GX-100開発秘話~現場の効率化を追求した水質計を~

私たちの日常生活に欠かせない水。
日本では蛇口から出る水を毎日さまざまな用途で使用していますが、世界で見ると水道水を飲み水として使用できる国は数えられる程度しかありません。昨今アジア圏をはじめとした世界中の国々で上水需要が高まっており、上水の水質を整えようとする動きが盛んになっています。

このような上水市場の水質管理に役立てるべく、2024年6月、HORIBAグループは新製品「自動水道水質測定装置 GX-100」を発売しました。
本製品は、浄水場や配水場、配水池、ポンプ場といった施設から、家庭に水道水を運ぶ給水管の末端まで、幅広い領域での水質管理に使用されます。pHをはじめ、濁度、色度など、上水関連の規制で必要とされる主要7項目を測定できます。工具や治具を用いることなく、測定項目ごとのモジュール※1を容易に脱着できる構造にすることで、現場での校正作業時間を約50%低減※2しました。

本製品の企画・開発に携わった株式会社堀場アドバンスドテクノの2人に製品化を実現するまでのストーリーを聞きました。   

                                 

左:開発本部 半導体ソリューション開発部 小林 一星(こばやし いっせい)。本製品のプロジェクトリーダー。
右:開発本部 ウォーターソリューション開発部 入江 和大(いりえ かずひろ)。本製品の企画を担当。

2019年にプロジェクト発足

HORIBAは創業からこれまでいくつもの水質計を開発してきました。その中で、水質市場にさらなる貢献ができる何か新しい製品を作りたいという思いから、2019年に新製品に関するプロジェクトを発足し、市場調査を開始しました。いろいろな国でお客様のヒアリングを行った結果、水質計は定期的なメンテナンスが必要不可欠であり、特に現場での作業が非常に大変だという声を多くいただきました。また、さらにヒアリングをしていく中で、メンテナンスを担う作業員が不足していることも世界的な課題だと再認識しました。日本をはじめとした一部地域でも、人口減少によりエンジニアが年々少なくなってきており、既存インフラの維持やメンテナンスに関わる人手不足が課題となっています。そこで、“現場でのメンテナンス時間の短縮と作業効率化”、“熟練の技術者でなくても扱いやすいモジュール設計”をコンセプトのもとGX-100のプロジェクトを立ち上げ、製品化をめざしました。


立ちはだかるモジュール式水質計導入による壁

入江:HORIBA初となるモジュール式水質計を導入するにあたって、課題は大きく二つありました。一つ目は、“モジュール交換の影響を受けずに常に正確な測定値を出す”ことです。測定中のモジュールを交換するということは、もともと製品に付いている測定部を、別の測定部に取り換えるということです。同じメーカーの同じ測定部であったとしても、測定値に器差が生じてしまいます。
二つ目は、“製品のコストダウンを図りながら高い品質を保つ”ことです。近年新興国では、国をあげて上水の水質を管理して、水道水を飲めるようにする動きが盛んになっています。しかし、モジュール式は通常の製品より設計が難しく、複数の部品を使わなければならないため、どうしてもコストが高くなってしまいます。限られた予算内でいかに適切な測定が行えるかが大切であり、そのためには製品自体のコストを抑える必要がありました。


―――どのようにして課題を解決したのでしょうか?

入江:一つ目の課題は、水の温度や圧力、流速などのサンプルの条件が一定になるように製品を作り込むことで解決しました。開発と実験を何度も繰り返し行い、正しい測定値を出せるようになりました。
二つ目は、現場で使う工業製品は一般的に外側が金属のものが多いですが、その部分を樹脂に変え、金型を使ってモジュールの筐体に共通パーツを用いることで解決しました。筐体だけではなく、基板の設計コンセプトや部品を一つひとつ選定して、なるべく共通のパーツを使うようにしてコストダウンを図りました。
 

(モジュール部分を取り外す様子)

