1. IRLAMの高い性能を支える光学系ハードウェア

IRLAM 分析計 構成部品の製造現場

IRLAM 分析計 構成部品の製造現場

IRLAMの特長である「高感度」「低干渉」「小型」「高信頼性」は、その独自のハードウェア構成によっても実現されています。

赤外ガス分析計の光学系は、「赤外光源」「ガスセル」「検出器」で構成されます。HORIBAでは、このうち「赤外光源」として「量子カスケードレーザ(QCL)」を、「ガスセル」として「ヘリオットセル(多重反射セル)」をそれぞれ新たに独自に開発し、IRLAMの光学系として採用しています。また高性能な分析計の製造を実現するために、IRLAMの光学系は高いスキルをもつ技術者によってすべて自社で設計・製造され、徹底した品質管理を行っています。

IRLAM 分析計 光学系の基本構成

IRLAM 分析計 光学系の基本構成


1) QCL - ガス分析に特化した自社製造のレーザ光源

多くのガスは、赤外線のなかでも中赤外とよばれる領域の波長に対して最も強い吸収を示します。この中赤外領域の光(4 - 10µm)を発振できる量子カスケードレーザ(QCL)は、ガス分析にとって最も適した光源とされています。またQCLからの光は波長の幅が非常に狭いため、干渉ガスの影響を避けながら、ターゲットガスが吸収する波長をピンポイントで狙うことができます。そのためQCLは、ほかの光源に比べて格段に高精度・高感度な測定を実現できます。

QCLは、レーザ素子を構成する半導体薄膜の構造によって発振波長を自由に設計することができます。また発振波長はレーザ素子の温度によって敏感に変化するため、パッケージに内蔵されたペルチェ素子で精密な温度管理を行うことで、狙った波長を正確に発振できます。測定するガス成分や試験条件はお客様によってもさまざまに異なりますが、自社でそれぞれの用途に最適な波長を発振するQCLを開発・製造できるため、多様なニーズにも柔軟に対応できます。

さらにHORIBAのQCLはガス計測に特化して設計されており、レーザによるガス分析特有の課題である光の干渉ノイズや周囲温度変化による発振波長のずれを極限まで抑えられるよう、独自の工夫が施されています(特許出願済)。

QCL 素子

QCL 素子

QCL モジュール外観

QCL モジュール外観


2) ヘリオットセル: 長い光路による高感度分析を実現

ガスの吸収量は、ガスセルの中に通された赤外光の光路長(光が伝わる距離)の長さに比例して大きくなります。光路長を長くするほど、測定の感度がよくなるため、より低濃度のガスが測れるようになります。

光路長と信号の大きさ

光路長と信号の大きさ

IRLAMでは、ヘリオットセルと呼ばれる、内部で2枚の凹面ミラーが合わせ鏡のように配置されたセルをガスセルとして用いています。レーザの、光の強度が強く長い距離をまっすぐに進むという性質を利用し、その2枚のミラーの間でレーザを多重に反射させることで、5メートル以上の光路長を得られると同時に、ミラーの設計を工夫することによりガスセルの小型化も実現しています(特許登録済(米国特許番号: 10551299))。

HORIBAのヘリオットセルは容積の小型化によって応答性を向上させており、少ないガス流量でも高速に計測できます。また振動・衝撃に強い堅牢な設計により、可搬性や応答性を必要とする分野でも、幅広い応用が期待できます。

ヘリオットセル内部の基本構成

ヘリオットセル内部の基本構成

ヘリオットセル外観

ヘリオットセル外観

開発者コラム2 - IRLAM開発ストーリー

HORIBAは65年以上もの間、NDIR(非分散型赤外吸収法)と呼ばれる赤外ガス分析技術を磨き続け、高精度なガス分析計を世の中へ送り出してきました。しかし近年の環境基準強化や産業の高度化によって、ガス分析計に求められる性能も多様化してきており、NDIR技術だけではお客様のニーズに応えることが難しくなってきました。

このNDIRの限界を打ち破るために私たちが注目した技術が、QCLです。QCLは、従来のNDIRとは桁違いに精度の高い分析計を作れる可能性を秘めています。

まず、私たちはこのQCLを自社で生産できるようにすることから始めました。HORIBAが提供する様々なガス分析計に対応するためには、QCLの発振波長を自由に調整することが必須で、自社生産するしかないと判断したのです。実は、HORIBAは、NDIRの性能を左右する最重要部品であるニューマティック検出器と光学フィルタを自社生産しています。HORIBAが高品質な分析計を世に送り出せる理由の一つとなっている、この「コアコンポーネントは自社で作る」というスピリットを、QCLにおいても受け継ごうと考えたのです。しかし、それは簡単な道のりではありませんでした。QCLの製造には高度な半導体製造装置と製造技術が必要ですが、それらをゼロから作り上げねばなりませんでした。

そして苦心の末、試作したQCLが初めて光った時の感動は今でも忘れられません。それから約10年の時を経て、私たちはようやく、QCLを用いた新たな赤外ガス分析技術「IRLAM」を完成させることができました。

IRLAMの重要な構成要素には、光源であるQCLの他に、長い光路長を作り出せる独自のヘリオットセルがあります。このヘリオットセルもまた、社内で一から設計を行いました。応答性を向上させるため、セル内部の容積をできるだけ小さくする工夫を施しています。

IRLAM技術は、QCL・ヘリオットセル・濃度演算アルゴリズムの三本柱により、ポテンシャルの非常に高いガス分析技術として成立したといえます。IRLAMが、ガス分析のどのような未来を開いてくれるのか大いに期待したいと思います。

HORIBAの次世代赤外分光技術 IRLAM

新たなガス濃度演算手法の開発

実際のアプリケーション

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