測っちゃいました Vol.19 秋ナスはヨメに食わすな?

秋ナスの美味しい季節になりました。夏ナスと比べて、日照時間が短くなり日差しも弱くなってから実をつける秋ナスは、皮が薄くて柔らかくみずみずしいのが特徴です。秋ナスといえば、『秋茄子は嫁に食わすな』ということわざがあります。実はこのことわざには、『嫁いびり』と『姑の嫁へのやさしさ』という正反対の解釈と、ヨメが示すものが異なるという3つの解釈があります。

まず、解釈①の嫁いびりはことわざの文字どおり、『美味しい秋のナスを憎い嫁には食べさせるな』という意味で、昔の嫁姑の絶対的な立場関係があった封建的な家族制度の中で生まれたことわざと考えられています。その一方で、解釈②にはお嫁さんの体を気遣う姑さんの優しい気持ちが込められているとされています。ナスにはカリウムが多く含まれ、利尿作用によって体を冷やす働きがあるため、これから出産を控えるお嫁さんの体には良くないと考えられていたのです。

ところで、ナスにはどのくらいのカリウムが含まれているのでしょうか?ナスを含む様々な野菜の可食部分100 gあたりのカリウム含有量を測定すると、生のナス:約220 ㎎、茹でたナス:約180 ㎎、生のトマト:約300 ㎎、生のキュウリ:約200 ㎎、生のピーマン:約190 ㎎、通常のレタス:約250 ㎎、低カリウムレタス:約100 ㎎という結果になりました。生野菜で比較してもトマトや通常のレタスよりも若干低い値で、調理をするとさらに低くなるので、含有量だけを見ると特に問題はないように考えられます。

植物体内のカリウムの多くは成熟した繊維質部分に含まれています。ナスのカリウムをマッピング測定すると、皮の内側部分に多く分布しているのが分かります。秋ナスは皮が薄いので、むしろ夏ナスよりもカリウム含有量が少ない可能性があります。そのため、分析結果を踏まえると解釈②の根拠はやや薄れてきます。一方で、茹でたナスのカリウム含有量が低いのは、水溶性のカリウムがゆで汁に溶け出してしまうためだと考えられます。ナスはみずみずしい果肉部分に水分とともに水溶性カリウムを含んでおり、この水溶性成分は体内に吸収されやすく、即効性があるとされています。秋ナスが体を冷やしやすいと言われるのは、この即効性を昔の人が体感的に捉えたことから生まれたのかもしれません。

解釈③は、鎌倉時代の私選和歌集『夫木和歌抄』に収録されている『秋なすび わささの粕につきまぜて よめにはくれじ 棚におくとも』という和歌に由来すると言われています。この和歌の「よめ」は夜目と書き、ネズミを意味します。つまり、この和歌は、『酒粕に漬けた秋ナスを食べ頃になるまで棚に置いておくのは良いけれど、ネズミには食べられないように気を付けなさい』という内容になります。ネズミは夜行性で夜に目が見えることから夜目と呼ばれ、それが嫁という漢字に転じたという説があります。また、繫殖力の強さから子沢山の象徴とされ、ネズミを『ヨメサマ』『ヨメゴ』と呼ぶ地方もあるそうです。

こういった背景から『よめにはくれじ』の意味を考えると、『秋茄子はヨメに食わすな』の解釈は『秋ナスをお嫁さんに食べさせるな』ではなく『秋ナスをネズミに食わすな』であると考えられます。インド原産のナスは奈良時代に日本に伝わり、鎌倉時代には庶民にも広がっていました。その時代の和歌を由来とするこの解釈③を支持する人々は、解釈①や②は後世の後付けであるとしています。

分析結果から考察すると、他の野菜と比較してもナスがお嫁さんの体に特別悪いわけではないと思われます。さらに解釈④として、秋ナスには種子ができにくい(できても柔らかくて弱々しい)ので、これから子供を産むお嫁さんには縁起がよくないとする説もありますが、さすがにこれは後世の後付けでしょう。

<参考リンク>
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