学術資料

血糖値の頻回測定における留意点と血糖値曲線の作成方法

松波動物病院メディカルセンター

松波 登記臣先生

血糖値は、糖尿病や低血糖などが疑われるときに測定されます。動物で血糖値が上がる(高血糖)原因として代表的な疾患は糖尿病ですが、その他にもグルココルチコイド製剤など薬剤による高血糖、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、さらに膵炎などが挙げられます。一方で血糖値が極端に下がる(低血糖)原因としては、インスリン製剤の過剰投与、インスリノーマ、敗血症や肝不全、さらには過度な運動や若齢動物、そして長期間の絶食などが挙げられます。これら高血糖および低血糖を引き起こす疾患のなかで、特に血糖値の測定時に重要な疾患として糖尿病が挙げられます。そこで本稿では糖尿病時に行う頻回血糖値測定における留意点、そして血糖値曲線の作成方法をご紹介します。また最後に、猫の糖尿病の基礎疾患になり得る疾患を文献ベースで挙げさせて頂き、そして猫の糖尿病を正確に診断するために実施している静脈および経口糖負荷試験をご紹介します。

採血後、血糖値を測定する方法は全血と血漿を用いた測定方法が考えられますが、ここで注意しなくてはいけないことが2点あります。一つは全血と血漿とでは血糖値に差が認められる場合があること、もう一つは血漿を用いた血糖値(Plasma glucose)を国際的にはインスリン療法をするうえでの参考値として認められているということです。
糖尿病時に行う血糖値測定は、患畜の血糖値の状態を把握するうえで必須な検査であり、頻回に採血をし、血糖値曲線を作成することとなります。そのような場合、多くの病院では、採血した全血を用い、さらにはハンディサイズの自己血糖測定器を用いることが多いと思いますが、実際に当院で血漿成分の血糖値と比べると、大体20~30%程度低く出てしまうケースがありました(表1)。高血糖を示す糖尿病患畜にとって、2~3割低い血糖値の表示は、診断およびインスリン製剤を用いた際の治療に対して、大きく影響を及ぼすこととなります(表1)。特に空腹時血糖値の評価は、インスリン製剤の種類と用量を決める際に非常に重要となるため、出来る限り血漿成分を用いて血糖値の測定を実施することをおすすめします。

糖尿病治療時に使用するインスリン製剤を評価するうえで、重要な検査の一つに血糖値曲線の作成があります。私は使用するインスリン製剤にもよりますが、犬ならNPH製剤(ノボリンNなど)、猫ならインスリンデテミル(レベミル)を使用しますが、最低でも犬なら8時間、猫なら12時間、血糖値曲線に時間を費やすことにしています(それぞれの使用するインスリン製剤の作用時間に合わせて設定しています)。空腹時血糖値の測定から、食事を摂食させてからの1時間、そしてインスリン製剤を投与してからの1時間と3時間は、コンスタントに測定しています。その後の測定間隔は、2~3時間を目安に測定しています(図1)。このように血糖値の頻回測定は糖尿病症例における血糖値曲線を作成するうえで重要であり、高血糖ピークおよびnadir(最低値)を把握することが、糖尿病症例に対するインスリン製剤の評価に直接繋がることになります。

最後に、猫の糖尿病を発症させる基礎疾患のご紹介です。猫で多く知られている基礎疾患の一つに慢性膵炎が挙げられますが、多くの文献では慢性膵炎以外にも、表2のように様々な疾患が猫の糖尿病の基礎疾患になり得ることが明らかになってきています。猫の糖尿病は、人と類似しておりインスリン非依存型糖尿病(2型糖尿病)に分類されていますが、人の2型糖尿病も慢性的な基礎疾患が原因で糖尿病を発症することが明らかになっていることからも、猫の糖尿病を発症させる基礎疾患の検索こそ、予防的に糖尿病を発症させないためにも重要なことであると考えています(表3)。

猫の糖尿病は2つに分類され、先述しましたように人の2型糖尿病に類似するものを、インスリン抵抗性糖尿病、そしてインスリンの分泌が枯渇しているものを、インスリン欠乏性糖尿病といいます。前者は、インスリンの自然分泌が認められるものの、食後血糖値の上昇や血糖値の下降状況が著しく遅延したりする病態を示します。それら原因として、基礎疾患の影響により、様々な臓器におけるインスリンの反応(作用)の遅延が起こることで、血糖値の上昇が起こることが明らかになっています。猫の糖尿病は、基礎疾患→インスリン抵抗性→インスリン欠乏性の順番に病態を亢進させていくため、早期に基礎疾患を発見し、そしてインスリン抵抗性糖尿病の診断、寛解への糖尿病治療が非常に重要になってくるのです。そこで、今回ご紹介するのが、インスリン抵抗性糖尿病の診断方法として、私が利用しているのが経口・静脈糖負荷試験です(図2)。

糖負荷試験を行って外因的に導入された糖に対して、体内の血糖値とインスリン濃度が時系列に沿って正常もしくは異常に動くかを把握しない限り、正常または糖尿病と診断はできないのです。とくにヒトの2型糖尿病に類似するインスリン抵抗性を呈する猫の糖尿病では、非常に有意義な検査法であると考えています。
今回ご紹介した経口・静脈糖負荷試験では、頻回の血糖値測定およびインスリン濃度測定が必要になります。この検査を臨床の現場で実施するには、非常に飼い主さまのご理解が必要になってくることが、この検査の煩雑さを物語っています。しかしながら、この検査を実施することで、インスリン抵抗性糖尿病の定性的な有無が明らかになってくることから、迅速に寛解を目指した糖尿病治療を開始することができます。最後になりますが、インスリン抵抗性糖尿病を疑う際に、基礎疾患の検索と空腹時の血糖値およびインスリン濃度の測定をあわせて行う重要性が多くの先生にも伝われば幸いです。

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