半導体市場における小型高精度マスフロー

長澤 政幸 (執筆) /カテゴリ:テクノロジー

MFCは半導体製造工程の成膜やエッチングプロセスにおいて,さまざまなガスの質量流量を高精度に制御する重要な機器である。近年の半導体プロセスでは,チップの配線を縮小させる微細化技術,ウェハの面内均一性及び製造装置間の機差低減によるウェハのばらつき軽減が必要とされている。それに伴い,1つのチャンバーに対して取り扱わられるガス種・流量レンジも増えていく傾向にあることから,MFCの搭載台数が多くなってきている。また新しいプロセスでは,これまで以上の高速制御が要求されている。一方で,MFCが格納されているガスボックスでは,製造装置のスペース上の問題から更なるMFC台数の増加には対応困難であり,ガス供給システムの小型化が望まれている。

当社ではMFCのサイズを従来の1.125 inch幅から約1/3の10 mm幅へと縮小し,更に高速応答・高精度という利点を持つ差圧式MFC『CRITERION』(クライテリオン)技術を用いたMFC(DZ-100)を開発しており,この技術について紹介する。

【MFCの小型化によるメリット】

① ガスボックスの軽量化
装置立ち上げ工期短縮削減,重量比で約70%軽量化の約50 kgで構成することができ,人力での作業が可能なサイズに縮小出来る。このため,装置の輸送や据え付け作業が容易となる。
② ウェハの面内均一性向上
MFCを10 mm幅に縮小したことで,チャンバーへのガス供給ライン数を増やすことが可能になる。チャンバー内のガス濃度分布をより緻密に制御することが出来るため,ウェハのばらつき低減が可能である。
③ チャンバー近傍でのガス制御
従来のガスボックスでは,ガスボックスからチャンバーまでの距離が数m必要とされていた。DZ-100を使用することでガスボックスの小型化が可能となり,チャンバー近傍に設置出来る。ガス置換速度の向上やガス供給ラインの切替え時間の短縮によるスループット向上が期待出来る。

DZ-100は製品サイズの小型化だけでなく,性能面において従来製品から向上させている。特に市場で重要視されている3つの基本性能に対して紹介する。

【応答速度】

近年ウェハのスループット向上やプロセスの高速化に伴い,MFCに対して応答速度の高速化が求められている。従来機は応答速度0.8秒であった。制御アルゴリズムの改良に加え,今回ピエゾアクチュエータを小型サイズにすることで静電容量が小さくでき,応答速度の高速化が可能となった。

【圧力変動特性】

従来の一般的なサーマル式のMFCは上流側の圧力変動に対する影響を受けやすい。そのため,従来のガス供給システムでは圧力調整器を用いることで他のガスラインからの圧力変動の影響を低減しているが,ガスボックスの複雑化・サイズ及び重量アップに繋がる。DZ-100は流量計測部をコントロールバルブの下流側に設置されているため,供給圧力変動による影響は受けにくい上に,変動を緩和できる新開発の制御アルゴリズムを導入したことにより,安定した流量制御を実現している。大きな圧力変動下でも,流量設定値に対して±1%以下の影響に収まる。そのため圧力調整器の無いガス供給系においても使用可能である。

【マルチガス制御】

従来のガスボックスにおいては,窒素ガス等のパージガスを除き,ガス種とMFCは1対1の関係であったが、DZ-100においては,各ガス種に対応した数十種類のガスデータを出荷時に予めインストールし,装置側で任意のガスデータに切り替えることを可能にしている。複数種類のガスを1台のMFCで制御することで,よりいっそうのMFCの集約化及びガスボックスの小型化が可能となる。

左 1.125 inch MFC 右 Ultra thin MFC