京都大学化学研究所 創立100周年記念特別展

―HORIBAとの縁(えにし)と産学連携の原点をたどる

京都大学化学研究所創立100周年記念特別展が、2026年の秋に、京都大学総合博物館で開催されます。
京都大学化学研究所が歩んできた100年の歴史をたどるとともに、日本の化学研究を支えてきた化学遺産や、そこから広がった産業とのつながりを見つめ直す展示です。
そして今回の特別展は、HORIBAにとっても特別な意味を持っています。

京都大学化学研究所第3代所長を務めた堀場信吉、そして京都大学で物理学を学んだ創業者・堀場雅夫。堀場製作所の背景には、京都大学の研究スピリットと、そこから生まれたベンチャー精神、さらに産学連携の系譜が息づいています。

特別展の公開を前に、京都大学総合博物館の塩瀬 隆之 教授、そして京都大学化学研究所 広報企画室の武田 麻友 室長への取材をもとに、その見どころを紐ときます。

化学研究所 創立100周年記念特別展が描く、日本の化学研究の軌跡

京都大学化学研究所の起源は、1915年に設置された化学特別研究所にあります。正式な発足は1926年で、2026年がちょうど100周年にあたります。
化学研究所の成り立ちについて、化学研究所 広報企画室の武田 室長は次のように語ります。

「その始まりは、第一次世界大戦下でドイツから輸入できなくなった薬剤を、国内で生産しようとしたことにありました。化学特別研究所では、合成薬サルバルサンの製造に取り組み、当時の特許証も残されています。
その後、高槻に本館が整備されると、研究所の周囲には実験工場が建ち、繊維、ガラス、燃料など、社会の要請に応える研究が進められていきました。研究成果を実験室の中だけにとどめず、製品化まで見据えていたことも、化学研究所の大きな特徴です。」

100周年記念特別展では、こうした化学研究所の歩みを、研究史と産業史の両面から見せていきます。

“研究の過程を見せる”大学博物館だからこそ伝わること

京都大学総合博物館

記念特別展の会場は、京都大学吉田キャンパスにある京都大学総合博物館です。

総合博物館は、南側に自然史、北側に文化史、2階中央に技術史が配された構成で、京都大学の研究の広がりを一つの建物の中で体感できる場となっています。企画展示室ではこれまで、数学、隕石、ゾウなど、多彩なテーマの展示が行われてきました。

大学博物館ならではの特徴について、総合博物館の塩瀬教授はこう語ります。

「資料、つまり根拠がなければ研究にはなりません。逆に大学博物館資料は研究して初めて価値が生まれるんです。だからこそ、研究の過程を見せていくのが他館と比べた大学博物館の特徴になります。一般的な博物館のように、有名な資料や見た目に華やかなものを集める予算があるわけではありません。いずれも、研究者が研究のために集め、残してきたものが結果として資料になっており、それを通じて“研究の過程”そのものを見せる。そこに大学博物館ならではの魅力があります。」

京都大学は創設後まもない1914年には早くも陳列館を設け、標本や研究資料を保存することを重視してきた長い歴史があります。化学研究所100周年展もまた、成果だけを並べるのではなく、研究の蓄積とその根拠を伝える展示になります。

  

化学遺産が語る、研究から社会実装へのダイナミズム

今回の展示の大きな見どころの一つが、化学研究所が所蔵する化学遺産です。化学研究所は「化学に関する特殊事項の学理及び応用の研究を掌る」を設立理念とし、社会の要請に応える化学研究を主眼に発展してきました。人造石油に関する研究と工業化、ビニロンの開発など、化学分野における歴史的業績を数多く残しています。展示の核となる化学遺産について、武田室長は次のように語ります。

