巻頭言: 堀場雅夫賞15周年にあたり

堀場 厚 | |   51

堀場雅夫賞アワードディレクター
株式会社堀場製作所 代表取締役会長 兼 グループCEO

第15回の節目を迎える2018年堀場雅夫賞を特集したReadout第51号の発行に際して,ここに一言述べさせていただきます。

今年,2018年に第15回を迎える堀場雅夫賞は,堀場製作所が創立50周年を迎えたことを記念して2003年に創設されました。本賞は,科学技術の発展に欠かすことので きない分析・計測技術の分野で地道に努力されている若手研究者の方にスポットライトを当ててサポートしたいとの趣旨で設立され,運営されています。あらゆる産業の分野において,研究開発と品質管理に欠くことのできない分析・計測技術の基礎を追求する研究活動へ敬意を表し,これを支援するために設けられた賞です。

今年2018年に創立65周年を迎えるHORIBAは,「おもしろおかしく」の社是を掲げて「ほんまもん」,すなわち世界ナンバーワンでオンリーワンの製品を生み出そうとする強い意志をその成長の原動力として,新技術や新製品の継続的な開発のため,経営資源を積極的に投入しています。

計測分析という一定の市場規模に於いて圧倒的なシェアをグローバルレベルで誇れる高度な分析機器を開発するためには,開発を一から全て自前だけで行うことは非現実的です。そこで我が社では世界各国のアカデミアと緊密に連携協力しながら新しい技術を製品に展開してきました。そのアカデミアのオリジナリティある研究を行っておられる若手研究者の方々を少しでも支援したいという,創業者の故堀場雅夫の強い「おもい」があって設立されたのがこの堀場雅夫賞です。

堀場雅夫賞では,毎回,特定のテーマを設定して研究を募集しています。初回となる2004年はHORIBA創業の礎となった「pH計測技術」をテーマとして募集し,東北大学の陶先生をはじめとする3名の方が受賞されました。以来,毎年異なるテーマを掲げて研究を募ってきましたが,時にはその時代に話題となった技術分野も取り上げています。2012年には,前年の福島第1原子力発電所事故を受けて「放射線計測」をテーマとして取り上げました。内容としては原発事故に関するというよりは,医療目的の放射線応用や核物理学における放射線計測などに関する研究が授賞しています。また,2016年には当時話題となりつつあった「自動運転を支える分析・計測技術」というテーマで募集しました。自動運転に必要な技術であると同時に他分野にも応用可能な基礎研究として,画像認識ロジックやセンサー信号解析手法,さらにはGPSに拠らない位置認識方法の研究などが評価されました。このように堀場雅夫賞では,話題となっているアプリケーション分野を指定する場合においても,研究内容としてはオリジナルで,他分野にも応用可能な基礎研究に着目して表彰するように努めています。

技術の進歩はますます加速しています。今年,2018年の募集テーマである「半導体製造プロセスにおける先端分析・計測技術」においても,第6回の2008年に一度取り上げた分野ですが,その時は「半導体分野における材料表面の非破壊分析計測」というテーマであり半導体のアプリケーションの中でも材料の表面分析に焦点をあてたものでした。しかし,今年は半導体プロセスの将来を見据え,いずれの受賞研究もプラズマ制御の発展に寄与する計測技術が対象となりました。

近年,わが国では基礎研究の衰退が問題となっています。大学も研究機関も,ある時はバイオテクノロジー,或いはナノテクノロジー,さらに近年のIoT(モノのインターネット),AI(人工知能)などと,時々の流行アプリケーション分野に資源を集中しますが,継続した基礎研究への投資が忘れられているのではないかという問題意識があります。アプリケーションは時の課題に応じて変わりますが,基礎の部分は流行に関わらず常に重要で,全てのアプリケーションの根底において必要となるものです。そして我々企業がアカデミアや研究機関の活動に期待するのはまさにこの基礎部分なのです。

堀場雅夫賞がわが国の基礎研究の振興の一助となり,真の意味で日本産業の国際競争力を高めることに少しでも貢献することを祈念してReadout第51号の巻頭言とします。