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熱式流量計とは?(原理・特徴・用途を徹底解説!)

半導体製造や医療機器をはじめとする精密な流量制御が求められる分野で、「熱式流量計」は欠かせない計測機器です。可動部がなく、機械的な故障が少ないという特性を持つ熱式流量計は、気体の流量測定において非常に有効です。本記事では、熱式流量計の原理、特徴、主な用途についてわかりやすく解説します。

目次

熱式流量計とは

熱式流量計(別名:サーマル流量計)は、センサ部の温度の変化を利用して質量流量を測定する計測機器で、流体の圧力や温度の変動に影響されにくいのが特徴です。熱式流量計は、大学や研究機関での実験用途から、半導体・化学プラント・食品工場などの生産現場まで、幅広い分野で使用されています。

計測の仕組み

熱式流量計は、加熱されたセンサと温度センサを用いて、流体による熱移動の変化を検出し、そこから質量流量を求める方式の流量計です。流体が流れることで発生する熱の移動量をもとに、流量に換算します。

 構造の違いについて

熱式流量計には構造面で以下のようなタイプがあります。

全流量直接測定型
配管内を流れる全体の流体がセンサ部を通過する構造です。シンプルで取り扱いやすく、主に空調設備や排ガスモニタリングなどに使われます。

バイパス型(特にマスフローコントローラに多い)
流体の一部のみをセンサ部に分流し、残りはバイパス経路を通す構造です。センサ部とバイパス間の流量の比率を一定とすることで、センサで測定した値から全体の流量を高精度に推定します。半導体製造など微少流量の正確な制御が求められる分野でよく使用されます。

熱式流量計の特長と他方式との比較

熱式流量計は、気体の流量を測定するうえで高い精度と信頼性を持つ機器して、多くの現場で採用されています。ここでは、熱式流量計のメリット・デメリットに加え、他の代表的な流量計との違いについても比較表を用いて解説します。

熱式流量計のメリット

 可動部がなく、長期間の安定稼働が期待できる

構造がシンプルで機械的な可動部を持たないため、摩耗や経年劣化の影響を受けにくく、長期間の安定稼働が期待できます。日常的なメンテナンス負荷も軽く、ランニングコストの面で優れています。

 微少な流量に対しても高い感度で応答

熱式流量計は、非常に小さな質量流量変化にも反応できる特性があり、特に微量なガスの管理や、高精度な制御が求められる分野(半導体製造、分析装置、研究開発など)で多く採用されています。

 温度・圧力変動の影響が小さく、測定系を簡素化できる

熱式流量計は、流体の温度や圧力変動に対して比較的影響を受けにくい特性があります。そのため、使用条件によってはレギュレータが不要となる場合もあり、測定系をシンプルに構成できるメリットがあります。機器構成や設計工数を削減し、運用コストの低減にも寄与します。

 設置自由度が高く、省スペース化にも対応

流れの整流性に対する要求が比較的緩やかで、直管長の確保が難しい設備でも安定した測定が可能です。スペース制約の厳しい装置や既存配管にも柔軟に対応でき、取り扱いやすい特長のひとつです。

熱式流量計のデメリット

 液体を測定する場合には、気泡の影響に注意が必要

液体の測定では十分な配慮が必要です。気泡が混入する環境では、測定結果にばらつきが生じやすくなるため、安定した計測には事前に脱気する等工夫が求められます。

 流体の種類によってセンサの応答特性が異なる

使用する流体の物性によってセンサの応答が異なるため、事前に測定対象を特定し、それに合わせた校正が必要です。複数の流体を切り替えて使用する場合には、それぞれに対応した流量計を個別に用意するのが最も確実です。それが難しい場合は、流体に応じた計算値の適用や、ソフトウェアによるパラメータの切り替えなど、目的や精度要件に応じた対応が求められます。

 センサ部の状態管理が精度維持に影響する

センサ部への汚れや異物の付着は、測定精度に影響を及ぼす可能性があります。安定した運用のためには、工程終了時のパージやフィルタによる異物混入の防止、定期的な点検といった予防的な管理が重要です。必要に応じて、メーカーでの点検や再校正を行うことで、長期的な信頼性を確保できます。

