差圧式流量計は、上下水道、石油・ガス製造、空調システムといった多岐にわたる分野で、流体の正確な流量計測に貢献する重要な機器です。この流量計は、流路内に設けた絞りやベンチュリ管によって生じる圧力差(差圧/ΔP)を測定し、流量を算出します。本記事では、この差圧式流量計の基本原理はもちろんのこと、選定の際に知っておきたいメリット・デメリット、他の流量計方式との比較、そして実際の現場での具体的な用途事例までを、ポイントを押さえて分かりやすく解説します。
差圧式流量計(別名:オリフィス流量計)とは、流体が管路内の絞り部を通過する際に生じる差圧を利用して流量を測定する計測機器です。構造がシンプルで可動部が少ないため、壊れにくく、メンテナンス性に優れるのがメリットです。そのため、私たちの生活に身近な上下水道から、化学工場、石油プラント、ビルの空調システム、半導体製造ラインなど、多岐にわたる産業分野で広く用いられています。次節では、この差圧式流量計がどのようにして差圧を検出し、その情報から正確な流量を導き出すのか、その「計測の具体的な仕組み」について詳しく掘り下げていきます。
差圧式流量計は前述の通り、管路内に設けた絞りやベンチュリ管などの「流路制限部」によって流体の流速を変化させ、その際に上下流間に発生する差圧(ΔP)を捉えて流量を算出する方式です。以下のステップで動作します。
差圧式流量計は、気体・液体・蒸気を問わず幅広い流体に対応できる汎用性の高さと、構造のシンプルさから、多くの産業現場で長年にわたり活用されています。一般的にコストを抑えた導入が求められる場面や、高精度を要求しないプロセス計測において、選ばれるケースが多くあります。この章では、差圧式流量計のメリット・デメリットに加え、他の代表的な流量計との違いについても、比較表を用いて分かりやすく解説します。
差圧式流量計は、空気や蒸気、水はもちろん、油などの中粘度流体まで幅広く対応可能です。重油・樹脂原料などの高粘度流体については適用が難しくなるケースもありますが、一般的な化学薬品、冷却水、潤滑油程度であれば十分な精度で計測が可能です。さらに、高温・高圧下でも使用できる製品があり、化学プラント、食品工場、HVAC(空調システム)など、さまざまな現場で活用されています。
差圧式流量計は、絞り部と圧力検出器という単純な構成のため、可動部がなく、機械的な摩耗もほとんど発生しません。そのため、長期間にわたって安定したパフォーマンスを発揮します。また、シンプルな設計により製品価格も比較的安価に抑えられるほか、設置作業も容易で、定期点検やメンテナンス作業の負担を最小限に抑えることができるため、長期的な運用コストの低減にもつながります。
差圧式流量計に使われる「絞り板」や「ベンチュリ管」といった主要部品は、ISOやJISなどの国際・国内規格によって、その寸法、材質、形状が厳しく決められています。これらの規格品を使用すれば、個別の実流校正を省略できる場合もあり、現場での迅速な立ち上げや、装置全体の信頼性確保が容易になります。
差圧式流量計は最も歴史のある流量計方式の一つであり、長年にわたって蓄積された設計ノウハウ、導入実績、シミュレーション手法が豊富に存在します。そのため、設計段階から流量特性や圧力損失の見積もりを高精度で行えるほか、異常値検知やトラブル対応においても現場の知見が活かしやすいという利点があります。流量計単体だけでなく、システム全体としての信頼性を重視する現場では、今なお選ばれる理由となっています。
差圧式流量計は、一般的に流量測定範囲(ターンダウン比)が約3:1程度に限られます。そのため、1台の機器で小流量から大流量までをカバーするのは難しいです。広い範囲で安定した計測が必要な場合は、複数台の組み合わせや、用途に応じて他方式の流量計と併用することで、より広い範囲の安定した計測が可能になります。
正確な測定を行うには、絞り板などの前後に十分な直管長(上流側15D、下流側5D程度:Dは配管径)を確保することが推奨されます。スペースに制約がある現場では、設置レイアウトの見直しや設置個所の追加、省スペース型の特別設計品の導入など、現場に応じた柔軟な対応がポイントとなります。
差圧式流量計は、絞りで流体に抵抗が生じるため、常に一定の圧力損失が発生します。設計段階でこの損失を考慮し、必要なポンプ容量の確保や、システム全体の圧力バランスを最適化することで、効率的で安定した運用を実現することが可能です。
差圧式流量計と主な流量計の違いを比較すると下記のようになります。
| 種類 | 測定方式 | メリット | 主な用途分野 |
|---|---|---|---|
| 差圧式流量計 | オリフィスなどで発生する差圧を測定 | 構造がシンプルで低価格 多用途に対応 高温・高圧・腐食性流体にも強い | 石油・ガス、上下水道、化学、発電、半導体、空調 |
| 熱式流量計 | 加熱素子と温度差で質量流量を測定 | 微少流量に強い 高応答性・高感度 高精度測定 | 半導体、石油・ガス、化学、発電、食品・飲料製造、環境モニタリング |
