平均寿命が延び高齢化が進むなかで、「いかに健康で長く生きるか」は多くの人にとって重要なテーマであり、健康への関心は一層高まっています。HORIBAの微生物迅速装置Rapica(以下、Rapica)を製薬用水の品質管理に活用されている第一三共株式会社様は、「世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」をパーパスに日々健康に向き合い、新薬の開発や多様な医療ニーズに応える医薬品の提供に取り組まれています。そのなかでRapicaがどのように貢献しているのか、導入検討などを推進されてきた平塚工場 製剤生産技術部 分析技術第一グループの木村 健児マネジャー、田中 寛人氏、分析評価研究所 研究第三グループの三枝 毬花氏にお話を伺いました。
製剤生産技術部 木村マネジャー
木村:医薬品において大切なのは、品質の確保はもちろん、安定供給も欠かせないことです。我々はいつでも患者さんに確実に医薬品を届けられることをめざし、安定供給できるための体制に注力しています。Rapicaは、その体制に必要なものとして導入しました。現在、治験薬用設備で運用をしていますが、商用にも適用を検討しています。田中と私は製剤生産技術部で治験薬の品質管理をしています。
三枝:私は分析評価研究所で、治験薬の品質分析研究を担当しています。製造した薬が患者さんにとって安全で有効かどうかを評価するための分析技術の確立や品質規格の設定を行っています。また、品質を維持しながら安定供給するために必要な最新の分析技術や評価方法の研究・開発にも取り組んでいます。
製剤生産技術部 田中氏
木村:医薬品の製造工程で使用される水、いわゆる製薬用水の微生物検査にRapicaを使用しています。自然災害等による緊急事態や設備メンテナンスなどから復旧する場合、製薬用水システム中の微生物試験を行います。その際、従来の「培養法(培養をして微生物を増やし検査をする方法)」では結果が出るのに約7日間かかります。その間は製造ができず、供給が滞ってしまうため、停止期間を短縮して安定供給をめざすなかで、試験結果が即日でわかる微生物迅速試験法の導入を検討し、Rapicaに辿りつきました。
培養法による試験の場合、仮に7日後に結果が出て異常が発覚すると、システムの熱殺菌などの微生物汚染の対策をし、また培養試験。結果が出るまでさらに7日間かかります。そうなると、異常発生から対策までさらに時間がかかり、安定供給に影響を及ぼすため、Rapicaの活用はとても有用です。
田中:ほかにも、結果が出るまでの約7日間さまざまな変化が起こり得るため、ただ待つだけではなく、日々の状態確認も必要です。それが1日で結果が得られるとなると、作業負荷が大きく下がり、担当者の心理的な負担もかなり軽くなります。また、培養後の菌数は人の目で数える必要があるため、目視カウントによるばらつきという点では微生物迅速試験法のほうが運用上のメリットがあると感じました。数える作業自体も手間がかかりますし……。
分析評価研究所 三枝氏
三枝:Rapicaの有用性を確認するために、製剤生産技術部のおふたりのチームと最初から共同研究をしました。導入を検討する立場と、実際に使用して有用性を評価する立場の双方で相談しながら進めていきました。
木村:培養法は水以外にもさまざまな試験に使われており、長年使われてきた歴史のある方法です。これを新しい試験に変えるというのは、業界的にもハードルが高いものでした。Rapicaは、微生物の細胞由来のATP※1という物質を測ります。培養法だと菌の塊、培地上で増殖した微生物の塊を数えていくのですが、ATPになった場合にその微生物の1個がどの程度のATP量なのかという関係性がわからない状態からのスタートでした。ATPに置き換えて、「どの程度なら安全と言えるのか」「この製薬用水は十分にきれいだと言えるのか」を判断するための管理基準値を設定する必要がありました。また、社内に十分説明できるだけのデータをどの程度取得すべきかも検討課題でした。こうした点は既存のガイドラインに明確な答えが載っていないため、HORIBAと何度も相談しながら進めました。
三枝:結果的に、導入まで3~4年かかりました。研究部門での事前検証(性能評価)に約2年、実運用に向けた管理方法の整備やデータ妥当性の確認にも1年半ほどかかったと思います。
木村:微生物迅速試験法の検討自体はそれ以前から行っていましたが、従来の方法で問題ないのであれば、わざわざ高感度なものにする必要があるのかという意見もありました。そういった部分の説明もハードルだったかもしれません。GMP省令※2に対応できる微生物迅速検査装置が、HORIBAから出てきたことも導入検討のきっかけでしたね。