 対応できる流体には限りがある

超高温・高圧の蒸気など、熱式方式の測定が難しい流体には対応していません。使用環境に応じて、適切な流量計方式の選定が重要です。

他方式との比較表

熱式流量計と主な流量計の違いを比較すると下記のようになります。

種類測定方式メリット主な用途分野
熱式流量計加熱素子と温度差で質量流量を測定微少流量に強い
高応答性・高感度
高精度測定
半導体、石油・ガス、化学、発電、食品・飲料製造、環境モニタリング
コリオリ式流量計チューブ振動によるコリオリ力で質量・密度を直接測定質量・密度の高精度測定が可能
液体・スラリー対応
成分変動にも強い
石油・ガス、化学、食品、医用
差圧式流量計オリフィスなどで発生する差圧を測定構造がシンプルで低価格
多用途に対応
高温・高圧・腐食性流体にも強い
石油・ガス、上下水道、化学、発電、半導体、空調
カルマン渦式流量計ブラフ体による渦周波数を計測高温・高圧・蒸気対応
可動部がなく耐久性が高い
工業プラント、発電所、空調、蒸気ライン
超音波流量計超音波の伝播時間差またはドップラー効果を利用非接触測定が可能
クランプオン対応
水、排水、石油・ガス、化学、医用、空調
電磁流量計液体の電磁誘導電位を測定低圧損で導電液体に対応
異物混入に強い
直線性が良好
上下水道、排水、石油・ガス、食品、化学

熱式流量計の主な用途

熱式流量計は、微少流量の高精度測定に優れ、多様な産業分野で活用されています。以下は代表的な適用例です。

 半導体製造

ウエハ製造における高純度プロセスガス(N₂、H₂、SiH₄ など)の精密な流量制御に使用されます。各種エッチング・成膜・ドーピング等の工程では、ガス流量の微少な変動が製品品質に直結するため、熱式流量計の高感度かつ安定した計測性能が求められます。プロセスの安定性と再現性の確保に不可欠な存在です。

 石油・ガス

ボイラーや加熱炉などで使用される燃料ガスやパージガスの質量流量監視に用いられます。温度・圧力変動に強く、微少流量の変化も高感度で検出できるため、燃焼制御や安全管理に適しています。

 化学

化学分野では、反応器や混合プロセスにおいて、高純度な保護ガス・キャリアガスの精密な流量制御に熱式流量計が不可欠です。腐食性の低い気体を対象に、微少な質量流量を安定供給し、温度・圧力変動の影響を受けずに工程の高い再現性を確保。これにより、反応収率の向上や製品品質の均一化に大きく貢献します。

 発電

発電所では、バーナー燃焼用の燃料ガスや、排ガス分析装置内での希釈ガス・キャリアガスの流量制御に熱式流量計が使用されます。温度や圧力変動の影響が小さく、質量流量を安定して測定できるため、燃焼効率の最適化や排出ガスモニタリングに貢献します。

 食品・飲料製造

食品・飲料の包装工程では、炭酸ガスや窒素の定量注入により酸化や微生物の繁殖を抑制し、品質保持やフードロス削減に貢献します。熱式流量計は、こうした気体の微量かつ高精度な流量管理に不可欠であり、植物工場における光合成促進のためのCO₂供給や、熟成調整に使われるエチレンガスの導入管理にも広く活用されています。

 環境モニタリング

環境モニタリング機器において排ガスや大気中ガスの測定・分析前の希釈空気やキャリアガス、校正用ガスの流量制御に不可欠です。微少流量を高精度かつ長期的に安定して計測できるため、装置内部のガス流量を安定的に保ち、測定精度と再現性を飛躍的に向上させます。

まとめ

熱式流量計は、気体の流量測定に特化した計測機器で、可動部がなく、機械的な故障が少ない機器です。半導体製造や食品製造、新エネルギー研究開発など、精密な測定が求められる分野で幅広く活躍しています。配管設計の自由度が高く、直管長の制約も少ないため、設置が容易で、温度や圧力の影響を受けにくい特性があります。ただし、汚れや異物がセンサに付着すると測定精度が低下するため、クリーンな環境での使用やフィルタによる予防的措置が重要です。

熱式流量計はMFC(マスフローコントローラ)のセンシング方式として主に取り扱われており、気体の流量制御の分野で広く使用されています。

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