| コリオリ式流量計 | チューブ振動によるコリオリ力で質量・密度を直接測定 | 質量・密度の高精度測定が可能 液体・スラリー対応 成分変動にも強い | 石油・ガス、化学、食品、医用 |
| カルマン渦式流量計 | ブラフ体による渦周波数を計測 | 高温・高圧・蒸気対応 可動部がなく耐久性が高い | 工業プラント、発電所、空調、蒸気ライン |
| 超音波流量計 | 超音波の伝播時間差またはドップラー効果を利用 | 非接触測定が可能 クランプオン対応 | 水、排水、石油・ガス、化学、医用、空調 |
| 電磁流量計 | 液体の電磁誘導電位を測定 | 低圧損で導電液体に対応 異物混入に強い 直線性が良好 | 上下水道、排水、石油・ガス、食品、化学 |
差圧式流量計は、石油・ガス、化学、上下水道、発電、半導体、空調(HVAC)など、多様な業界で幅広く使用されています。ここでは、代表的な用途を分野ごとに紹介します。
石油・ガス産業において、差圧式流量計は長年にわたり広く活用されてきた実績があります。原油や天然ガス、各種石油製品の採取から精製、輸送に至るまで、多様な工程でその堅牢性が評価されてきました。特に、高温・高圧といった過酷な現場環境でも安定した計測が可能であり、また、国際的な規格に準拠した信頼性の高い計測が実現できるため、この分野の基幹設備を支えています。
化学工場では、冷却水やプロセス水、蒸気、各種薬液など、非常に多岐にわたる流体の流量管理が求められます。差圧式流量計は、その堅牢でシンプルな構造と、幅広い温度・圧力範囲に対応できる耐久性から、これらの流体の一部で使用されることがあります。特に、高温の蒸気ラインや、腐食性が低く、特殊な材質を必要としない汎用的な薬液ラインにおいて、比較的導入コストを抑えたい場合や、既存配管への対応を優先する場合に採用が検討されます。
上下水道や水処理施設では、一般的に電磁式流量計が多く使われていますが、差圧式流量計が採用されるケースもあります。たとえば、導電性の低い純水など、電磁式では計測が難しい流体に対して有効です。構造が比較的シンプルでコストを抑えやすく、導圧管や絞り装置の設置が可能な配管条件で導入が検討されます。
発電所や地域熱供給システムでは、高温・高圧の蒸気や熱媒体の流量を管理するために、差圧式流量計が使用されることがあります。特に、過酷な温度・圧力条件下でも対応可能な構造が評価されており、発電効率の維持や安定した熱供給の一助となります。
半導体製造では主に熱式流量計が使われますが、冷却水や空調ラインなどでは差圧式流量計が活用されることもあります。特殊な差圧方式採用した高精度な差圧型MFC※(質量流量制御機器)も一部プロセスに使用されています。
空調分野、特にオフィスビルや工場における大規模な蒸気配管において、差圧式流量計は流量管理に利用されることがあります。これは、差圧式流量計が高温・高圧の蒸気環境下でも安定した計測が可能であり、その堅牢な構造が過酷な条件下での使用に適しているためです。また、既存設備の改修や部品交換の際に、互換性やコスト面から差圧式流量計が選定されるケースも見られます。
差圧式流量計は、空調設備や、水処理、化学薬、発電、半導体等幅広い分野で活躍する、信頼性と実績のある汎用型の流量計です。気体・液体・蒸気といった多様な流体に対応し、シンプルな構造によって設置や保守も容易でコストパフォーマンスにも優れています。一方で、標準的な構造では高粘度流体や超高精度を要する用途では制約が出る場合があるため、他方式との特性比較を踏まえた上での選定が求められますが、特殊な構造を取り入れ高精度な測定や構成部材や設計の工夫で粘度の高い流体に対する適用も可能です。
この記事では、差圧式流量計の基本的な仕組みから、その多様なメリットや考慮すべき点について解説しました。差圧式流量計は、その信頼性と汎用性から、幅広い産業分野で長年にわたり重要な役割を担っています。
※弊社製品のご紹介:高精度流量制御機器「D700 Series」
弊社では、差圧式流量計の一種であるCRITERION(D700)Seriesを取り扱っております。差圧式流量計のメリットを生かしつつ、高精度化した流量制御機器です。新開発の層流域差圧検出方式と非直線特性リストリクタにより、特に低流量域での流量精度を大幅に向上させました。この技術は、精密流量計測システムを用いて5万点以上の実ガスデータを分析し、ガスごとの最適な補正係数をCRITERIONに組み込むことで実現されています。CRITERIONシリーズはこれまでの差圧式流量計では難しかった、さらに高い精度での流量測定を可能にしました。正確にはバルブ一体型の流量コントローラとして、流量の測定だけでなく、その制御までを一体で行えるのが特長です。これにより、様々なプロセスにおいて安定したパフォーマンスを発揮し、お客様の設備における精密な流量管理をサポートします。
