病気やけがで機能しなくなった臓器や組織を、細胞などを用いて回復・復元させる再生医療。
これまで治療が難しかった病気やけがの治療に役立つと大きな期待が寄せられています。この再生医療を主とした先進医療の産業化をめざす「Nakanoshima Qross」が、6月29日に大阪で開業しました。旗振り役である一般財団法人未来医療推進機構のもと、医療機関(病院)や企業、スタートアップ、支援機関など40※1を超える団体が集積する、他に類を見ない未来医療の共創拠点です。HORIBAグループも同拠点に入居しており、その責任者に話を聞きました。
中井:
Nakanoshima Qrossには、病院や大学、企業、スタートアップ、支援機関などが一つ屋根の下に集まっています。再生医療の産業化を進めるためには、細胞を製造する技術や設備だけではなく、細胞の保管、運搬、規制などモノづくりのサプライチェーン全体を整える必要があるからです。未来医療推進機構は、Nakanoshima Qrossをコトづくり拠点と位置づけ、この動きを加速させようとしています。
当社は、これまで大阪大学をはじめ複数の団体と再生医療に関する研究を進めてきました。再生医療等製品の一連のライフサイクル全体が身近にわかる現場では、産業化にいたるまでのリアルな課題が見えてきますので、現場の課題をいち早くキャッチして貢献していきたいという考えから入居を決めました。
小牧:
起業家の育成や、スタートアップ・大手企業がアカデミアのシーズを用いて市場に出すための支援をすることもNakanoshima Qrossの役割の一つです。その中で、分析・計測機器メーカーの私たちができることは、やはり「はかる」ということ。再生医療等製品を製造し、患者に投与する過程では、細胞やそれに付随するものの状態を確認して判断するというポイントが何度もあります。私たちの製品で再生医療等製品やその製造環境の検査結果を迅速に届けることでいち早く患者へ投与するための手助けになれたらというのが、私たちの大きな目標の一つです。
また、HORIBAグループには多種多様な製品があります。はかる技術が活用できる幅は広く、この地での交流も通じて新たなアイデアやビジネスが生まれることを期待しています。
小牧:
私たちは再生医療等製品の製造現場へ微生物迅速検査装置を普及することに力をいれています。その取り組みを加速するうえでもNakanoshima Qrossは大きな可能性を秘めていると考えています。
微生物迅速検査装置の導入の可能性がある領域として、製造環境の微生物モニタリングと、製品出荷時の微生物試験がターゲットになると考えています。再生医療等製品は、製造後おおよそ数十時間以内に患者の体内に直接投与されます。そのため、その製品に微生物が混入すると患者の命に危険を及ぼしてしまいます。また、製品の安全性を担保するためにも、その製品が製造される環境も微生物が一定以下に管理され、非常にクリーンな状態に保たれている必要があります。
その一方で、微生物の検査として一般的に用いられる「培養法」は、培地とよばれる微生物が育ちやすい環境下で、検体に含まれる微生物を増殖させてから測定していますので数日かかります。そこに、当社の微生物迅速検査装置「Rapica(ラピカ)」が貢献できると考えています。「Rapica」は高感度ATP法※2という先進的な測定方式を用いることで、これまで数日を要していた検査にかかる時間をおよそ2.5時間へと大幅に短縮※3できる装置です。一言に再生医療等製品と言っても、細胞の種類も異なりますし、その製造方法、環境も現場によって様々です。どのように評価していくと良いかという情報を入手しながら、より効果的な条件で測定データを出せるようにしたいと考えています。まだまだ技術的なハードルはありますが、Nakanoshima Qrossで多様な企業と検討を進めていきたいです。
微生物迅速検査装置「Rapica」
小牧:
Nakanoshima Qrossで産学医の多様な交流が生まれることで、一つの再生医療の産業化の流れができてきます。そこに付随するいろいろな企業とのマッチングによって新しいビジネスに派生していく可能性を感じています。さらに、産業化が進むとそれらの企業に当社の製品をより多く使っていただけます。当社としてもニーズに合わせてさらなる製品改良を進めていくというように、「はかる」をベースにいろいろな価値を提供していけるのではと考えています。現在当社は複数の企業とオフィスをシェアする形で入居していますが、その中でも再生医療に関する設備や試薬メーカー、コンサルティング会社などさまざまな業種の方々との交流が生まれてきています。
新しい業界ですので、単に細胞をつくる・加工する企業だけではなく、その周辺を取り巻く企業の方々とも意見を交わしながら、業界のデファクトスタンダードを一緒に創っていくようなことに発展するともっとおもしろくなると思います。
中井:
HORIBAとしては、中長期経営計画「MLMAP※42028」における注力事業の一つとしてバイオ・ヘルスケアを掲げています。病気の予防、スクリーニング、診断、治療、そして治癒といった、あらゆる人々が健康でいるための一連のプロセスに貢献していくことをめざしています。あらためて、Nakanoshima Qrossは現場に近いことが大きなポイントだと捉えています。その点が当社のめざす方向性と親和性が非常に高いと考えています。本拠点での取り組みを含めて、細胞の製造から、患者への投与、その経過観察といった再生医療等製品のライフサイクル全体におけるリアルな課題をいち早くキャッチアップし、はかるソリューションを提案していきます。
インタビュー風景 / Nakanoshima Qrossの共創の場「Qrossover Lounge 夢」(提供:未来医療推進機構)
※1 2024年6月末時点
※2 ATP(Adenosine tri-phosphate):アデノシン三リン酸
※3 培養法と高感度ATP法の比較による当社調べ。別途、検体の前処理作業(ろ過など)が必要。使用方法や条件により、検査時間が異なります
※4 MLMAP (Mid-Long Term Management Plan):当社グループでは中長期経営計画を「MLMAP」として社内浸透させています
(インタビュー実施日:2024年6月)
掲載内容および文中記載の組織、所属、役職などの名称はすべてインタビュー実施時点のものになります。
関連情報
・Nakanoshima Qross公式サイト:未来医療国際拠点Nakanoshima Qross(中之島クロス) (nakanoshima-qross.jp)
・製品サイト:微生物迅速検査装置 Rapica - HORIBA
・プレスリリース(2022年4月):微生物迅速検査装置「Rapica」を発売 - HORIBA