2025年12月、京都府与謝野町でクラフトビールづくりを手がける株式会社ローカルフラッグとHORIBAグループの福利厚生を担う株式会社ホリバコミュニティがコラボレーションし発売したブルーベリーサワーエール「果の環(このわ)」※1。異色の組み合わせから生まれたこのサワーエールには、どのようなおもいと工夫が込められているのか。誕生秘話や開発の裏側、そして今後の展望について、ローカルフラッグ代表取締役の濱田祐太氏と、ホリバコミュニティ取締役 事業統括部部長の百合広朗氏に伺いました。
ホリバコミュニティ 百合氏
百合:ホリバコミュニティは、HORIBAグループとその従業員が出資する会社で、国内のグループ社員の福利厚生を担っています。HORIBAの社是「おもしろおかしく」の実現をサポートするための会社ですね。生きがい・働きがいをもって、楽しく、おもしろく過ごせるように。社員が幸せだったら、仕事もうまくいきます。
事業としては、保険や旅行からHORIBAのオリジナルグッズをはじめとする各種物品販売に至るまで、幅広いサービスを提供しています。堀場製作所の自社農園「HORIBA Blueberry Farm “Joy and Fun”」の収穫物を加工した商品の企画・販売もしており、「果の環」で使っているブルーベリーもこのFarmで収穫されたものです。
濱田:ローカルフラッグは2019年に京都府北部にある与謝野町で創業し、主に地元のホップを使ったクラフトビールの製造販売をしています。近年、地域経済や産業が衰退している地域が増えていますが、行政だけで対処できる時代ではなくなってきています。もともと私は生まれ育ったこの地域のまちづくりに関わりたいとずっと思っていたので、自分たち、つまり民間が地域課題をビジネスによって解決していくべきだと考えました。目を向けると、地元でホップを栽培しているのに誰もビールを作っていない。じゃあ、それを使ってビールを造ろうと。そうして生まれたのが「ASOBI BEER(アソビビール)」です。2020年から販売を開始し、ありがたいことに最初の2、3年で少しずつ販路が広がり、今ではプロバスケットボールチーム「京都ハンナリーズ」の公式ビールにもなりました。そこで、いよいよ自分たちでちゃんと工場を作って、ビールを通じて人とつながれる場所を作りたいと思い、2023年に与謝野駅前に「TANGOYA(タンゴヤ)」を立ち上げました。
ほかにも、京都丹後企画という会社で、お土産物の企画や宿泊施設「mizuya(ミズヤ)」などの運営、七輪焼きのお店の事業承継、道の駅の運営など、地域のさまざまな拠点運営や不動産の活用をしています。
ローカルフラッグ 濱田氏
濱田:2024年に京都ハンナリーズの開幕戦に行ったときに、HORIBAブースで販売されていたブルーベリージュースを飲み、その美味しさに驚きました。「この味わいをビールにしたら絶対におもしろい!」と直感的に思い、そのひらめきが今回の企画につながりました。スポーツチームの公式ビールを手がけるなかで感じたのは、ビールには飲んでおいしい以外の価値があるということです。ビールを通じてファンの皆さんが与謝野町に来てくれたり、イベントに集まってくれたりする。人との関わりを増やせるんですよね。であれば、その関係を私たちだけではなく、スポンサー企業とのコラボレーションによって広げていけたらすごくおもしろいのでは……とずっと思っていました。
そんなある日、ローカルフラッグのデザイナーがたまたまお客様のところに行ったときに、HORIBAの社員の方と居合わせたんです。
百合:これが運命的な出会いでした。もともと濱田さんがHORIBAとのコラボレーションを考えてくれていたなかで、HORIBAの社員がローカルフラッグさんとたまたま出会って、「京都ハンナリーズ」のパートナーであることをきっかけに話をした。しかも、その場にいた社員のひとりがたまたま営業本部長で、HORIBAの元営業マンだった私とつながりがあり、「こんな話があるので聞きませんか」と声をかけてくれた。すべてがたまたま、偶然です。ひとつでもつながらなかったら実現しなかったと思っています。
濱田:本当に運がよかったです。話がスムーズに進みそうな方に出会えたのもラッキーでした。
百合:この偶然の重なりは、かっこよく言うと、濱田さんのおもいが呼び込んだのかなと。ただ、最初にお会いするとき、社長が来られると聞いていたのですが、実際に濱田さんを見てちょっとギャップがありました(笑)でも、お話を伺ううちに、熱量の高さが強く伝わってきました。アイデアがどんどん出てきて、新しいものを生み出すことにつながると確信しましたし、一緒にやったら絶対に成功すると思わせられました。
濱田:少し若さが出ていたかもしれません(笑) 最初の打合せでは、私が半分以上しゃべっていました。話していくうちに、百合さんもいろいろなことをやりたい人だとわかり、とても楽しみになりました。
