製品志向からソリューション志向への挑戦

中村 博司* | |   技術論文

*株式会社堀場製作所
シニアコーポレートオフィサー(常務執行役員)
開発本部 本部長
博士(工学)

HORIBAは,中長期経営計画MLMAP2028における成長戦略の一環として,「製品販売からソリューション販売への移行を加速し,オートメーションやデータマネジメントを中心としたソリューションを通じてビジネスを拡大すること」を掲げています。製造・開発設備のデジタルトランスフォーメーション(DX)は,オートメーションによる省人化だけでなく,データ駆動型のAIを活用した材料開発(マテリアル・インフォマティクス)として多くの産業での活用が進んでいます。一方で,分析・計測機器のDX化やオートメーション化は,まだ十分に進展しているとは言えず,我々にとっては大きなビジネスチャンスが存在すると言えます。HORIBAは,自動車産業向けのDXやオートメーション化に長年取り組んでおり,その歴史を振り返ると,大きく分けて3つの世代があったと考えられます。

第一世代は,業務プロセスの自動化を目的としたオートメーションです。HORIBAは1950年代に排ガス測定機器開発・製造を開始しましたが,その後,世界中で排ガス規制が施行され,試験手順や結果の演算が年々複雑化し,人の手で全てを適切に行うことが困難になってきました。HORIBAは1970年代に米国のInter Automation社を買収し,自動車排ガス試験の自動化に応じて,複数の測定機器を一元管理し,各国の要求に応じたフォーマットで試験結果を出力できるソフトウェアであるTest Automation Systemの提供を開始しました。これは,ある意味でHORIBAにとって外部に向けたデジタル・トランスフォーメーション(DX)の始まりとも言えます。

第二世代は,1990年代。ビッグデータ解析とデータサイエンスによる業務手順の効率化です。この時代は,自動車の機能がほぼ全て電子制御されるようになり,制御パラメーターの数が飛躍的に増加しました。その結果,実験現場ではパラメータの最適化のため実験量が指数関数的に増加し,効率化が求められるようになりました。HORIBAは2000年に英国においてRicardo社およびShenck社との合弁会社SRH社を設立し,Ricardo社が持つエンジン開発における実験計画法DOEの技術をAutomationプラットフォームに統合しました。これにより,効率的な実験計画と統計的解析を通じて実験工数の最適化を提案することが可能となりました。

第三世代は,2000年代。バーチャル化やデジタルツインによる業務革新です。自動車産業ではハイブリッド技術が進展し,エンジンやモーターに加え,バッテリーや燃料電池などの構成要素が増え,システムが複雑化しました。従来の開発手法を用いると,構成要素の増加に伴い評価や調整にかかる時間が増大しました。HORIBAは2005年にSchenck DTS部門を買収し,特に米国ミシガン州Troyのチームからエンジン,バッテリー,駆動系をバーチャル化する技術を習得しました。この技術により,仮想モデルと実際の試験対象を組み合わせることで,物理的な試験対象が揃っていない状況でも評価が可能となりました。バーチャル化は業務手順そのものを変革し,開発業務をフロントロードし,開発期間を劇的に短縮する提案を実現しました。当時は「デジタルツイン」という用語は存在しませんでしたが,この仮想モデルはその先駆けであると言えます。

このような自動車開発における長年の経験を活かし,オートメーションによる業務プロセスの自動化,データサイエンスを用いた業務手順の効率化,さらにはバーチャル化やデジタルツイン技術を他のフィールドに応用することで,製品販売からソリューション販売への大きな転換が可能になると考えます。「エネルギー・環境フィールド」,「バイオ・ヘルスケアフィールド」,「先端材料・半導体フィールド」の,我々が注力する分野における先端材料開発,データマネジメントは,ますます競争が激化しており,マテリアルインフォマティクスを活用した開発や製造プロセスの革新が求められ続けるでしょう。これらの領域において,分析・計測技術だけでなく,開発・生産業務の自動化や効率化,業務プロセスの革新をソリューションとして提供し,先端材料開発の加速をサポートし,それぞれのフィールドにおける社会的課題の解決に貢献していきたいと考えています。