カット野菜の洗浄工程で塩素濃度を「はかる」―食の安全・安心に残留塩素濃度モニターUP-400CLが貢献―

コンビニエンスストアにずらりと並ぶお弁当やお惣菜、それらに使われている野菜は、厳しい品質・衛生管理のもと加工され、私たち消費者に安全・安心な商品として届けられます。
日本では2020年6月からHACCP※1の考えを取り入れた衛生管理が義務化されています。工程ごとに定められた厳たる基準に沿う衛生管理が求められる一方で、衛生管理に必要な検査測定は人の手に頼る作業が多くデジタル化は遅れています。

そうした加工工場での現状を知り、HORIBAはカット野菜洗浄工程における衛生管理の向上とデジタル化に貢献する製品として残留塩素濃度モニター「UP-400CL」を開発しました。本製品はカット野菜の殺菌・洗浄工程※2において洗浄槽中の塩素濃度やpHを連続的に数値化し、設定値を下回った場合にはアラートで知らせるなど、野菜殺菌管理システム※3を構築することができます。また、本製品は有効塩素の中でも特に殺菌効果が高い遊離塩素※4のみを連続的に測定します。

株式会社虎昭産業様(本社:東京都文京区)は、UP-400CLを活用した野菜殺菌管理システムを構築され、いち早く衛生管理のデジタル化推進に取り組まれており、UP-400CLの試作段階から性能評価にご協力を頂いております。今回は同社の茨城工場を訪れ、生産本部長兼スマートファクトリー推進リーダーの花島克之取締役、生産本部茨城工場 第一製造 和気隆司 課長、同 久保 悠 氏に衛生管理のデジタル化への取り組みについてお話を伺いました。

業界に先駆けて衛生管理のデジタル化推進をリードされています

花島:当社は大手コンビニエンスストアのお惣菜やサンドイッチ、サラダを製造しています。お客様に安全・安心な商品をお届けするためには、定められた衛生管理基準を満たさなくてはなりません。商品が出来上がるまでの工程には基準を満たしているかを判断するために、さまざまな検査測定項目があります。例えば、野菜を洗浄・殺菌する工程では、洗浄を行う殺菌槽で次亜塩素酸ナトリウムを使います。衛生基準を満たす環境下で確実な洗浄・殺菌が行われたかを塩素濃度をはかることで確認しています。
これまでの塩素濃度の確認方法は、試験紙を使った測定により、示される色から目視で判定する方法でした。殺菌開始時・殺菌開始から一時間ごと、殺菌終了時の三つのポイントで試験紙の色を確認し問題なければ〇(まる=合格)をつけます。ただ、この方法では、人によって色の感じ方が異なることが課題でした。さらに、記録するといっても確認したかどうかを〇×方式で記すだけで、測定時の状態を記録する様式ではありません。そういう状態で、果たして確実な品質・衛生環境の保証ができているか、というジレンマも抱えていました。

 和気:反応した試験紙の色と判定指標として示される色を見比べて判定をするのですが、色の見え方は人によって誤差があります。測定の結果、試験紙が微妙な色を示すことがあって、迷いながら判定をすることもありました。
また、工場の中に入るまでには、何重にも手洗いと消毒を励行し、徹底した衛生管理のもとで作業を行っています。そうした環境下で日々作業するパートさんの衛生管理への意識はとても高く、試験紙が示す微妙な色からの判定は心理的なストレスになっていました。

花島:私は入社以来、製造・品質管理の仕事に携わり、みんながいきいきと働ける現場づくりを理想に掲げてキャリアを重ねてきました。ところが、手作業と目視による曖昧な検査測定に対して、作業者が日常的に心理的なストレスを抱えていることを感じていました。色による判定ではなく測定結果を数値で示すことができれば、誰が測定しても公正に判定することができます。一人ひとりが責任感を持って仕事をしているからこそ感じる作業者のストレスを何とか軽減できないかとのおもいから、デジタル化推進に立ち上がりました。

衛生管理の現場で実現されたいデジタル化とは

株式会社虎昭産業 花島取締役兼生産本部長

花島:二つの側面からデジタル化を推進しています。一つは現場で測定された状態を数値化し、誰が見ても適正な結果が記録できることです。測定結果を同じ物差で数値化できれば適切な判断が下せて、衛生管理の精度も上がります。
もう一つは、数値化された情報が連続して自動的に記録される状態にあることです。数値化したデータが個別に存在する状態から、一つのまとまった体系的なデータとなって取得できれば、どの工程でどういう状態にあったか、またどの範囲、時間軸で起こったかを特定することができます。また、工程の途中で基準に満たない測定値を示した場合に、時間軸や不具合が起きた範囲が特定できれば、基準に満たない材料を廃棄する範囲が特定できて最小限の廃棄に抑えることができます。食のトレーサビリティの向上や食品ロスを減らす意味でも、管理がデジタル化されて体系づけられたデータになることは大切です。

カット野菜の洗浄・殺菌工程の塩素濃度測定にHORIBAの残留塩素濃度モニターUP-400CLをお使いいただいています。導入のきっかけは?