濱田:堀場製作所という会社はもちろん知っていたのですが、ホリバコミュニティはこのコラボレーションで初めて知りました。出資の半分が会社、もう半分が社員というのはとてもユニークですよね。社是が「おもしろおかしく」というだけでも興味をひかれるのに、それを実現するために、会社と社員で頑張る会社ってすごい発想だなと思いました。今、人的資本経営が大事だと言われていますが、そんなことが流行る前からやっているというのはおもしろいです。全然知らなかったからこそ、この会社と何かできたら、いろいろ勉強になりそうだと思いました。あと、いろいろグッズを作られているのですが、全部いいものなんです。HORIBAロゴが入っているだけではなく、ブルーベリーフィールズ紀伊國屋治兵衛さん(ブルーベリー関連商品)ややまつ辻田さん(七味)など、一緒にちゃんとこだわって作られていますよね。
百合:それこそ、私たちがよく言う「ほんまもん※2」です。そういうところを見ていただけ嬉しいです。HORIBAの分析・計測機器って少し高価かもしれませんが、他にはないもの、他ではできないものだと思っています。それと同じ感覚ですね。HORIBAは、ものはもちろんですけれど、人のファクターもすごく大きい。だから初めて濱田さんに会ったとき、すごい熱量を浴びて、同じタイプだった私はすごく共感しました。
濱田:実は、「果の環」の商品化には苦労がたくさんありました。私たちは製造業としてはまだ歴史も浅く、至らない部分が多くありましたので、むしろこのコラボレーションでの苦労が会社のレベルを上げてくれたとすら感じています。まさに、「果の環」はローカルフラッグ全員の力で仕上げた商品と言えます。
私はアイデア先行で動くことが多く、スタート時に大変さを認識しないまま「ブルーベリーを使ったビールを作るぞ!」と、醸造士のメンバーにブルーベリーをどっさり入れるよう頼みました。でも、入れたのはいいのですが、タンクからタンクへビールを移送したあと、最初のタンクに大量のブルーベリーが残ってしまったんです。パイプラインにも詰まるほどに(笑) 本当にすごく非効率でもったいない。しかもそれが麦汁に漬け込んでいるので、ちょっと旨味が増しているようですごく美味しくて。これはこれで商品化できるのでは?という話も出たくらいです。でも、ビールを作るには効率が悪すぎるため、2回目以降は余すところなく使えるようにペースト状にして入れるようにし、使用量も減らすことができました。また、当時は缶充填を始めたばかりの頃でもありました。充填後の商品の清掃や保管は、もちろん今ではルールを決めて実施していますが、当時はまだ手探りで、管理が行き届いていませんでした。最初に納品した商品も、缶が汚れていたり、凹んでいたり、熨斗が冷蔵でよれてしまったりと、いろいろな問題が発生してしまいました。
百合:そんなこともありましたね……。
濱田:そのたびに会社でじっくり話し合って、一つひとつ工程を変えました。そうして解決していった結果、今では安定した品質を担保できるようになりました。「果の環」を作ったことが、きっちり納品までできるようその周辺も整える動きになり、業務フローの改善を加速させてくれました。大変なことだらけでしたが、このタイミングでこうした経験をさせてもらえたことは、レベルアップのいい機会をいただけたと感じています。
百合:今飲んでいるこの「果の環」もおいしいですが、前回いただいたものと少し味が違いますね。
濱田:そうです。2025年夏に先行販売分の1stロットを作ってから、今回で4thロットになります。毎回少し工程を変えている部分があるので、味もロットごとに少しずつ違っています。
中村(ローカルフラッグ 醸造士 中村貴大氏):原料は基本変えていないので、違いはブルーベリーを発酵中に加えるかどうかなど、投入するタイミングの違いですね。あとはpHです。今回はpHの調整をあえてしていません。
濱田:もともと、ビールは仕込みのときに少しアルカリ側に寄るのですが、それを乳酸などの投入で酸性に戻します。でも、「果の環」は発酵中に酸が出るため酸側に寄るので、あえて戻さずに仕込んで、その発酵のタイミングで酸側に寄らせる形にしているんです。
百合:それで変わるものなのですね。コントロールされていて、奥が深い。
濱田:そうですね。pHはしっかり管理しないと、酵母の働き方も変わってしまいます。ビールはタイミングや数値を見ながら作るので、他のお酒よりもけっこう工業化されているかもしれません。水質も先に調整しますし、同じ原料でもタイミングや麦汁を作る温度でも変わります。ホップを投入するタイミングも、液体温度を下げる60分前に入れるか、15分前に入れるかでかなり変わってきますね。
