CBC検査における目視確認の重要性
~赤血球を見る~

ひとみ動物病院

院長 人見 誠先生

CBCとはComplete Blood Countのことであり,検査の目的は血球数を正確に把握することにあります.また血球数に加えて,塗抹の検鏡により血球の形態,白血球分画,血小板凝集の有無,大小不同など追加情報を得ることも重要です.我々が日常使用している全自動血球計数装置は,血球の数を数える手間を省き,迅速に血球数を示してくれる便利な機械ではありますが,加えて血液塗抹標本を作製し,入念に観察することが必要です.

血液塗抹標本からは多くの情報を得ることができます. その為には良好な塗抹標本を作製することと,適切な染色を行うことは言うまでもありません.
今回は貧血で来院した症例をまじえて赤血球について考えてみたいと思います.貧血を呈した症例に対しては,貧血の原因を慎重に検討すべきです.貧血の鑑別診断リストから血液塗抹で除外できるまたは診断できるものも数多くあります.

 今回紹介する症例です.

<ヒストリー>

  • 生後5ヵ月齢の時に尿の色が濃くなったと近医を受診
  • このときのPCV(Hct)は10%
  • IMHA(免疫介在性溶血性貧血)と診断され,プレドニゾロンにて加療するが改善を認めず,その後脾臓摘出術を施された
  • 術後,貧血の改善なく当院に来院

<症例>

ラブラドール・レトリバー,6ヵ月齢,未去勢雄

<血液検査所見>

RBC・PCV・Hb(Hgb):低値
MCV・Reticlo(網赤血球数):高値
Plate(PLT):低値
RPI(網赤血球生産指数):>2.0
«評価» 重度の貧血,再生性貧血,血小板減少

<鑑別診断リスト>

出血,IMHA,エバンス症候群,バベシア症

<血液塗抹像(ライト・ギムザ染色)>

※対物レンズ 油浸100倍

赤血球:大小不同,多染性赤血球,Babesia gibsoni
*球状赤血球:認めず
血小板:大型血小板,数は少ない

<追加検査>

自己凝集試験:陰性

診断:バベシア症
本症例の生活環境はマダニの生息が確認されている山の上の地域であり,野外を自由に散歩していました.この問診と血球計数の結果の再生性貧血,大型血小板を伴う血小板減少によりバベシア症が疑えます.塗抹標本でBabesia gibsoni虫体を検出したことによりバベシア症と確定診断されました.

バベシア症は,血液塗抹標本でBabesia gibsoni虫体を検出することにより診断可能ですが,全てのバベシア症の症例で虫体が検出されるとは限りません.少数寄生例においては,塗抹標本では検出することができません.問診でバベシア症の可能性が否定しきれない場合は,PCRなどの検査を行う必要があります.

また問診の重要性も忘れていけません.他のバベシア症の症例でも問診の重要性を経験しています.普段の生活場所はマダニを認めない市街地ですが,時折山口県の実家に連れて帰っており,前回帰省の後から貧血を示したため近医を受診していましたが,診断されずに転院してきたという事もあります.

問診,CBCの検査所見,塗抹標本像の所見でバベシア症が疑われる場合は,著者は何枚もの塗抹標本を作成するようにしており,染色時間も通常の規定時間のものと長めに染色したものを作成することで慎重に検鏡しています.また場合によって第1病日は支持療法のみで対応し,第2病日に再度検査を行い,診断するようにしています.

本症例は輸血およびジナミンアセチュレート(ガナゼック®),クリンダマイシンにて治療を行いましたが,第97病日死亡と残念な結果になりました.適切な早期診断と治療により,結果が変わっていた可能性の高い症例でした.

本報告により,血球計数と塗抹標本をあわせて行う重要性が皆様にも伝われば幸いです.今回は赤血球について書かせていただきましたが,著者は白血球分類を行う機器も所持していて便利に使ってはいます.しかし,必ず塗抹標本を作製し,確認を行っています.そうした診断は当院勤務医にも徹底させています.

 

2013年4月掲載
※内容は掲載時点の知見であり、最新情報とは異なる場合もございます。

施設インフォメーション

病院名ひとみ動物病院
住所京都府京都市左京区吉田上阿達町37-7
TEL075-761-0122
診療動物犬・猫
ウェブサイトhttp://www.vet-hitomi.jp/

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