京都大学化学研究所 広報企画室 武田 麻友 室長

「今回の特別展では、日本化学会から化学遺産に認定された資料4点を公開します。そのうち2点は、国立科学博物館の重要科学技術史資料にも登録されています。

数ある研究のなかから、『人造石油』と『ビニロン』を展示の中心に据えています。
戦前・戦中に児玉信次郎先生らが取り組まれた『人造石油』は、終戦を迎えて実際に運用されることはなかったのですが、その技術が他の研究へと広がり、ポリエチレンの国内製造などへとつながっていきます。
桜田一郎先生らが発明した『ビニロン』は、アメリカのナイロンに続いて開発された国産初の合成繊維で、学生服や防火持ち出し袋などにも使われました。研究成果が社会に届き、人々の暮らしの中に入り込んでいったことを、実物を通して感じてもらいたいです。

一つの研究が次の研究へ、さらに次の産業へとつながっていく。
100周年記念特別展では、そうした“研究の連鎖”をたどりながら、化学研究所の歩みと、いま現在、さらにこれからの未来も感じていただけたらと思います。」

 

  

HORIBAとの縁(えにし)をたどる―第3代所長 堀場信吉博士の存在

化学研究所100年の歴史の中で、HORIBAとの縁を語るうえで欠かせないのが、第3代所長を務めた堀場信吉の存在です。
堀場信吉について、武田室長はこう紹介します。

「堀場信吉先生は、京都大学化学研究所の第3代所長として、研究所の発展を支えた中心人物の一人です。高槻時代の化学研究所では、コロイド化学をはじめとする研究を進める一方、特許取得や製品化にも取り組み、研究所の運営を支えました。これは現在の『産学連携・医工連携』の先駆けと言えます。」

特別展では、堀場信吉の講演記録や、ネオシルバーゾルのようなコロイド系消毒薬を戦地に送った記録写真などが展示されます。
武田室長によれば、堀場研究室は化学研究所の中でも大規模で、喜多研究室(喜多源逸。化学研究所第2代所長で、人造石油や合成繊維の研究を先導)に次ぐ存在感を持っていたといいます。今回の特別展では、化学研究所の発展を支えた研究者としての堀場信吉の姿にも光が当てられます。

[写真左]堀場信吉 博士

大学は“0から1をつくる”場所―京都に息づく産学連携の思想

[写真左] 堀場製作所 創業者 堀場雅夫 [写真右]国産初のガラス電極式pHメーター

堀場製作所の創業者である堀場雅夫は、終戦から2か月後の1945年、京都大学在学中に堀場無線研究所を設立しました。当初は電解コンデンサの開発に取り組みましたが、その製造工程で必要だったpHメーターに着目し、輸入品に頼らない国産化に挑戦します。物資の乏しい時代に試行錯誤を重ね、1951年6月、国産初のガラス電極式pHメーターを完成させました。これが、後のHORIBAの原点となります。今回の特別展では、その国産初のpHメーターも展示される予定です。

武田室長は、pHメーター開発の背景にある京都大学の研究風土について、こう話します。

「pHメーターの開発には、京都大学での研究が生かされていると聞いています。京都大学や化学研究所では、最先端の研究に取り組むからこそ、必要なものを自分たちでつくるところから研究が始まる、という発想があります。そうした姿勢のもとで、大学周辺の企業と共同しながら研究に必要なものを開発していく文化が育まれてきました。そういう意味では、京都は産学連携の歴史が非常に古い地域だと思います。」

実際、化学研究所の歴史を見ても、大日本除虫菊株式会社(金鳥)との除虫菊研究、戸田工業株式会社との酸化鉄研究、日本電気硝子株式会社との結晶化ガラス研究など、基礎研究が産業界へと広がっていった事例が数多くあります。大学の研究が、企業との連携を通じて社会実装へとつながっていくという流れは、京都大学と技術開発企業との関係を語るうえで欠かせません。

京都大学総合博物館 塩瀬隆之 教授

今回の取材で特に印象的だったのが、塩瀬教授のこの言葉です。

「大学はやっぱり最初の “0” から “1”の基礎を作るところなので、大学のすぐそばに、その1を10にも、さらには100にもしてくれるような連携先があるってことが重要なんだと思います。」