三枝:社内での理解促進・人脈形成にも努めました。Rapicaの導入活動に参画しているメンバーの人脈を活かしながら関係者へコンタクトを取り、有用性を丁寧に説明しながら賛同者を少しずつ増やしていきました。
木村:ただ、コストメリットの面では課題もあり、今後さらなるコスト最適化を期待しています。培養法とRapicaを比較した場合、どうしてもランニングコストが高くなってしまいます。
三枝:高度な技術である分、試薬やメンテナンスなどにどうしてもコストがかかります。
木村:弊社では、品質の高い医薬品を安全・安心に安定供給するうえで、Rapicaは効果的だと考えています。BCP※3の観点からも必要性が高いため、他工場への紹介も進めています。一方で、コストの負担がもう少しコンパクトになれば、より多くの企業で導入しやすくなるのではないかと思います。製薬用水以外の用途にも展開できると考えているので、今後もHORIBAに相談しながら検討を進めたいです。
三枝:Rapicaを選んだ理由は、やはり高感度で迅速性があることです。医薬品は患者さんの生命に関わるものであり、安全な品質の製品をお届けするためには必要十分な感度を確保することが重要だと考えています。Rapicaは迅速性を保ちながら高感度に微生物の検出が可能であり、当時の私たちの用途や運用にも最も適していると判断しました。また、操作性の面でもユーザーに優しい印象があります。試験者によるミスを起こしにくく、一定の教育を受けた担当者であれば安定して試験できる点は大きな強みだと感じました。
三枝:社会環境の変化や技術の進展によって、医薬品のモダリティ※4や品質管理の考え方も日々進化しており、医薬品の品質を支える分析技術についてもより高度で柔軟な対応が求められています。だからこそ私たちも、患者さんに安全な製品をお届けするために、常に新しい技術を取り入れながら技術力を高めていく必要があると考えています。微生物迅速試験法もその一つで、製薬業界としてこうした技術を積極的に評価し、導入を進めていくことが重要だと思います。また、分析装置メーカーから新しい装置や選択肢が出てくることで、検討自体も前に進めやすくなります。今後、微生物迅速試験法がさらに普及し、品質管理の有効な選択肢の一つとして業界で広く活用されていくことを期待しています。
田中:患者さんに確実に医薬品を届けるためには、研究や製造をタイムリーに進めていく必要があると強く感じています。研究所だけではなく、こちら側でも積極的に情報を集め、必要な提案を行っていく。そうした双方向の連携を通じて互いに高め合い、さまざまな技術を活用しながら、弊社のパーパスやビジョンの実現につなげていきたいと思います。
木村:Patient Centricity、つまり「患者さんを中心に考える」というおもいが根底にあります。弊社はがん領域を強みに研究開発を進めていますが、2030年に向けたビジョンとして、サステナブルな社会の発展に貢献することを掲げています。がんだけではなく、さまざまな希少疾患などにも取り組んでいきます。微生物迅速試験法については、米国や欧州の薬局方にも関連する章が盛り込まれるなど、規制面の整備が進んできました。技術的な選択肢も揃ってきています。あとは、それらをどう活用していくかを判断するのは製薬会社です。どのように展開していくか、今後も検討を続けていきたいと思います。

(インタビュー実施日:2026年2月)
*掲載内容および文中記載の組織、所属、役職などの名称はすべてインタビュー実施時点のものになります。
※1 ATP:アデノシン三リン酸。すべての生物の細胞内に存在する物質
※2 GMP省令:Good Manufacturing Practiceの略。適正製造規範。医薬品の安全性と有効性を確保のため、薬機法に基づいて医薬品などの製造を実施する規範
※3 BCP:business continuity planningの略。災害などの緊急事態が発生したときに、企業が損害を最小限に抑え、事業の継続や復旧を図るための計画
※4 モダリティ:創薬技術や治療手段の種別、またはそれらに基づいて製造された医薬品の種類

木村 健児(写真中央)
第一三共株式会社 テクノロジー本部 生産統括部 製剤生産技術部 分析技術第一グループ マネジャー
1997年入社
田中 寛人(写真左)
第一三共株式会社 テクノロジー本部 生産統括部 製剤生産技術部 分析技術第一グループ
2018年入社
三枝 毬花(写真右)
第一三共株式会社 テクノロジー本部 テクノロジー開発統括部 分析評価研究所 研究第三グループ
2021年入社
なお、第一三共株式会社には、会社に貢献したチームや社員を表彰する制度があります。今回インタビューを受けられた3名も、Rapicaの導入推進をはじめ、微生物汚染のリスク管理や製薬用水の微生物管理による安定供給の実現などが評価され、2025年度に表彰を受けられました。



