紅葉がきれいな季節になりました。緑一色だった木々の葉が紅や黄色の佇まいに変わるのは、日本などの中緯度地域の特徴です。では、どうして葉の色は変わってしまうのでしょうか?
秋になって光合成の効率が落ちてくると、葉の中のクロロフィル※1が分解し始めます。クロロフィルが分解すると、今まで緑に隠れていた色素のカロテノイド※2(カロテン類やキサントフィル類)の色が目立つようになります。イチョウなどの黄葉は、このカロテノイドによるものです。
一方で、モミジなどの赤く色づく植物は、クロロフィルの分解が始まる前にアントシアニン※3という色素が合成されます。アントシアニンは、紫キャベツや赤玉ねぎ、赤シソなどにも含まれる抗酸化物質で、水溶性の高いフラボノイド※4に分類されます。それに対して、クロロフィルやカロテノイドは油に溶けやすい親油性の色素で、葉の中ではタンパク質とともに葉緑体に存在して光合成に関与しています。一方、アントシアニンは葉の中の水分が多い液胞に蓄えられるため、クロロフィルの緑色が減ると液胞にある赤色が目立ち、葉全体が鮮やかに赤く見えるのです。
葉のクロロフィルが分解される理由は2つあります。
1つは、光合成に使われていたタンパク質を分解してアミノ酸として幹の方に回収し、栄養とするためです。しかし、クロロフィルが付いたままではタンパク質を分解する酵素が働くことができません。そのため、まずはクロロフィルを分解し、酵素がタンパク質に作用できるようにするのです。もう1つの理由は、秋になって光合成効率が低下してくるとクロロフィルが吸収した光エネルギーは一部しか光合成に使われず、過剰になります。この余剰エネルギーが活性酸素を作ってしまい、自らの細胞を破壊してしまいます。細胞が破壊されてしまうとアミノ酸を回収することができません。したがって、アミノ酸を回収する前に細胞が破壊されないようにするため、クロロフィルを分解すると考えられています。
また、アントシアニンが合成される理由も、活性酸素による障害から細胞を守るためと考えられています。アントシアニンは抗酸化物質としての特性だけでなく、紫外線をよく吸収するため、クロロフィルが光エネルギーを吸収するのを妨げ、活性酸素の生成を抑える効果が期待できます。また、カロテノイドも同様に活性酵素を消去する働きがあり、しかも分解されにくいため、落葉するまで葉に残ることが多いとされています。
このアントシアニンは、pHによって色が大きく変化するのが特徴です。一般に、pHが低い状態(酸性)では赤みが強く、pHが高い状態(アルカリ性)では青みが強くなるため、ある種の酸塩基指示薬として機能します。紫キャベツを刻んで、抽出した紫色の水(アントシアニン水溶液)を使って、酸とアルカリの実験を経験された方もいらっしゃるでしょう。紫キャベツに含まれているアントシアニンは、抽出した状態でも比較的安定なので、理科実験などに使われることがあります。一方、紅葉に含まれるアントシアニンは、不安定かつ抽出も難しいため、実験にはあまり用いられません。
細胞内部のpHが低いとアントシアニンは、鮮やかな紅色になります。したがって、モミジを美しく紅葉させるには、細胞内部のpHが低くなるようにすればよいはずです。しかし、モミジを植えた土壌のpHを低くするため、酸性の水を与えても期待する効果は表れません。それよりも寒暖差を大きくしてクロロフィルの分解を促進するほうが、きれいな紅葉になります。クロロフィルの緑が少し残っている紅葉は黒っぽくなるため、美しい紅色を作るには、クロロフィルの分解を促進させて緑の色調を消すのが効果的です。
※1:植物の葉の中にある緑色の色素
※2:植物や果物、海藻などに含まれる黄色〜オレンジ色の色素
※3:植物に含まれる赤・紫・青の色素
※4:植物が作り出すポリフェノールの一種
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