カーボンニュートラル社会に向けた各国の動きやニーズ、戦略、技術的期待

2015年のパリ協定での採択をきっかけに、世界はカーボンニュートラルの実現に向けて一気に歩みを進めており、日本でも「2050年にカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことが宣言されています。
こうした脱炭素・持続可能なエネルギーシステムの構築は世界共通の課題であり、グローバルに拠点を網羅するHORIBAは、刻々と変化する各国の政策・技術・経済的な動向を逃さず把握しています。ここでは、HORIBA独自の視点でとらえた最新の動向についてまとめたいくつかのトピックをご紹介します。
(下記の内容については公的機関から公表された情報をもとに整理しておりますが、当社独自の解釈や見解・知見などが含まれていることにご留意ください)

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目次


グリーンイノベーション(GI)基金 二酸化炭素(CO₂)分離回収技術 動向

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が立ち上げたグリーンイノベーション(GI)基金事業による「 CO2分離回収等技術開発プロジェクト 」では、地球環境産業技術研究機構(RITE)と協力して、国際標準化を視野に入れた国際的な認知の促進と、実際のガス試験センターの設立・運営を計画しています。また、経済産業省(METI)は、CCUSに関する世界の政策や2030年のNZEシナリオの達成に向けた不透明性の背景から、分離回収設備の導入を加速するとして、開発検討に入りました。特に、低圧・低濃度、中小規模の排出源に関する市場規模については、より詳細な調査が必要とされています。(2023年4月)

関連リンク:経済産業省「GI基金の取組状況について

      経済産業省「CO2分離回収技術開発に関連した 国内外の情勢について


スマートエネルギーWeek 2023 春 FC EXPO 会場レポート

アフターコロナ初となった当展示会では、通路を思うように歩くことができない時間があるほど、大勢のお客様にご来場いただくことができました。特に海外からは事前の予想をはるかに超える数のお客様がお見えになり、また当社の独自集計の結果、各ゾーンとも日本企業の出展社数を海外企業の出展社数が超えるなど、来場者・出展者ともに、エネルギー分野における海外からの日本市場への期待や、先端技術への関心の高さが顕著に表れた展示会となりました。

HORIBAは主要なエネルギー先進地域において大規模な投資を行い、エネルギー政策や技術の動向を最先端で把握しながら、世界の政府機関やアカデミア・有力企業とのプロジェクトやパートナーシップを数多く推進しています。FC EXPO HORIBAブースではこうしたグローバルでの具体的な取り組みを正面の大パネルにてご紹介。多くのお客様から大きな関心をお寄せいただきました。

Smart Energy Week【春】 FC EXPO HORIBAブースの詳細はこちら↓

水素エネルギーの社会実装に貢献する最新の分析・計測ソリューションを紹介 FC EXPO 2023 HORIBAグループオンライン展示会


政府間パネル(IPCC)第6次報告および国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の動き

2023年3月20日、気候変動に関するIPCCが、第6次統合報告書を発行しました。この報告書は、人類の気候変動への貢献が明確であり、持続可能な未来に向けた選択肢が急激に狭まってきていることを訴求しています。報告書は、温暖化が進行しており、進んでいる先進国と被害を受ける途上国の構図が重要であること、適応オプションは温暖化が進むほど制限されること、また、現在の取り組みが要求水準から遅れていることなどを強調しています。さらに、政策決定者向けの要約も発行され、ガバナンス、政策、ファイナンスなどの分野において迅速な行動が求められています。IRENAから発行された「世界のエネルギー転換見通し2023」には、これらを背景として、供給から需要に重点を移すこと、進歩を妨げる障害を克服すること、再エネシステムに4倍以上の投資をすることなどのトピックスが含まれています。IPCC報告書はやや難解ですが、国内の環境省、経済産業省、気象庁、国立環境研究所などから多様なメディアを用いた解説が始まり、年末のCOP28に向けた準備も進んでいます。(2023年3月)