百合:普段よく飲むビールはきっちり毎回同じように作られていて、だからこそ安定した美味しさがあるのだと思いますが、クラフトビールはそういった変化が個性につながっておもしろいですね。
濱田:「果の環」の評判はかなりいいです。味はいうまでもなく、取り組み自体がおもしろいというのは各所から聞きました。京都の別の企業さんからもコラボレーションをしたいという話をいただき、波及効果を感じています。私が参加している会合でも記者発表会の記事が絶賛されていました。儲けとかそういったものだけではなく、HORIBAさんのおかげで事業力が上がったという副次的効果もあるからこそ、そういったありがたいお声をたくさんいただいているのだと感じます。
百合:HORIBAでは、「果の環」のことを経営陣をはじめ、社内の多くの方が知ってくれています。誰からも否定的な反応はなく、会長も会社の施設に置くよう声をかけてくれたり、副会長も外出時に持ち出してくれたりして、PRにも協力的です。社員からは、「美味しい」以外にも「甘い」とか「酸っぱい」とか言われることもありますが、それは飲んだからこそですよね。ものを作って反応がないのは寂しいです。どんなことでも意見を言ってくれるということは、それだけ飲んでくれた証明だと思うと嬉しいものです。
濱田:関心を持ってもらえているってことですよね。ちなみに、堀場会長には、京都サンガF.C.の試合観戦の際にご挨拶する機会があり、「ビール、頑張ってやろう!」と声をかけていただき、とても励みになりました
TANGOYAではLISTにあるASOBI BEERがサーバーから飲める
百合:ホリバコミュニティは、やはりHORIBAグループの社員の幸せが第一だと考えています。社員に「美味しい!」「楽しい!」など前向きな気持ちを持ってもらえるよう、そこはぶれずにこれからも企画を検討していきます。そのなかに、ローカルフラッグさんとのコラボレーションがあって、さらにワクワクするものを作っていけたらいいですね。売れる、売れないだけではなく、どんどんおもしろいことをしていきたい。新しい話もしているので、具現化していきます!
濱田:私は京都の企業とコラボレーションをしたりしながら、京都の街中で飲んでいただけるようなビールメーカーになりたいです。より京都という街に根ざした取り組みを進めていきたいですね。ただ、最終的にめざすところは、私たちのビールを目がけて与謝野町に人が来るようになることです。丹後地域は年間500万人観光客が訪れるのですが、与謝野町に来る人はそのなかの数パーセントです。観光消費額も高いわけではない。だからこそ、「ASOBI BEER」があることによって、与謝野町にわざわざビールを飲みに来てくれる、買いに来てくれる。そういう新しい切り口で人を呼べるメーカーになりたいと思っています。企業とコラボレーションすることで、多くの人に知っていただいて、応援してくださる方を増やしていきたい。頑張ります!
「果の環」は、単なるコラボレーション商品ではありません。地域をよくしていきたいというおもいと、社員を幸せにしたいというおもい。そのふたつをつなぎ、両社らしい「おもしろい」が形になりました。偶然の出会いから始まり、試行錯誤を重ねながら作った一杯。知っていただくと「果の環」は味わいだけではなく、その背景ごと楽しんでいただけるのではないでしょうか。これからも両社のチャレンジにご期待ください。

左:株式会社ローカルフラッグ 代表取締役 濱田 祐太
関西学院大学在学中の2019年7月、株式会社ローカルフラッグを設立し、「地域の旗振り役として、情熱と可能性に投資する」をビジョンに掲げ、京都府与謝野町を拠点に活動。京都の次世代を担う企業を表彰する「KYOTO Next Award 2025」で最優秀賞を受賞。
右:株式会社ホリバコミュニティ 取締役 事業統括部部長 百合 広朗
2000年堀場製作所入社。自動車事業の営業担当を経て、米国駐在。帰国後はデジタルタコグラフ、ドライブレコーダーの営業を担当し、2018年には東京セールスオフィス副所長、2021年より大阪セールスオフィス所長を歴任。2025年、ホリバコミュニティ 取締役 事業統括部部長に着任。
(インタビュー実施日:2026年4月)
*掲載内容および文中記載の組織、所属、役職などの名称はすべてインタビュー実施時点のものです。
※1 果の環:ブルーベリーを使ったクラフトビールです。酒税法上の区分は発泡酒
※2ほんまもん:本物(ほんもの)から派生した、京都で使われている言葉。創業者である堀場雅夫は「本物(ほんまもん)」は時代を重ねてもその価値が一流であり、人の心に触れて感動やひらめきを与え、揺るぎない信頼をもたらすと考えて、ほんまもんの技術開発にこだわりました。堀場製作所では、ほんまもんの意味を「心をこめてより良いものを追い求めつづけた先に生まれる、唯一無二の価値」と捉え、創業者のおもいを継ぐ言葉として大切にしています。




