\はかせのひとこと/
エタノールなど有機溶媒を含むサンプルを測定する方に必見じゃ!
ガラス電極によるpH測定法は、ガラス電極と比較電の2本の電極の間に生じた起電力(電位差)を測定することで溶液のpHを求める方法です。
pH測定において、有機溶媒を含むサンプルは液間電位※1が発生し、指示値が安定するまでに時間がかかります。このような有機溶媒を含むサンプルを測定する際、比較電極内部液の流出量が多い※2の可動スリーブ構造の電極を用いると、液間電位の発生が抑えられ応答性の良い測定が可能となります。
今回は液絡部※3がセラミックタイプの9615S-10Dと、液絡部が可動スリーブタイプの9681S-10Dを使用し、有機溶媒を含むサンプルを測定した結果を紹介します。
※1: 比較電極の液絡部で発生する電位で、性質の異なる溶液が接するところで発生します。
※2: スリーブ形の比較電極内部液は0.5~8 mm/hrの水位が下がります。ただし、スリーブの閉め方により滴下量が異なります。 セラミック形の比較電極内部液は0.1~1.0 mm/hrの水位が下がります。
※3: 比較電極内部とサンプルの導通を取るための内部液が流出する微細な孔です。
<実験1>
9615S-10D、9681S-10Dを標準液pH 4.01とpH 6.86で2点校正を行い、30%エタノール※4を100秒間測定しました。測定は25.0℃条件下で攪拌状態で行いました。
<実験2>
次に実験1で使用した9681S-10Dを用いて、5%、30%、70%エタノール※4と、その原液である99.5%エタノールをそれぞれ値が安定するまで測定しました。測定は25.0℃条件下で攪拌状態で行いました。
※4: メスシリンダーを使用してエタノールを計量し、イオン交換水で希釈して、目的の濃度に調製しました。
実験1の結果を図1に示しました。9615S-10D、9681S-10Dともに最終指示値は同程度でしたが、9615S-10Dは値が安定し始めるまでに50秒程度要し、測定終了時まで常時指示値のふらつきがみられました。これに対して、9681S-10Dは浸漬後10秒程度で値が安定し始め、またその後もふらつきはほとんどなく安定し続けました。9681S-10Dの安定した結果は、液間電位が発生しにくい構造の効果によるものと示唆されます。
以上のことから、有機溶媒を含むサンプルにおいて、再現性が良く測定できるよう、9681S-10Dを用いることを推奨します。
実験2の結果を図2に示しました。5%と30%の場合、応答が良く、数値は数十秒で安定しました。一方で、エタノールの割合が大きい70%では値が安定するまでに5分程度、原液99.5%では更にそれ以上の時間を要しました。9681S-10Dにおいては、有機溶媒の割合が大きくなるほど値が安定するまでに時間がかかる傾向がみられました。
実験2の結果から、有機溶媒のpH測定においては一定量の水分を含有した状態で測定することを推奨します。
(注記)
水溶液ではpH7付近が中性([H+]と[OH-]が等しい)となりますが、有機溶媒を含むサンプルのpHを測定する場合は注意が必要です。 有機溶媒を含むサンプルにおいて、中性([H+]と[OH-]が等しい)が必ずしもpH7付近を示すとは限りません。これは、pHが水素イオン濃度(活量)を表す指標であり、有機溶媒と水溶液では[H+]と[OH-]の合計量がそもそも異なるからです。そのため、有機溶媒を含むサンプルでは、pH測定だけで酸性、中性、アルカリ性の程度を判断することはできず、あくまで水素イオン濃度(活量)の大小がわかる指標として扱わなければなりません。
図1 30%エタノールのpH測定値の経時変化
標準液(水溶液)で校正したため、pH値は参考値とします。
図2 9681S-10DにおけるエタノールのpH測定値の経時変化
標準液(水溶液)で校正したため、pH値は参考値とします。
\はかせの総括/
9681S-10Dは、有機溶媒を含むサンプルを安定して測定できることがわかるぞ。測定には水分も一定量必要じゃのぉ!
※記載されている内容は、予告なく変更することがあります。