この一言に、京都大学と京都の企業群の関係が凝縮されています。大学周辺の研究と、それを自ら形にする企業が京都大学の近くに育ってきた流れの中に、HORIBAの存在も確かにあるのです。

過去・現在・未来が交差する展示へ

今回の展示は、過去を振り返るだけではありません。100年の歴史に加えて、いま進行中の最先端研究にも触れることができます。ゲノム・エネルギー・バイオ・解析・機能材料・新物質という6つのコーナーを設けて、研究室や共同研究先の企業からの実物資料が展示されます。その舞台が京都大学総合博物館であることにも、大きな意味があります。

大学博物館の価値は、「研究の過程を見せること」にあります。だからこそ、京都大学化学研究所100周年記念特別展は、成果を並べるだけではなく、研究の蓄積と、その先に広がる未来までを伝える展示になっています。化学の専門家のためだけの展示ではなく、研究がどのように始まり、どのように積み重なり、どのように社会へ届いていくのか。そうしたダイナミズムに関心のある人なら、きっと楽しめるはずです。

そこには、日本の化学研究の歴史があり、その背景にある研究者たちの挑戦、大学の研究スピリット、企業へと受け継がれた実装の力があります。

大学は“0から1”をつくる場所。

その先を担う企業があるからこそ、研究は社会につながる。京都大学化学研究所100周年記念特別展は、そのことを静かに、しかし力強く伝えてくれるはずです。ぜひ会場で、その物語に触れてみてください。
 

京都大学化学研究所「碧水舎」

京都大学化学研究所 創立100周年記念特別展「京都の化学・化研の歴史」

会期:2026年10月7日(水)~11月29日(日)
場所:京都大学総合博物館
開館時間:9:30-16:30(入館は16:00まで) 休館日:月曜日、火曜日(平日・祝日にかかわらず)
PDF

リンク先から京都大学化学研究所 創立100周年記念特別展動画を視聴いただけます

あわせて訪れたいー京都大学総合博物館

子どもの自由研究にもぴったりな“研究のタネ”が詰まった場所

化学研究所100周年記念特別展を訪れるなら、ぜひあわせて見ておきたいのが会場となる京都大学総合博物館です。ここは、南側に自然史、北側に文化史、2回中央に技術史の展示が広がる、京都大学ならではの“研究の博物館”。見た目の珍しさだけでなく、「なぜこうなったのか」「どうやって調べたのか」までたどれるのが魅力です。

たとえば自然史の展示では、食卓でおなじみのマガキを入口に、「ほかのユニークな生存戦略をとった牡蠣はなぜ生き残れなかったのか」という進化と自然淘汰の視点に出会えます。
また、モグラのトイレに生えるモグラセッチンダケの標本からは、キノコの研究資料がモグラ研究へと広がっていったという、異分野研究の面白さも見えてきます。

さらに、ボルネオの熱帯雨林を再現したランビルの森のジオラマも見どころです。

「誰もしたことのない研究をするには、研究対象に誰よりも近づくこと、誰よりも長く見ること」

そんな京都大学に根付いた研究のスピリットは、自由研究のヒントにもなり、子どもたちの好奇心を大いに刺激してくれそうです。
技術史の展示では、実際に手で触れて動かせる模型もあり、「仕組みを体感しながら学ぶ」ことができます。文化史の展示では、吉田キャンパス・北部構内で偶然見つかったものや、調査チームによって発見された縄文土器や弥生土器なども紹介されており、「大学のキャンパスからこんなものが出てきたの?」という驚きも味わえます。

京都大学総合博物館は、ただ“珍しいものを見る場所”ではありません。研究の途中にある問いや、そこから広がる発見の面白さに出会える場所です。自由研究のテーマ探しにも、親子で楽しむ知的なお出かけにもぴったり。特別展とあわせて巡れば、京都大学の研究の奥行きをより立体的に感じられるはずです。

 

 

(インタビュー実施日:2026 年7月)
※掲載内容および文中記載の組織、所属、役職などの名称はすべてインタビュー実施時点のものになります。

 

関連サイト:

Home | 化学研究所創立100周年特設サイト

 

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