差圧式マスフローコントローラ(差圧式MFC)は、流路に設けた抵抗体(絞り・流路抵抗など)の前後に生じる圧力差(差圧)から流量を算出し、バルブを制御して設定流量を維持する方式の流量制御機器です。
差圧と流量の関係や、差圧式流量測定の基本原理について、以下で解説しています。
▶ 差圧式流量計とは?(原理・特徴・用途を徹底解説!) - HORIBA
差圧式MFCは、流路に生じる差圧を利用して流量を求め、その値をもとにバルブを制御することで流量を一定に保つ装置です。
流路内には抵抗体が設けられており、流体が通過すると上流側と下流側の間に差圧が生じます。差圧式MFCでは、この差圧を圧力センサーで測定し、流量との関係式を用いて現在の流量を算出します。
算出された流量は制御回路に送られ、設定された流量と比較されます。制御回路はその差に応じて制御バルブの開度を調整し、ガスの供給量を増減させます。この調整は連続的に繰り返されており、外部条件が変化しても流量が設定値に保たれるよう制御されています。
※図は差圧式MFCの構造一例です。リストリクター(抵抗体)の前後に生じる差圧を圧力センサーで検出し、流量制御に利用する構成を示しています。実際のセンサー・抵抗体などの構成・構造は製品や方式によって異なります。
差圧式MFCでは、流路内に生じる差圧をもとに流量を求めます。差圧式流量測定では、流路内に設けた抵抗体によって流れの状態を変化させ、その前後に圧力差を発生させます。流体が抵抗体を通過すると圧力損失が生じ、その結果として上流側と下流側の間に差圧が生じます。
一般に差圧式流量測定では、差圧の大きさから流量を算出する関係式が知られており、この関係を利用して流量が求められます。
なお、差圧と流量の関係は、抵抗体の形状や流路設計、流れの状態(層流/乱流)によって変化します。例えば、乱流状態では差圧が流量の二乗に近い関係となり、流量は差圧の平方根から求める扱いが一般的です。一方、層流状態では差圧と流量がほぼ比例関係になる場合もあり、流路設計によって測定特性が変わることがあります。
※差圧と流量の関係や具体的な計測方式については、以下のページで詳しく解説しています。
▶ 差圧式流量計とは?(原理・特徴・用途を徹底解説!) - HORIBA
差圧式マスフローコントローラ(差圧式MFC)は、差圧を測定して求めた流量をもとに、設定した流量を供給し続ける方式です。流路構造や圧力条件を前提に流量を制御するため、同一条件での再現性や長期的な安定性を重視する用途に適しています。
一方で、流量は差圧から算出されるため、流体物性や圧力条件、流量レンジの影響を考慮した設計・選定が重要です。
ここでは、差圧式MFCの主な特長と、使用時に理解しておきたい点を整理します。
■ 構造が比較的シンプルで安定性が高い
差圧式MFCは、流路に設けた抵抗体の前後に生じる差圧を測定する構造を基本としており、計測原理が比較的シンプルです。
流体の圧力という物理量をもとに流量を求めるため、流路構造や使用条件が安定している環境では、長時間の運転でも安定した流量計測・制御を行いやすい方式です。
■ 流路設計によって流量特性を調整できる
差圧式MFCでは、流路に設ける抵抗体の形状や流路設計によって差圧と流量の関係が決まります。そのため、装置の使用条件に合わせて流量特性を設計できる点が特徴です。近年では、流路設計の工夫により、差圧と流量の関係を扱いやすくし、特定レンジでの制御安定性や低流量域への適用性を高める技術も用いられています。
■ 長期再現性を確保しやすい
差圧式MFCは、流路内の圧力情報をもとに流量を求める方式であるため、流路構造が安定している環境では長期的な再現性を確保しやすいという特徴があります。特に装置条件が一定で長時間運転するプロセスや、流量条件を繰り返し再現したい用途で使用されます。
■差圧式MFCでは、流体の密度や粘度などの物性が流量計算に影響する場合があります。そのため、対象ガスや使用条件に合わせた補正が重要になります。近年では、実ガス特性を考慮した補正や、多点データに基づく補正手法により、実環境に近い条件での流量精度向上が図られています。
■ 流量は差圧から算出される値である
差圧式MFCでは、流量を直接測定しているわけではなく、流路に生じる差圧を測定し、その値から流量を算出しています。このため、流量は差圧と流路条件の関係式に基づいて算出される値となります。
また、差圧式の流量算出では、流体の密度や粘度などの物性、温度・圧力などの使用条件が影響する場合があります。そのため、使用条件に応じた設計や補正を前提として運用することが重要です。
■ 流量測定範囲(ターンダウン比)が限られる場合がある
差圧式の流量測定では、差圧と流量の関係式の特性や、差圧検出の分解能などにより、測定できる流量範囲が限られる場合があります。1台で非常に広い流量範囲をカバーしたい場合は、他方式を含めて検討することが重要です。
■ 圧力損失が発生する
差圧式流量測定では、抵抗体を設けることで差圧を生じさせています。そのため、流量測定と引き換えに一定の圧力損失が生じます。装置全体の圧力条件や供給圧、背圧の条件を踏まえて選定することが必要です。
■ 流体物性や条件の変化に影響を受ける場合がある
差圧式MFCは、流体の密度や粘度などの物性、温度・圧力条件の変化によって、流量算出に影響を受ける場合があります。
条件変化が大きい用途では、補正方法や使用条件を確認したうえで選定することが重要です。
差圧式MFCは、流路設計や補正技術の改良より、従来の制約を低減しつつ適用範囲を広げています。特に、層流域を活用した流路設計や、実ガス特性を考慮した補正技術により、低流量域や高精度用途への対応を図った製品もあります。