残留塩素濃度モニターUP-400CL

花島:数値化を思い切って働きかけた時に、HORIBAを紹介してもらいました。私たちが数値化したい検査・測定項目に対して、信頼のおけるデータを取得できる技術力をお持ちだったので導入を決定しました。
一方で、当初は分析機器メーカーに対し、数値化する機械を作るだけの印象しか抱いていなくて、私が思い描いていたようなデータをリアルタイムかつ連続的に取得して帳票にまで落とし込むというソリューションにまでつながるとは期待していませんでした。また、機器の導入から維持、データ管理にかかるコストから経営層からも難色を示されました。
それでも強いおもいをもって各方面にデジタル化に向けて協力を働きかけたところ、HORIBAのほかに、日本ラッド、カミナシ、といった各分野をリードする企業とのつながりができました。業界の垣根を越えて、おもいを一つにして取り組むことで、可能性がさらに大きく広がりました。自分のおもいに共感してくれる同業者の協力もあって、三年前にようやく連続測定した数値を取得できるまでになりました。

測定機器を導入した当初は、現場の反応は良いものではなかったと伺いました

生産本部茨城工場 第一製造 久保氏

久保:導入当初は、HORIBAの機器で正しく測定結果が得られるかの確認から始めました。この段階では塩素濃度を数値として得ることができるようになりましたが、数値の記録はまだ手作業のままでした。また、試験紙の色を写真に撮って記録していた従来の作業と同様に、数値化された測定結果を写真に撮って、データとして記録していく方法でしたので、現場には負荷がかかり面倒に思われていました。HORIBAの機器が正しく測定できることを確認できた後に、次のフェーズとしてその数値を取得して帳票化するシステム化の評価に移行しました。結果、ボタン一つで数字がデータとして記録、蓄積ができるようになり、現場から「導入してよかった。」という声を聞くようになりました。
 

生産本部茨城工場 第一製造 和気課長

和気:HORIBA、日本ラッド、カミナシとの協働により、「数値化する」「紙をなくす」「記録を蓄積する」という三つの作業が一体化したことで、作業効率が良くなりましたし、パートさんのへの心理的な負担も軽くなりました。
また、殺菌中の濃度をリアルタイムに可視化することで、気づくこともありました。例えば、玉ねぎを入れると塩素濃度が下がるということを以前から感覚的に感じていました。リアルタイムに測定・数値を見られるようになって、実際に数値が下がることが確認できました。そうした食材による違いを理解して、適正な濃度調節を行えば、より安全な衛生管理が実現できます。
 

虎昭産業様の製造現場では、タブレット端末を使って工程管理をされている姿が印象的です。思い描かれているデジタル化を進めておられますが、今後のビジョンは?

久保:現在は水が溜まる洗浄装置で、測定からデータ管理まで一本化が叶いました。殺菌から脱水までの工程においても数値化ができて、全ての工程がラインでつながって、まとまったデータがとれるようになると嬉しいですね。

花島:野菜の洗浄・殺菌工程の衛生管理は品質管理の一部に過ぎません。他にも数値化したいデータはたくさんあります。品質管理に必要なデータを複合的に捉え、第三者に渡せるデータとして自動取得できるツールにまでしたいですね。そうした複合的なデータを一つにまとめて、最終的にAIが管理状態を判定するシステムを考えています。
測定データは商品を信頼して買ってくれるお客様の安心、安全を守るものでもあります。私がめざすデジタル化を実現するには、まだ多くの障壁があります。おもいに共感いただける協力の輪を拡げながら、挑戦を続けていきます。



(インタビュー実施日:2024年9月)
※掲載内容および文中記載の組織、所属、役職などの名称はすべてインタビュー実施時点のものになります。

注釈

※1 HACCP(ハサップ)食品等事業者が食品の安全性を確保するための衛生管理の手法

※2 カット野菜を用いた食品製造工程の例
殺菌・洗浄工程では、次亜塩素酸ナトリウムや微酸性電解水などによる殺菌・洗浄を重要管理工程としてその塩素濃度を管理し、記録しています。

参照:小規模な農産物のカット・ペースト(低温管理)製造事業者におけるHACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書

※3  UP-400CLとpH電極の設置イメージ

※4 有効塩素の形態と殺菌力
遊離塩素は、野菜由来の有機物へ直ちに結合して濃度が低下していくため、殺菌効果を適切に維持するには遊離塩素濃度のモニタリングが管理手法として適しています。
遊離塩素のなかでも次亜塩素酸(HClO: 弱酸性域での存在形態)の殺菌力が最も高く、次亜塩素酸イオン(ClO-: 中性から弱アルカリ性域での存在形態)だと約1/80に低下します。有機物への結合後は、次亜塩素酸に比べ約1/350 に低下するため、殺菌効果を適切に維持するには遊離塩素濃度の連続的なモニタリングが有効だと考えられています。

参照:EPA(米国環境庁)

関連サイト

残留塩素濃度モニター UP-400CL 

株式会社虎昭産業 公式サイト

日本ラッド株式会社 公式サイト

株式会社カミナシ 公式サイト