精度・低コスト・操作が簡単研究・実験用途、基準器、ガス供給システムの立ち上げ・点検
熱式流量計加熱素子と温度差で質量流量を測定微少流量に強い
高応答性・高感度
高精度測定
半導体、石油・ガス、化学、発電、食品・飲料製造、環境モニタリング
差圧式流量計オリフィスなどで発生する差圧を測定構造がシンプルで低価格
多用途に対応
高温・高圧・腐食性流体にも強い
石油・ガス、上下水道、化学、発電、半導体、空調
コリオリ式流量計チューブ振動によるコリオリ力で質量・密度を直接測定質量・密度の高精度測定が可能
液体・スラリー対応
成分変動にも強い
石油・ガス、化学、食品、医用
カルマン渦式流量計ブラフ体による渦周波数を計測高温・高圧・蒸気対応
可動部がなく耐久性が高い
工業プラント、発電所、空調、蒸気ライン
超音波流量計超音波の伝播時間差またはドップラー効果を利用非接触測定が可能
クランプオン対応
水、排水、石油・ガス、化学、医用、空調
電磁流量計液体の電磁誘導電位を測定低圧損で導電液体に対応
異物混入に強い
直線性が良好
上下水道、排水、石油・ガス、食品、化学

石鹸膜流量計の主な用途

石鹸膜流量計の用途は主に「気体の低流量測定」や「基準器(リファレンス)としての使用」が中心です。以下に代表的な用途をいくつか挙げます。

 研究・実験用途(大学・研究機関・開発現場)

  • 微少な気体流量を正確に測定する必要がある場合に使用されます。
  • 化学実験、ガス反応の測定、サンプルガスの供給量確認などで広く使用されます。
  • 操作が簡単で、目視確認ができるため教育目的にも使われます。
     

 校正用途(流量計の精度確認・校正)

  • 他の流量計(マスフローコントローラ等)の流量精度確認用として使用されることがあります。
  • 測定原理がシンプルかつ信頼性が高く、基準器として活用されています。
     

 ガス供給システムの立ち上げ・点検

  • 研究設備や実験装置のガス供給ラインの初期確認に利用されることがあります。
  • 石鹸膜の動きにより「目視」で流量を確認できるため、トラブル対応や簡易診断に役立ちます。
     

まとめ

石鹸膜流量計は、シンプルな構造ながら高精度な測定を実現する気体専用の流量計です。特に、研究室や開発現場での微少流量の測定や、ほかの流量計の基準器としての利用で高く評価されています。自動化されたタイプを選べば、膜の形成や測定作業の手間を軽減し、再現性の高いデータを得ることが可能です。
一方で、連続測定や液体測定には不向きであり、使用環境や測定目的に応じて他方式の流量計と使い分けることが求められます。
総じて、石鹸膜流量計は「簡単に」「正確に」気体流量を測定できる装置として、研究や検証の場で今なお広く活用され続けています。

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