品質管理の常識を変える ーRapica導入の効果とおもい

製薬会社は、人々の健康を守るため、研究開発や安定供給に取り組んでいます。ヒト用ワクチン、血漿分画製剤※1、動物用ワクチンに加え、新生児マススクリーニング※2などの事業も手掛けるKMバイオロジクス株式会社様では、HORIBAの微生物迅速検査装置Rapica(ラピカ/以下、Rapica)を導入いただいています。A型肝炎ワクチンなどのシングルサプライ品(国内で1社のみが供給する医薬品)も数多く有する同社において、Rapicaはどのような背景から導入され、現場にどのような変化をもたらしたのでしょうか。主に製薬用水への適用を検討された生産本部 菊池工場 菊池品質管理部 検査第二課の矢野聖也氏、ワクチン原薬のバイオバーデン※3管理への適用を検討されたCMC技術開発本部 製造技術開発部 原薬第一課の大山輝氏に、導入の経緯や効果、新しい技術に対するおもいを伺いました。

菊池研究所が担う役割

     生産本部 菊池工場 菊池品質管理部 検査第二課 矢野氏

矢野:菊池研究所は「研究所」という名称ですが、実際には工場機能も備えており、研究開発(R&D)と実生産の機能が同一敷地内にある拠点です。ここではB型肝炎ワクチンやパンデミック※4対応の新型インフルエンザワクチンの開発・製造を行っています。
私は主に製薬用水の品質試験を担当しており、導電率、TOC(全有機体炭素)、エンドトキシン、生菌数などを評価しています。生菌数については従来の培養法に加えて、現在はRapicaを使った微生物迅速試験法(以下、迅速法)にも取り組んでいます。そのほかにも、無菌試験、マイコプラズマ否定試験、環境モニタリング、DNA関連試験など、ユーティリティや製品に関わるさまざまな試験を担当しています。

大山:私はCMC※5部門に所属しており、新規開発品の初期開発から工業化研究までの製造方法の開発を担当しています。また、既承認ワクチンについては、製造方法や工程管理の改善改良も業務に含まれます。

管理体制の見直しから始まったRapica導入

     CMC技術開発本部 製造技術開発部 原薬第一課 大山氏

大山:もともとは、原薬品質管理の向上を目的としてバイオバーデン管理を強化する必要が生じたことがRapica導入の出発点でした。微生物試験は培養法が中心で、どうしても時間と人手がかかります。そこで、もっと効率的な方法がないか検討するなかで迅速法という選択肢を知り、原薬の製造現場での管理にも活用できるのではないかと考え、導入を検討しました。
Rapicaは微生物由来のATP※6という物質を測定するため、ワクチンでRapicaを使う場合は、サンプル中に含まれるATPが測定に影響を与える点が課題となります。この点については、HORIBAからの技術提案を受けながら検討を進められたことで、必要なデータの取得に集中できました。実際に何度もやり取りを重ねて導入を進めていきました。

矢野:実は最初に検討していたのは他社の装置でしたが、測定工程が手作業のため、負担が大きいと感じていました。ちょうどその頃、HORIBAがRapicaを発売したという情報をインターネットで見つけて、こちらから連絡を取ったのがきっかけです。タイミングはとても良かったですね。すぐに返事をいただけたのも印象に残っています。その後も要望にかなり応えていただきました。ソフトウェアは何度も改善を重ねてもらい、今はデータインテグリティ※7管理もしっかり構築され、直感的で使いやすいものになっています。
やり取りを重ねるなかで、社内導入も比較的スムーズに進みました。対象となるワクチン原薬のバイオバーデン評価自体がゼロからのスタートであり、検体数も多いことが想定されたため、立ち上げるのであれば培養法でやるよりも迅速法のほうが、人手が少なくて済むのではないかと考え、「まずはやってみよう」という流れで導入を進めました。
実際に使ってみると、特に大きかったのは手作業を大幅に削減できたことです。自動化によって、作業負担が軽減されただけでなく、汚染リスクの低減にもつながりました。価格は他社製品より高額でしたが、将来的には十分に回収できると判断して導入を決めました。また、データを客観的に残せることも大きなメリットです。微生物試験は目視判定が中心ですが、近年はステークホルダーからその運用に対する要求も厳しくなっており、データとして客観的に示せる点は品質管理の面で非常に重要だと感じています。

Rapicaがもたらした効果

矢野:Rapicaを導入したことで、製薬用水の試験では、従来は結果判定まで約1週間を要していたものが、前処理を含めて約4~4.5時間で当日中に結果が得られるようになりました。作業時間も24検体あたり培養法では約3~3.5時間かかっていたものが、前処理やろ過を含めても約1.5時間程度になり、短縮効果がありました。さらに、測定工程の自動化によって、汚染リスクの低減も感じています。Rapicaは、ろ過工程以降を自動で測定してくれるため、ろ過工程のみ注意すれば、作業者由来の汚染リスクを抑えやすいです。

大山:便利すぎて削減されている負担に気づきにくいくらいだと思います。実際にはかなりの作業が省力化されているはずです。

矢野:汚染の検出能力もかなり上がったと感じています。少しでも異常があるとすぐに「何か起きた」と気づきやすくなりました。培養法では捉えにくかった小さな異常も見えるようになったのは、品質管理上ポジティブに捉えています。

