堀場信吉スクエアー大阪公立大に産学官民連携の拠点誕生

対談インタビュー:社会課題解決に向け共同歩調進める

公立大学法人大阪 辰巳砂 昌弘(たつみさご まさひろ)エグゼクティブアドバイザー・名誉教授 × 堀場製作所 中村 博司(なかむら ひろし)常務執行役員兼CTO

 

堀場製作所と大阪公立大学。両者を結び付けたのはHORIBA創業者の父、堀場信吉氏だ。2025年春、大阪公立大学の中百舌鳥キャンパスに『イノベーションアカデミースマートエネルギー棟』が竣工した。その一角に新たな産学官民連携の拠点として「堀場信吉スクエア」というオープンイノベーションスペースが誕生した。公立大学法人大阪 辰巳砂昌弘 エグゼクティブアドバイザー・名誉教授 全固体電池研究所客員教授と堀場製作所の中村博司執行常務執行役員CTOが、社会課題解決へ向けた連携をテーマに話し合った。

夏休みに教え子の会社を訪問

大阪公立大と堀場信吉先生とは深いご縁があると聞きましたー

辰巳砂:大阪公立大学の前身である浪速大学と(後に校名変更し誕生した)大阪府立大学で堀場先生は学長を務めました。信吉先生は入学式での訓示で、ドイツの復興を引き合いに出しながら、学生に日本の復興を担うことを期待していると話されたと聞きます。経済学部を創設し産業界との接点を重視され、大学院も創設されました。

中村:大阪府立大学の十年史の中で、信吉先生は「大学は総合大学であるべき」と綴られています。文理融合の学部も作りたいとの思いを持たれていたようです。残念ながら学長在職時には実現しませんでしたが、その後、私が大阪府立大学に入学した1992年当時には、総合科学部という文理融合型の学部がありました。後に当時の学長だった信吉先生の思いを知り、感銘を受けました。

辰巳砂:大阪府立大学は2012年に学域・学類制度を導入し、当時あった7学部を「現代システム科学域」「工学域」「生命環境科学域」「地域保健学域」の4学域に集約しました。3年前の大阪市立大との統合後も現代システム科学域は残りました。信吉先生の文理融合の考え方が今も残っています。

中村:創業者である堀場雅夫氏の回顧録には、子供のころ、父親である堀場先生に連れられて様々な会社の研究室を訪問した話が出てきます。信吉先生は夏休みを利用して、教え子の就職先の企業を訪問していました。教え子の働きぶりや、会社からの評価を確認する。会社の状況を把握し、研究開発で技術課題を持たれていたあら大学がバックアップする。当時から産学連携を進めておられたのだと思います。

社会課題解決へ連携スタート

23年10月に大阪公立大学とHORIBAは連携協定を結びました。「産学官民連携による社会実装」が目標ですー

中村:HORIBAは分析・計測を生業にしている会社です。分析・計測というのは非常にベーシックな技術で、素材開発や社会課題解決には欠かせないものですが、大きな社会課題に対して社会実装を目指すには、分析・計測技術だけでは難しい。大きな変化を生み出す技術開発の基盤を提供することに我々の価値があると考えます。HORIBAが挑戦する「エネルギー・環境」「バイオ・ヘルスケア」「先端材料・半導体」という3つのフィールドで、大阪公立大学は非常にユニークな技術を持っておられ、また、それぞれのフィールドで産業界とパートナーシップを構築されている。そこに我々が入ることでシナジー効果が見出せると考えました。

辰巳砂:3年前の統合でフルスペックの総合大学になりました。総合知を発揮し、様々な社会課題を解決する体制が整いました。そこにHORIBAの持つ非常に先進的な分析・計測技術を活用させて頂くことで、他を巻き込んだ連携が可能になると期待しています。

「スマート社会を実現するための共創分析プラットフォームの構築」も掲げていますー

中村:大阪公立大学では、辰巳砂先生が専門とされる全固体電池など最先端の材料開発の研究が盛んです。その先端材料開発を分析・計測技術という視点から支えていきたいと考えています。我々は自動車や半導体事業の分野では、計測のオートメーションや、デジタルツインを活用し開発プロセスを効率化したプラットフォームを提供するビジネスを展開しています。これを材料開発の業界にも展開していきたい。例えば、データクローリング型で人工知能(AI)技術を導入したマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の有用性が指摘されていますが、分析計測機器メーカーとして本当に自動化、デジタル化に対応できているかというと、まだまだ不足している部分があります。素材産業を支えるプラットフォームを一緒に開発できればと思います。

「堀場信吉スクエア」で産学官民のイノベーションが起こる

堀場信吉スクエア ステージエリア(大阪公立大 スマートエネルギー棟内)

