CBC検査における目視確認の重要性 ~白血球を見る~

ごんた動物病院

院長 新山 亮先生

<血液塗沫標本観察の重要性について>

開院当初(8年前)は自動血球計数装置を所持していませんでした。今考えるとよくやっていたなと思います(諸先輩の先生方は経験されていることだと思いますが...)。当時は採血後にヘマトクリット管を回しバフィーコートと、塗抹上でhpf(×400)を参考にユノペット(計数盤)で白血球総数を算定していました。ある意味一番真面目に(!?)白血球を観ていた時期かもしれません。開院2年目には自動血球計数装置を購入し、スイッチを押して待つこと1~2分、出てくる印字結果を見て勤務医時代には感じなかったありがたみを感じてしまいました。この感覚は経験された先生にしかわからないかもしれません。
今では戦力として欠くことのできない自動血球計数装置ですが、その数値のみを頼りに診察を進めていくと思わぬ落とし穴を見過ごしてしまうことがあります。
当院で使用している自動血球計数装置は白血球を四分画してくれるとても便利なものですが、必ずしも塗抹上の分画と一致しません。また白血球個々の表情(形態)は教えてくれません。本稿では、少し症例に触れながら血液塗抹標本における白血球観察の重要性をお伝えできればと考えています。
塗抹標本を作成する前に、血液は体の臓器の影響を受けた細胞を含む液体であることを意識しておくとよいでしょう。つまり標本観察は白血球分類や形態観察を通して白血球に影響を与えている原因を探ることが目的なのです。

1.塗抹標本を観察するにあたって

白血球の形態を観察するにあたって重要なことは、血液塗抹標本の作成です。それぞれの好みはあると思いますが、当院ではEDTA-2Kを抗凝固剤として使用し、ひきガラス法で作成した塗抹をライトギムザ染色しています(簡易染色はとても便利なのですが、ライトギムザ染色を是非お勧めします)。塗抹の観察方法は塗抹スライドの作成方法にあった観察を行ってください。詳しくは成書を参考にお願いいたします。

2.白血球総数について

ほとんどの自動血球計数装置は総白血球数=有核細胞数になり、赤芽球(有核赤血球)をカウントしてしまいます。塗抹上の白血球数に対して赤芽球が5%以下の場合は問題になりませんが、5%以上になってくると補正をする必要が生じます。
表1では症例1、2で白血球総数が正常値範囲外でも分画を観察すると問題のない場合、症例3で白血球総数は正常値内ですが、分画は異常例を挙げています。塗抹だけで判断すると症例1、2は元気、症例3は急性の炎症でぐったり。また症例4画像では白血球総数と自動血球計数装置の分画のみで診断を進めてしまうと腫瘍性病変を見逃し、抗生物質の投薬で経過を見てしまうかもしれません。

図1:赤芽球塗抹標本

貧血からの回復期で赤芽球がたくさん見られます。
補正白血球数=自動血球計数装置の白血球総数×100/(100+有核赤血球)

図2:症例4画像
(血液塗抹標本、ギムザ染色、リンパ性白血病、2歳齢猫)

表1

※症例1、2、3は実際の症例ではありません。症例4-Aは自動血球計数装置の分画、Bは顕微鏡下での分画

3.白血球分画

白血球の分画はパーセンテージより総数で考える必要があります。白血球分画は100個を基準に分類しますが、当院での基準は表2を参考にしてください。好中球数は増減が多くみられる白血球です。好中球プールを頭に置きながら好中球数を考えると面白いと思います。(表3)。
炎症性白血球像:左方移動(注)と単球増加を伴う好中球の増加が典型的ですが、より重篤なものでは表1の症例3のような分画になります。また、慢性の炎症になると左方移動を伴わない単球やリンパ球の増加が好中球増加と一緒に見られるようになります。そのほか左方移動を伴わない成熟好中球増加はストレス反応(グルココルチコイド)や恐怖反応(エピネフリン)によっても起こります。最近は犬でCRP(C反応性たんぱく)や猫でSAA(血清アミロイドA)を同時に考慮することにより急性炎症の判断材料になります。
ストレス性白血球像:急なストレスを受けるとカテコラミンの影響でリンパ球や好中球の増加(特に幼猫)、また慢性的になるとグルココルチコイドの影響でリンパ球が減少(特に犬)します。
(注)好中球が減少し、桿状核好中球(幼弱な好中球)の絶対数と割合が増えること。これは辺縁プールを含めた好中球の減少にも起因します。

表2

表3

4.形態観察

白血球の形態異常は分画数と一緒に考えていきます。正常な形態であることが診断につながることもあります。
例)
○ 好中球の中毒性変化(細胞質の空砲化)、猫ではデーレ小体が有用(軽度の中毒症例)。
○ 異常リンパ球(免疫疾患、リンパ系腫瘍)
○ ジステンパーの封入体
これらの形態異常や正常な白血球の観察に欠かせない良い参考書がたくさんでていますので、そちらを参考にされてください。

5.最後に

 白血球の分類や形態異常を観察することによって、細胞はいろいろなことを教えてくれます。 日々の診療に自動血球計数装置はとても便利で、ともすれば経過のよい症例の塗抹標本確認がおろそろかになってしまいます。 「大丈夫だろう」診断にならないよう、基本に忠実な日々の診療に努めるよいきっかけをいただきました。末筆ながらお礼申し上げます。
本稿が苦しんでいる動物の治療と、ご家族に安心をお届けできる一助になれば幸いです。

参考図書:「BSAVA犬と猫の血液顎と輸血医療マニュアル第2版、Michael J. Day」「伴侶動物の臨床病理学第2版、石田卓夫、緑書房」「2013年日本臨床獣医学フォーラム地区大会、血液塗抹標本観察の重要性ー白血球総数だけでは何を見逃しているのかー、石田卓夫」

 

2016年6月掲載
※内容は掲載時点の知見であり、最新情報とは異なる場合もございます。

施設インフォメーション

病院名ごんた動物病院
住所大阪府高槻市竹の内町71-8
TEL072-661-2828
診療動物犬・猫・ハムスター
ウェブサイトhttp://gonta.pro/

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