社内展開に向けたステップ

矢野:Rapicaで蓄積したノウハウを他工場へ展開できれば、より多くの現場で業務効率化や品質向上に貢献できると考えています。すでに有用性については他工場のメンバーにも共有しており、熊本工場の担当者からは見学の話も出ています。
GMP※8では、「実績があるかどうか」が非常に重要です。たとえば製薬用水では、ある工場で立ち上げのモデルケースをつくることができれば、その実績をもとに他工場へ横展開しやすくなります。一方で、微生物迅速法はまだ日本薬局方の一般試験法に収載されていないため、「どのように導入を進めればよいのかわからない」という点が、導入を検討する企業にとって大きなハードルになっています。だからこそ、まずはその壁を越えることが重要です。
さらに、ワクチン原薬のバイオバーデン管理では、医薬品の承認書類に試験方法を記載する必要があります。今回であれば、Rapicaを用いた試験方法が申請書類に盛り込まれます。そのため、当局も必ず内容を確認します。規格設定の根拠やバリデーション※9の妥当性などが厳格にチェックされるため、社内評価で完結できる製薬用水の場合よりも、ハードルは高くなります。
なお、現在、菊池研究所敷地内に新たに建設しているKD棟(菊池デュアルユース棟)でも、Rapicaの活用を想定しています。新棟立ち上げ時には、製薬用水設備のPQ※10で大量のサンプル評価が必要となり、非常に時間も手間もかかりますが、迅速に測定できるRapicaはこうした場面でも有効です。ただし、既存棟のように過去の実績データがないためRapicaを初期評価にどのように活用していくかは、今後の大きなポイントになります。

大山:第一例をしっかりつくることは、とても重要だと感じています。最初の事例がどれだけ丁寧に構築されているかによって、その後の見え方は大きく変わります。今、矢野さんが実生産におけるさまざまなリスクや運用面を想定しながら進めている取り組みは、今後この技術を普及させるうえでハードルを下げることにつながると思っています。

矢野:新しい技術を社内に広げていくうえで大切なのは、日頃のつながりはもちろんですが、相手の立場に立って考えることだと思います。自分たちのケースをそのまま当てはめるのではなく、相手の工場ではどのように使うのか、どのような試験を行っているのかを理解したうえで、その現場に合った形で提案することが重要です。一方的に押し付けるのではなく、相手のニーズに合わせて、一緒につくり上げていくことが必要だと思います。

最新技術で、より高い品質管理へ

矢野:今後もRapicaのような最新技術を取り入れながら、新しい価値を生み出していきたいと考えています。最近ではデジタルPCRなども含めて、技術は日進月歩で進んでいます。そうした技術をキャッチアップしながら、「こういう技術があれば解決できる」という課題に、これからも挑戦していきたいです。また、迅速法は日本薬局方の一般試験法には掲載されていないため、将来的には一般試験法への掲載に寄与できるよう、HORIBAと一緒に取り組んでいければと考えています。

大山:培養法で見ていたものを迅速法によってより細かなレベルで管理できるようになったことで、管理体制の強化につながっていると感じています。まだ十分に検討されていない試験法も多くありますが、分析機器の進化とともに、製薬業界全体の安全性向上に貢献していきたいです。

新しい技術に向き合う原動力

矢野:もともと好奇心が強く、「なぜだろう」と根拠を知りたくなる性格です。Rapicaも最初から前向きだったわけではありませんが、実際に取り組んでみると迅速法の奥深さが見えてきて、どんどん楽しくなってきました。調べて、試して、予想外の結果が見えてくると、さらに興味が深まっていきます。突き詰めていくと、いい仕事をしたい、誇れる仕事をしたいというおもいがあります。自分が手がけたことが10年後に見ても「しっかりやっている」「すごい」と評価されるような仕事を、胸を張ってしたい。それが一番の原動力ですね。


 

(インタビュー実施日:2026年4月)
*掲載内容および文中記載の組織、所属、役職などの名称はすべてインタビュー実施時点のものになります。

 

※1 血漿分画製剤:人の血液の血漿成分から有効なたんぱく質などを取り出し、製剤化したもの
※2 新生児マススクリーニング:新生児の先天性代謝異常等の早期発見を目的とした検査
※3 バイオバーデン:試料に混入している微生物の数
※4 パンデミック:感染症が国や大陸を越えて広がり、世界規模で多数の人に影響を与える状態
※5 CMC:Chemistry, Manufacturing and Controls(化学・製造・品質管理)の略。医薬品開発における重要なプロセス
※6 ATP:アデノシン三リン酸。すべての生物の細胞内に存在する物質
※7 データインテグリティ:データがライフサイクル全体を通じて、改ざんや欠落なく、正確かつ完全で信頼できる状態を維持していること
※8 GMP:Good Manufacturing Practiceの略。医薬品の安全性と有効性を確保するため、薬機法に基づいて医薬品などの製造を実施する規範
※9 バリデーション:工程・方法・設備が一貫して期待される結果を出すことを科学的に確認し、記録すること
※10 PQ:Performance Qualificationの略。バリデーションの一工程であり、設備やそれに付随する補助装置及びシステムが、承認された製造方法、及び規格に基づき効果的かつ再現性よく機能できることを確認し文書化すること

Profile

大山 輝(写真左)
KMバイオロジクス株式会社
CMC技術開発本部 製造技術開発部 原薬第一課
2023年入社

矢野 聖也(写真右)
KMバイオロジクス株式会社
生産本部 菊池工場 菊池品質管理部 検査第二課
2014年入社

 

おふたりは会社のサッカー部の先輩・後輩でもあり、部活動での関わりも、Rapica導入におけるスムーズなコミュニケーションに繋がっているそうです。

 

関連サイト

KMバイオロジクス株式会社
微生物迅速検査装置 Rapica - HORIBA