中百舌鳥キャンパスに開設したイノベーションアカデミー共創研究拠点(スマートエネルギー棟)には「堀場信吉スクエア」が設置されましたー

辰巳砂:研究拠点は3階建てで、1階には産官学民の皆さんが集まりワークショップなど様々なイベントができるオープンスペースを設置します。イノベーションアカデミーの中心的な場所で、産官学民共創でイノベーションを起こす場所のネーミングとして、本学の元学長であり産学連携に尽力され堀場製作所の創業者の父でもある信吉先生の名前を冠にするのが、最もふさわしいと考えました。
 2階にはHORIBAをはじめとする日本を代表する分析機器メーカー4社の最先端機器を整備し、本学の全固体電池研究所が電池を試作するスペースも設けます。そこで試作した電池の最先端解析に取り組みます。数年以内には車載用の全固体電池が登場する見通しです。3階には、本学がこれから大きな社会課題に取り組んでいく上でパートナーとなる企業に入居してもらいます。

中村:我々が得意とする分析・計測技術で最先端のものを提供します。辰巳砂先生が長く研究されてきた全固体電池の電池材料の技術が確立し、社会実装されて世の中で貢献できるように支えていきます。日本には素晴らしい材料技術がありますが、その技術を社会実装しているのは国外企業という現状を非常に残念に思います。

辰巳砂:最初は日本企業が先行していても、だんだん負けてくるんですね。

中村:製造技術が確立し、その技術が世の中に貢献できるように支えることが我々の仕事です。

社会実装していくことがスマートエネルギー棟の役割なんですねー

辰巳砂:まずは全固体電池からスタートしますが、中長期的にはより大きな社会課題に取り組みたいと思います。オールジャパンで基礎研究を支え、社会実装していくことが目標です。産学官民の連携を一層深め、さらには社会実装に向けた応用研究の分野で活躍する若手研究者に贈る「堀場信吉記念若手奨励賞」の創設も提案しています。

「おもしろおかしく」研究する若手を支援

連携で、新たな「おもしろおかしい」研究が生まれるといいですねー

中村:若手社員が自由に研究できる環境を提供するために、24年末から「ゼロイチプロジェクト」という試みを社内で始め、若手から研究テーマを公募しました。勤務時間の最低10%を自分の研究に充ててよいルールにしています。提案内容は自由で、卒業した学校の先生と一緒に研究することも認めています。来年からイノベーションアカデミーをベースにした研究提案が上がってくるのを期待しています。信吉先生は夏休みに卒業生の会社を訪問された。最近、大阪公立大学卒の社員が増えていますので、是非、大学の先生方にも夏休みにHORIBAを訪問頂き人材交流の機会を増やしたいと思います。

辰巳砂:HORIBAの堀場厚会長とお会いし、非常にフランクに話をさせて頂きました。社是である「おもしろおかしく」には共感するところが多くあります。大学も楽しくなければ研究は進みません。社是「おもしろおかしく」を最も大切にされているHORIBAと末永く連携させて頂ければと思っています。スマートエネルギー棟では1階の堀場信吉スクエアから3階に至るまで「おもしろおかしく」の精神を広げて頂ければと思います。

 

(インタビュー実施日:2025年2月)
※掲載内容はすべてインタビュー実施時点のものになります。
※記載の組織、所属、役職などは2025年4月時点の名称を使用しています。

Profile:

左から:公立大学法人大阪 辰巳砂エグゼクティブアドバイザー・名誉教授、堀場製作所 中村常務執行役員

辰巳砂 昌弘(たつみさご まさひろ) 
公立大学法人大阪 エグゼクティブアドバイザー・名誉教授 全固体電池研究所客員教授

[略歴]
1980年3月 大阪大学 大学院工学研究科博士前期課程修了
1996年4月 大阪府立大学 工学部教授
2015年4月 大阪府立大学 大学院工学研究科長
2019年4月 公立大学法人大阪 副理事長兼大阪府立大学長
2022年4月 公立大学法人大阪 副理事長兼大阪公立大学長
2025年4月 公立大学法人大阪 エグゼクティブアドバイザー・名誉教授 全固体電池研究所客員教授

[専門分野]
無機材料化学、ガラス科学、固体イオニクス

 

中村 博司 (なかむら ひろし)
堀場製作所 常務執行役員 CTO

[略歴]
1998年3月 大阪府立大学(現大阪公立大学)工学研究科卒
    4月 株式会社堀場製作所入社
2005年 大阪府立大学(現:大阪公立大学)工学研究科 博士(工学)取得
2016-2021年 HORIBA Europe GmbH(ドイツ) 代表取締役社長
2021-2025年 株式会社堀場製作所 執行役員 CTO
2025年4月‐ 現職

[主な業界団体活動]
2024年1月‐ 米国自動車技術会(SAE International)フェロー 

関連サイト:

大阪公立大 イノベーションアカデミー共創研究拠点 「堀場信吉スクエア」