アトム動物病院・呼吸器病センター

導入施設の紹介

東京都

アトム動物病院・動物呼吸器病センター

院長 米澤 覚先生

使用機器:動物用自動血球計数装置  LC-662
測定項目:CBC

細菌感染の有無、術前・術後の炎症変化、抗生剤処方の判断にもCBC検査・CRP検査でのスクリーニングは欠かせません。その中でCBC検査は、迅速でかつ少量の検体量で測定できるので、呼吸で苦しんでいる患者にとってとても大きなメリットとなります。

呼吸器疾患に興味を持たれたきっかけは?


呼吸器だからということで専門を目指していたわけではありませんでした。一般開業で様々な病気に出会いながら、治らない病気をなんとか治せないか?という想いが常にありました。例えば、まだ駆け出しの頃、猫の腎不全で困っている時に腎移植のセミナーに魅了されて受講し、本気で腎移植に取り組んだものでした。実際には1症例ですが、術後1年生存した症例があります。同じ頃にかかわったのが気管虚脱でした。教科書を真似して挑んでみましたが、治せずに亡くなりました。その後、ある研究会で小儀昇先生の発表を偶然聞き、自作したアクリル製のラセン形プロテーゼを用いた新しい治療法で、「気管虚脱は治る」と言い切った小儀先生の力強い言葉に衝撃を受けたのを今でも鮮明に覚えています。誰もが気管虚脱は治らない疾患だと思っていた頃、この発表は自分にとっても非常にセンセーショナルなものでした。

インタビューに答えてくださった米澤先生

その後、10年間で20症例の手術を行いました。ただ、非常に素晴らしいプロテーゼなのですが、経験するうちにいくつかの欠点が見えてきました。もっと良いものがあるのではないかと思索し、ついにその欠点を補う形で新形状のプロテーゼ:Parallel Loop Line Prostheses(以降、PLLP)を考案しました。使用感も良好で、治療成績も遜色ありません。あちこちで発表するようになり、後日小儀先生にお会いし、「素晴らしいプロテーゼです、気管虚脱は全て先生に任せました」と言っていただきました。心から尊敬する偉大な先生です。

2000年に先生が開発された気管虚脱の矯正器具PLLPでの外科的治療はどのような方法でしょうか?


小儀式プロテーゼ同様に熱可逆性である光ファイバー用のアクリル剤を用いたラセン形プロテーゼを用いています。ラセン形では気管への装着に時間がかかり、並行する気管軟骨への縫合に無理がありました。そこでラセンではない、立体的なジグザグ状の円筒形に変更したものがPLLPでした。ヒントはバインダーノートのとじ具です。この形状によって気管への装着が容易となり、気管軟骨への牽引縫合はより確実なものになりました。2000年から手術をはじめ2021年現在、手術症例は1100件を超え、1ヶ月生存率は96%、長期維持では15年経過している子がいます。形状やサイズなどは微調整がありましたが、開発当時からほぼ変わっていません。

手術の手順としては、頸部正中切開にて気管を起始部より第2肋骨付近まで広範囲に剥離し、この全範囲に気管径に合わせたサイズ(自作製で8〜22 mmまで1〜2 mm刻みに全13サイズ)のPLLPを装着します。モノフィラメントの非吸収糸を用いて、PLLPのリング一周につき気管軟骨へ4箇所と膜性壁へ2〜3箇所に対し気管内腔まで刺入した牽引縫合を、気管輪1つおきに12〜14列行います。縫合部からの空気漏れがないことを確認して閉創となります。手術時間は1時間半ぐらい、入院は2日程度です。
気管への牽引縫合は1回の手術で70〜80回は行いますので、細かく大変ではありますが、手技自体はそんなに難しい手術ではありません。ただ、呼吸器系の外科手術は大変危険な状態で手術に挑みますので、何かあると患者さんが亡くなってしまう危険性があります。術中と術後、何かあった時のリカバリーをどうするか、合併症があったらどうするか、そこが大きな壁ではあると思います。リスクは大きいですが、その反面、リターンも計り知れないほど大きいです。息が吸えないため紫色(チアノーゼ)で来院した子が、2日目にはきれいなピンク色(正常な色)で、元気に帰って行く。「こんなに元気になるなんて!」「こんなに散歩が好きになれたのは何年ぶりだろう」そんな飼い主さんの一言が聞ける醍醐味は、まさしく外科冥利につきます。

一次診療施設+呼吸器疾患の二次診療を加えた動物病院を開院しようと思われたのはなぜですか?


