サッカーの試合を支える天然芝。その美しさと機能を維持するためには、大変な努力と知識が必要です。季節や天候による影響、選手たちの激しいプレーに耐えうる強度、そして観客にとっての美しい景観。そのすべてを実現することは、簡単なことではありません。特に、観客席に屋根のあるスタジアムは日陰が多くなり、風通りが制限されるため、芝生の生育には一層の工夫と努力が求められます。こうした芝生の管理には、専門知識と経験を持つグラウンドキーパーの存在が欠かせません。日々の水やりや肥料の調整、病害虫への対策など、細かな作業が積み重ねられています。
HORIBAは地域社会への貢献と環境保全への取り組みの一環として、2025年9月、京都サンガF.C.(以下、京都サンガ)にコンパクト型水質計「LAQUAtwinシリーズ」を贈呈しました。本製品が芝生の生育管理に貢献できるように、これから全力でサポートします。
贈呈にあたり、京都サンガのグラウンドキーパー責任者 児嶋浩人氏に芝生管理について、お話を伺いました。
京都サンガに入ったきっかけは、京都サンガの通訳をしている岡本剛人さんが大学時代の先輩で、直接お誘いを受けたことです。大学卒業のタイミングで京都サンガのチームマネージャーに空きが出たので推薦してもらい、3年間マネージャーとしてチームを裏から支えていました。
当時はまだサンガタウン(練習場)の芝生の管理は外注しており、毎日メンテナンスする習慣がなかったことから、グランドのコンディションは安定していませんでした。その状況を改善するため、練習場の芝生をクラブでの自主管理に変える話が上がり、マネージャーとして造園会社と接点があったことや、実家が農家だったこともあり、チームからグランドキーパーをやってみないか?と提案がありました。これが私のグラウンドキーパーへの転身となりました。
福島県にあるJビレッジ※で芝生管理をされていた方に京都に来ていただきました。3年間一緒に練習場の管理をしながら、芝生管理のいろはをしっかりと教えてもらいました。2011年に独り立ちをし、以降は独学でサンガタウンの芝生を管理しています。
実は当初、スタジアムの芝生管理はできればやりたくないなと思っていました。自社で管理ができることはうれしい反面、まわりのスタジアムの状況を見て、屋根付きスタジアムでの天然芝の管理が難しいことは知っていました。やりたいけれどやりたくないという複雑なおもいを抱えつつ、2年は屋根付きスタジアムの管理経験のある会社に管理を委託しながらノウハウを勉強しました。ただ、自分たちで管理をしたほうができることが多いのでは…?と感じることも多くなったので腹をくくり、2023年以降はスタジアムの芝生管理も行っています。
実際にやってみると、1、2年目は打ち砕かれました。管理を委託していたとき、自分なりに「もっとこうしたらいいかもしれない」と感じる部分もあったので、それを試してみたのですが、「だめだ、うまくいかない…」となり、スタジアムの芝生管理の難しさを実感しました。
プロのスポーツ興行としての観客の快適性を考えると屋根は必要不可欠ですし、声が反響する臨場感は客席に屋根があるからこそ大きな興奮を生むことができます。ただ、その一方で芝生が安定して生育できる日照時間の確保が難しく、場所によっても日照時間が変わります。ピークの夏至だと、グラウンドの中央で8時間、東側と西側で6時間の日照しかなく、季節によってはピッチの3分の1が日陰となります。
この限られた日照時間の中で芝生の強さと密度を確保するために、葉と茎部分には硝酸態窒素、リン酸、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウムなどを適量吸収してほしいのですが、光合成量の少ない中での窒素は植物の生育に特に大きな影響を与えるため、土壌にはあまり残留してほしくありません。現状、年に一度土壌を外部分析していますが、芝生自体の栄養管理はできていないため、LAQUAtwinを活用できればと思っています。