濁度・色度測定用セルの連続洗浄

小林:水道水には多少なりとも汚れが含まれています。独自開発の洗浄機構※3により、濁度・色度測定用のガラスセルに付着した汚れを連続洗浄し、安定した数値を測定できることが本製品のポイントの一つです。濁度・色度は光の原理を応用して測定しています。
一般的には、ガラスセルを固定したままワイパー部分だけを動かして洗浄しますが、それではワイパーが動く範囲でしか洗浄できないことに加え、洗浄時は光路を塞いでしまうことから、データが欠測してしまう時間があります。
そこで、ガラスセル自体を回転させるという逆転の発想で、データ欠測することなく連続測定・連続洗浄を実現できるのではないかと考え、新しい洗浄機構の開発を始めました。当初は、やはり現実的に搭載は難しいという声も上がり、実際に初号機ではいくつもの不具合がありました。しかし、どうしても諦めきれず、その後1年間の開発を続け、ようやく連続洗浄機構の実現に至りました。実際に東南アジアでの実証実験の現場に立ち会い、試験後数か月経った製品の内部を開けた際に、ガラスセルが回転しながら汚れがしっかり取れているのを自分の目で見て感動したのを今でもはっきりと覚えています。


国内外で何度も重ねた実証実験

入江: お客様からは「今までの製品とは全く違う新しいコンセプトや外観で、いい意味でHORIBAらしくない製品」だと言っていただきました。特に、モジュール式水質計の導入により、交換するだけで現場作業が完了するという点を大変喜んでいただきました。また、本製品は独自開発した専用アプリを用いて、スマートフォン・タブレットで測定値の確認や機器の設定などができます。その点もお客様が感じる魅力の一つではないかと思います。
 

(スマートフォンを通して測定値の確認が可能)

小林:場所を選ばずにメンテナンスできる水質計はHORIBAでは本製品が初めてです。プロジェクトを立ち上げてから市場調査を行う中で、実際に現場に足を運ぶと、40度近い気温の中で作業員が現場に張り付いて、製品の前でメンテナンスをしている姿を目にしました。急な雨が降ってきた際には、テントを張って作業を続行するか、リスケジュールしか選択肢がありませんでした。これまでは1日で3現場ほどのメンテナンスが限界でしたが、本製品を用いるとそれが倍以上になります。業務効率向上や人手不足解消など、働き方改革の推進に貢献する製品だと自信を持って言えます。
また、GX-100は、従来製品には無いセンサーユニット毎の校正を実現したため、水質計内部に校正液や試薬を入れて行う校正作業では、試薬量を50%以下まで低減※2しました。


ここがスタート地点

入江:GX-100は上水市場に対して一石を投じる製品になったと思います。
私は製品企画の段階からこのプロジェクトに参加しました。製品企画から開発、設計、生産、出荷、さらには実際にお客様のところへ行ってメンテナンスやサービスまで、一貫して関わったプロジェクトは初めてでした。今までは製品開発をメインに行ってきたので、これまでとは違う新しい考え方や視点を持つ必要がありました。アプローチの仕方が分からず大変なこともありましたが、私にとって大変貴重な経験になりました。

小林:非常に大きなプロジェクトでした。製品化までにたくさんのメンバーが関わったプロジェクトですので、どうしてもそれぞれのこだわりや思いが強く、意見が分かれてしまう時もありました。そのメンバーの思いを一つにして、プロジェクトリーダーとして引っ張っていくことは大変でもありましたが、一丸になれたからこそ世の中に誇れる製品が完成したと思っています。

入江:GX-100は、今回アジア圏をメインターゲットとして発売しましたが、今後は世界をマーケットとしてアクションを起こしていきたいと考えています。そのためには、世界各国で設けられているさまざまな水質基準に合った測定成分の追加など、新たな開発が必要になってきます。あくまでもここが私たちの新たなスタート地点ですので、本製品に携わる全ての社員が一致団結して、GX-100の普及と今後の開発に努めてまいります。

 

※1 製品を機能単位で設計して組み合わせる手法。交換やカスタマイズなどが容易にでき、製品の柔軟性や保守性を高めることができる
※2 堀場アドバンスドテクノ従来製品との比較。使用方法や条件によって効果が異なる場合があります
※3 日本:特許出願済み

 


【関連情報】

自動水道水質測定装置「GX-100」を発売