現在とは別の場所で、一次診療施設を開院して、今年で30年になります。2000年から気管虚脱手術を始めましたが、需要が多すぎて手狭になってきたので、6年前に現在の場所に引っ越しました。呼吸器で困っている患者が多いことは肌で感じていましたが、呼吸器の専門医制度もまだなく、独学でしかない私なんかがという戸惑いはありました。当時から呼吸器病を専門的に行っている動物病院は少なく、特に呼吸器外科を得意とする動物病院は大学病院も含めて皆無でした。戸惑いはありましたが、諸先輩や獣医仲間からの後押しもあり、せっかくやるなら…と動物呼吸器専門の医療センターを冠して開院を決めました。

犬と猫の来院比率はどれくらいですか?


一般診療を含めた来院比率は犬:猫=7:3となり、その来院数の8割が呼吸器疾患になります。 呼吸器疾患での犬:猫の比率は8:2ぐらいでしょうか。犬の呼吸器疾患が多いですが、一般的に多いといわれている短頭種の呼吸器疾患より、当院では短頭種に限らず気管虚脱の方が多いという印象があります。

短頭種気道閉塞症候群の中でも、外鼻孔狭窄、軟口蓋過長症、喉頭虚脱、気管低形成、気管虚脱が多く、特に外鼻孔狭窄、軟口蓋過長症が一番多いと思います。これらの病気は、若いうちだったら手術は大変ではないのですが、高齢や病状の経過が悪いなどで、喉頭虚脱という、手術でも治らない病気へ悪化する場合があります。この病気を診断するには内視鏡を入れないと状態がわからないのですが、喉頭虚脱を起こしている子に麻酔をかけると、抜管ができないというケースも起こりえます。そのため、非常にリスクが高くなるので、軟口蓋過長症のみの症状でも当院にご紹介される先生もいらっしゃいます。短頭種への麻酔が怖いという認識があるためです。

拭き掃除が徹底された手術室

麻酔について触れていただきましたが、麻酔の管理はどうされているでしょうか?


麻酔専門医はいませんので、誰もが順番に担当しています。呼吸器疾患は呼吸器のどこかが狭くなっているから症状がでるわけですから、狭くなったところを広げられたら(解除できれば)、楽になります。手術でむしろ神経を使うのは、気管チューブを入れるところです。それがうまくいけば、循環器への合併などの深刻な症状がない限り、麻酔自体特殊なものではないと思っています。

月に何例くらい来院されますか?


一般診療含めてトータルで500件は超えています。現在は、完全予約、時短診療としましたが、呼吸器外来の患者は確実に増えており、こなすのが少し大変になってきています。主に、インターネット経由や先生からのご紹介が多いですが、飼い主様同士のつながりで来院される患者も増えています。
今では、気管虚脱の手術症例は1100件を超え、44都道府県からの患者を手術しました。もうすぐで全国制覇です(笑)。また、海外でも台湾・北京・上海・香港・カリフォルニア・スイスからの患者を治療した経験もあります。

呼吸器疾患の中でCBC検査をどのように活用されていますか?


細菌性感染があるかどうかを見るためには必須です。どういう理由で白血球が上がっているのか?白血球の種類としてはどうなのか?を必ず見ています。値がおかしければ、正確には血液塗抹標本を作製してみるということになりますが、臨床の現場では、なかなか塗抹をひけない状況もあるため、これまでの運用から装置の精確性を信用し、まずはスクリーニングして、その結果から塗抹をひく必要があるかどうか判断します。
好酸球性肺炎、気管支炎、ケンネルコフは、二次感染として細菌による気管支炎だったり、肺炎だったりが出てくることがあるので、その場合にCBC検査とCRP検査を行い、抗生剤をどうするか?の判断が必要になってきます。さらに可能であるなら採材をして、細菌の有無、感受性試験を行い、有効な抗菌剤を使用すべきです。薬剤耐性菌が現在の人医療を脅かすような存在にありつつある現状では、医師のみならず獣医師も十分に考慮しなければなりません。そのためにもスクリーニングとしてCBC検査とCRP検査をまず行い、白血球、特に白血球の中の何が変化しているか?を確認することが重要です。気管虚脱の手術時は、術前と術後の炎症がどのくらいでているのか、CRP検査と併せて見ています。 全頭で術前の気管内分泌物の細菌学的検査を行いますが、結果が出てくるまでに時間を要するので、抗菌剤をいつまで投与するかが大きな鍵となります。

CBC検査を導入して良かった事例があれば教えてください。


検体量が少なくて済み、結果表示までが迅速で、正確であることです。特に少ない検体量で測定できるため個体を選ばず、多く使用しています。例えば、1kgの子犬や子猫から生化学検査・CRP検査・CBC検査のための採血は比較的大変で、特に呼吸器疾患の子は苦しい状態で採血しなければならないため、検体量は少ない方が良いです。