また、京都サンガでの経験だけでは限りがあるので、他のスタジアムを管理しているグラウンドキーパーの皆さんとも頻繁に交流しています。国立競技場の芝生の張り替えのお手伝いをする機会もあり、たくさんのグランドキーパーの方が来られるので、そこでも交流しています。密に情報交換をすることで、新しい知識や情報を取得して次の施策を考えています。
サンガスタジアムの芝生は季節によって夏芝と冬芝を使い分けていますが、3~6月は夏芝が萌芽しており、冬芝も生育の適期ということでハイブリッドになっている状態なので、強度もあって見た目もよくなります。
梅雨ぐらいから高温多湿に弱い冬芝にはつらい時期に入り、梅雨が明けると一気に温度が上がるため冬芝は枯死します。反対に夏芝にとっては生育の適期に入りますが、40℃近くまで上がり、夜でも気温が下がらない昨今の状況では光合成量より呼吸量が多くなり消耗します。もともと夏芝はアフリカなどの乾燥している環境で育ってきたので、温度が高い上、湿度も高い京都独特の気候や日照時間が短いスタジアムの環境はかなり過酷な環境です。ここで戦える芝生を作るのは本当に難しい。日本のスタジアムの中でも管理が難しいスタジアムに数えられると思います。今は早く秋になって涼しくなってほしいですね。
現在、練習場は3名、スタジアムは1名で管理し、試合時などでは練習場から応援に来てもらって2名で対応しています。
普段は朝7時頃に、グラウンドを歩きながらまずは芝生の状態を確認。歩きながら、ピッチの9か所で気温、地温、水分量を測定して、場所ごとにどれくらい散水するかなどを考えています。肥料は液体肥料をメインに週2回、芝刈りは生育ピーク時では週に3回程度行い、試合後はすぐにグラウンドに出て、芝生の状態を確認します。特に試合がナイターの場合は日付が変わるぐらいまで芝生の状態を確認し、その場でやれることをするので、そのまま仮眠してまた早朝から対応をしています。
次の試合までのスパンが短い時はできる限り早くメンテナンスをして、芝生にとってストレスフリーな時間を少しでも多く作ることが大事だと思っています。
夏芝の場合、10~15㎜で刈っているところが多いと思いますが、サンガスタジアムの芝生は18㎜で刈っています。チームは長い方がいいと言ってくれていますが、個人的には夏芝のよさが出るようにもう少し短くしたいと思っています。夏芝は短く刈ることによりホルモンバランスが上への成長から横への成長に切り替わり、茎が横に匍匐(ほふく)し、匍匐茎が絡み合うことで強度が出てプレーの安定性が増します。ただ、今はこれ以上短く刈ってしまうと葉面積が少なくなり光合成量がさらに低下してしまうので、18㎜にしています。
プレー中にパスが多いチームは短い方がやりやすいと思います。監督によって、戦略も違うので、芝生に求められることも変わります。試合前にチーム(コーチ)からピッチに対して意見をもらうこともありますが、グランドキーパーとしての意見はしっかり言うようにしています。代替案を提示して、よりよい環境を提供できるように日々の知識習得や経験を大切にしています。
選手のインタビューで、「サンガスタジアムはよく管理されたピッチだ」という記事をたまたま目にすることがありますが、そういう瞬間はやはりうれしいですね。移籍してきた選手がサンガタウンの芝を見て感動しているという話も聞いたことがあり、とてもありがたいです。
グラウンドキーパーをしていて一番うれしいのは、1年を無事終われること。今年はグラウンドキーパーとして新しくできることも増え、最低限目標としていた状態を維持できています。芝生の全面張替えは2年に1回なので、次の張替のタイミングまでこの状態をどれだけ長く維持できるかがこれからの課題です。だから、肥料として窒素を与えるにしても、目視で判断できないことも多いですので、実際にLAQUAtwinで測定をして数値で見られるのは大きいと思います。これからLAQUAtwinを使うのが楽しみです!
児嶋浩人(こじま ひろと)氏
京都サンガF.C.
グラウンドキーパー責任者
日課は早朝のランニング。毎朝、約5kmのランニングで頭や心の整理をされているそう。
※Jビレッジ:福島県にあるサッカーナショナルトレーニングセンター