製品ごとの設計思想や技術によって性能は異なるため、用途や要求精度に応じた選定が重要です。
▶ CRITERION™ Series 高速応答・高精度マスフローモジュール D700MG - HORIBA
差圧式マスフローコントローラ(差圧式MFC)は、流路に生じる差圧から流量を算出し、制御する方式です。そのため、装置条件(供給圧・背圧・温度など)を前提として流量レンジを設計し、同一条件での流量再現性を重視する用途で使用されます。
※差圧式は圧力・温度などの条件の影響を受けるため、使用時は装置側の条件と流量レンジを踏まえた設計・運用が重要です。
■ プロセス装置でのガス供給(再現性重視)
成膜・反応・混合などのプロセスでは、流量条件のわずかな違いが結果に影響することがあります。差圧式MFCは、装置条件を一定に保った運用において流量の再現性を確保しやすく、プロセス条件の安定化を目的としたガス供給に用いられます。
■ 評価・試験(同一条件で比較)
触媒評価やセンサー評価など、複数条件を比較する試験では、流量条件を揃えることが前提になります。差圧式MFCは、あらかじめ設定した条件をもとに流量を再現できるため、評価・試験における基準条件の維持に利用されます。
■ 分析計の校正・点検(段階的に条件を作る)
分析計の校正や装置の立上げでは、複数の流量条件を段階的に設定し、それぞれの条件を繰り返し再現できることが求められます。差圧式MFCは、装置仕様に合わせて流量レンジを設定し、その範囲内で安定した流量条件を作る用途に適しています。
■ 選定・設計の考え方(レンジを決めて運用)
差圧式MFCは、供給圧・背圧・要求精度などの条件に応じて流量レンジを設計し、その範囲内で安定運用する使い方に適した方式です。一方で、1台で非常に広い流量範囲をカバーする用途では、他方式を含めた選定が行われることもあります。用途に応じて、必要な流量範囲と制御条件を整理したうえで方式を選ぶことが重要です。
装置例や活用シーンを見たい方はこちら
▶ マスフローコントローラ 活用事例集 - HORIBA
マスフローコントローラにはいくつかの検出方式がありますが、代表的なものとして「熱式」と「差圧式」があります。どちらも流量を一定に制御する装置ですが、流量の捉え方(測定の考え方)が異なります。
熱式MFCは、流体が熱を運ぶ性質を利用して流量を検出する方式であり、質量流量を基準とした制御を行います。
一方、差圧式MFCは、流路に生じる差圧を測定し、その関係式から流量を算出する方式です。
■ 方式の違いは「優劣」ではなく「前提条件の違い」
熱式と差圧式は、どちらが優れているという関係ではなく、どのような条件で流量を制御したいかによって適した方式が異なります。例えば、以下のような条件によって選定される方式が変わります。
・流体の種類や物性が変わる可能性があるか
・装置の圧力条件(供給圧・背圧)がどの程度変動するか
・必要な流量範囲(微少流量か、中流量か)
・長期的な再現性や安定性をどの程度重視するか
■ 比較は「測定原理」と「使い方」で見ることが重要
熱式MFCと差圧式MFCを比較する際は、単純なスペック比較だけでなく、測定原理と装置条件の関係を踏まえて理解することが重要です。
以下に、両方式の違いを整理します。
| 観点 | 熱式MFC | 差圧式MFC |
|---|---|---|
| 測定原理 | 流体の熱輸送(温度差)を利用 | 流路の差圧(ΔP)を測定 |
| 測定の考え方 | 質量流量を基準に検出 | 差圧から流量を算出 |
| 測定対象 | 質量流量 | 差圧(→体積流量相当) |
| ガス種依存性 | 大きい (ガスごとの校正が必要) | 熱式ほど大きくはないが物性の影響は受ける(物性=密度・粘度等) |
| 圧力・温度の影響 | 比較的受けにくい (条件変動に強い) | 条件の影響を受ける (設計・補正が前提) |
| 流量レンジ (ターンダウン) | 広い (一般に数十:1以上) | 限定的になりやすい (一般に数倍程度、設計に依存) |
| 微少流量への適性 | 高い (0.1SCCM以下領域にも対応) | 一般的には不向き (設計により改善される場合あり) |
| 応答特性 | 比較的速い | 流路設計・圧力条件に依存 |
| 長期安定性 | センサードリフトの影響あり | 構造的に安定しやすい |
| 汚れ・付着の影響 | センサー部に影響が出やすい | 抵抗体・流路条件の影響を受ける(設計依存) |
| 圧力損失 | 比較的小さい | 抵抗体により発生する |
| 主な使い方 | 幅広い条件に対応する汎用用途 | 条件を定めて再現性を重視する用途 |
ここまで見てきたように、差圧式マスフローコントローラ(差圧式MFC)は、流路に生じる圧力差を利用して流量を求め、その値をもとに設定流量になるよう制御する流量制御機器です。
差圧式MFCは、流路構造と圧力条件を前提に流量を制御する方式であり、同一条件での再現性や長期的な安定性が求められる用途で使用されます。
一方で、流体条件の影響や流量レンジの制約があるため、使用する装置条件に応じた設計・選定が重要になります。方式ごとの特性を踏まえ、用途や運用条件に応じて適切な方式を選ぶことが重要です。
用途に応じた選び方や他方式との違いについては、以下のページもご参照ください。
▶ マスフローコントローラとは - HORIBA
▶ 熱式マスフローコントローラとは - HORIBA
▶ マスフローコントローラ 活用事例集 - HORIBA