一般の獣医師で呼吸器疾患を見る場合、実施するべき検査や専門医へ紹介するタイミングなどアドバイスがありましたら教えてください。


まずは一次診療で、既往歴、呼吸状態、症状の確認、そしてX線検査の実施をお願いしたいと思います。特にラテラル像での呼気、吸気時の撮影をお勧めします。これだけでも気管を中心とした多くの情報が得られます。頸部気管、胸部気管および葉気管支の病変、さらに肺野の状態を把握し、それでも判断がつかなかった場合などには早めに紹介いただければと思います。治らない状況を長く維持することで、むしろ病態が進行することも十分考えられます。今は、専門分野が分かれてきていますし、飼い主さんも遠方でも頑張ってきてもらえる時代です。呼吸器に限らず、全部の疾患を自分で抱え過ぎず、得意な先生に診てもらう方が患者のためでもあると思います。

呼吸器疾患で苦しんでいる患者のレントゲンをとるのは、結構大変だと思うのですが、そのコツはありますか?


呼吸状態があまりに悪い子は絶対に無理は禁物です。横臥姿勢だけでも危険なこともあります。興奮している子も無理しないほうが賢明で、酸素マスクやICUを利用して酸素化をはかる、高体温であれば冷却する、興奮状態であればしばらく興奮が収まるまで待つなどの工夫をします。高体温であれば直ちに氷や冷水をかけるなどして冷やします。無理な場合には最低限の情報でも良い、それでもダメなら無理して撮らないこともあります。

今後どのような活動に力を入れていきたいと考えていらっしゃいますか?


気管虚脱が治らないと思っている先生がまだまだ多いと思っています。頸部のみの虚脱であれば、グレードに関わらずほぼ根治可能です。放っておくと頸部から胸部へ、さらに葉気管支まで潰れてきます。そこまで潰れると残念ながら根治は難しく、咳は残ってしまう。この見極めが重要で、手術時期の見極めや、危険はどこに潜んでいるのかなどを知っていただきたいと思っています。私自身も手術症例が1100症例を超えましたが、未だに勉強中です。

1000を超えて見えてきたこともあります。今でもまだもっと良いものが、良い方法があるのではないかとも考え続けていますが、多くの症例に教えてもらった経験と研鑽してきた技術を次の世代に伝えてゆく時期に来ているとも感じています。ついに還暦を迎えた自分ですが、バリバリの現役も永遠ではないでしょう。まだまだ老け込む気はありませんが、小儀先生から続く正統派の継承はして行かなくてはいけない。いくつもの施設でちゃんとした手術ができるようにしたいと思っています。そのためには、まずは論文を書いて学術的な理解を得、日本のみならず世界にも広めていく活動が必要と思っています。

また、気管虚脱だけでなく、喉頭麻痺に対する新しい治療法を2018年に生み出しました。これは治療法がないと言われる喉頭虚脱にも応用が可能です。危険性は伴いますが、今までなす術がなく、最悪は永久気管切開しかないという状況からは大きな前進ですので、さまざまに発信していきながら啓蒙活動していきたいと思います。呼吸器外科において、治らない疾患に勇敢に立ち向かう熱意と度胸をもった獣医師が、一人二人とあちこちで立ち上がるきっかけとなれば幸いです。そして、アトム動物病院・動物呼吸器病センター、その本丸での跡継ぎが欲しいですね(笑) 。勤務医大募集中です。

施設インフォメーション

病院名アトム動物病院・動物呼吸器病センター
住所東京都板橋区徳丸1-5-15
電話03-3935-6355
ウェブサイトwww.atom-ah.com

ワンタッチでイヌ・ネコ切り替え。
吸引量10 μL。診断に必要な検査結果を、約70秒で表示します。

製造販売届出番号 :
22動薬第1806号

※本製品は、MICROSEMI Corporationといかなる関係もありません。


苦しい子・痛い子をなんとか治したいという院長の熱意・想いがスタッフに伝わり、一丸となるチーム作りをされています。まずは、 清潔で綺麗な病院であることが最低限であるとの思いが随所から感じられ、院長自ら設計に多く携わったとの事から、空間を非常にうまく使った病院でした。隅から隅まで掃除が行き届いている清潔な医局で、インタビューさせていただきました。「治らないと諦めている疾患をなんとかしたい、その為の苦労は惜しまない。」自信に満ち溢れた表情でお話されたのが印象的でした。

(2021年10月取材)

※掲載している情報は取材時点のもので、現在とは異なる場合がございます。


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