参考リンク:IPCC「SYNTHESIS REPORT OF THE IPCC SIXTH ASSESSMENT REPORT (AR6)」(英語サイト)

      環境省「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書 統合報告書の公表について

      IRENA「World Energy Transitions Outlook 2023: 1.5°C Pathway; Preview」(英語サイト)


欧州連合(EU)グリーンディール産業計画(その後の動き)

2022年8月に施行された米国のインフレ抑制法や、米中の政府補助制度がEUにとって公正な競争に対する脅威になっていることが認識され、EU内でも同等の支援が必要であるとして、2月にグリーンディール産業計画が提案されました。欧州委員会は3月16日にこの計画の一環として、GHG排出ネットゼロ実現に貢献する技術(ネットゼロ技術)のEU域内での生産能力拡大を支援するネットゼロ産業規則案を発表しました。この規則案は、2030年までにEU域内で必要なGHG排出ネットゼロの40%を達成することを努力目標に置き、生産拠点に関する規制枠組みの簡略化や投資環境の改善などを通じて、太陽光・熱発電、風力発電、バッテリー・蓄電技術、ヒートポンプ・地熱発電、水素製造用の電解槽・燃料電池、持続可能なバイオガス・バイオメタン、CO₂回収・貯留(CCS)、グリッド技術などのネットゼロ技術に重点を置いています。規則案は3月末のEU理事会と欧州議会で審議される予定ですが、EU域内のルール制定に時間がかかるため、インフレ抑制法への対抗策としてのスピード感に欠ける印象があります。(2023年3月)

参考リンク:欧州委員会「Net-Zero Industry Act: Making the EU the home of clean technologies manufacturing and green jobs」(英語サイト)


資源循環社会の構築に向けた動静脈物流解剖図(METI)

近年、注目されている「資源循環(サーキュラーエコノミー:CE)」において、日本では動脈産業と静脈産業を結び、バリューチェーンを構築することが必要とされています。政府も「CEを通じた新しい成長を目指す」として、資源循環市場の構築を急いでいます。特に参考になるのは、公開された「動静脈物流解剖図」で、鉄、アルミ、プラスチックなどの材料や自動車、バッテリー、太陽光パネル、家電製品、衣服・繊維、PETボトルなどのバリューチェーンを詳細に図示し、ボトルネックを探っています。例えば、バッテリーの場合、原材料の多くが輸入に依存し、国内で必要な材料をまかなうことは困難です。さらに、回収が難しい元素もあることから、その実態把握は難しいと指摘されています。(2023年3月)

参考リンク:経済産業省「参考資料 (動静脈物流解剖図)


水素社会実現に向けた米国の動き(インフレ抑制法)

昨年8月に成立した「インフレ抑制法(Inflation Reduction Act of 2022)」は、バイデン政権の肝いりの税制であり、ヘルスケア、クリーンエネルギー、雇用対策によって、今後10年間で3,000億ドル以上の財政赤字削減効果が期待されています。

この法律に関して、日本では北米で最終組み立てされたEVに対する補助金(税額控除)など、自動車業界に注目が集まっています。一方、グローバルでは、水素経済社会の実現に向けた米国内への投資誘導が注目されています。米国は、太陽光や風力発電のポテンシャルも高く、燃料電池車の普及も含めて、水素を「つくる」「ためる・はこぶ」「つかう」ことが自国内で完結しています。さらに、水素輸出に対する期待から、水素経済が自国で完結しないドイツや日本からみても、投資価値があるとされています。(2023年1月)


内閣官房「グリーン・トランスフォーメーション(GX)実行会議」

2022年7月から議論されてきた、内閣官房の「GX実行会議」において、その10年間の基本方針が示されました(第5回会議は12月22日に開催されました)。首相は「GXは経済社会全体を変革するものであり、技術進歩や各国の取り組みによって状況が変わる。米国は大規模なエネルギー投資支援策を打ち出し、EUは先週、炭素価格の国境調整措置について合意した。日本も今後10年間において官民で150兆円超のGX投資を実現するため、国としても20兆円規模の先行投資を行う。現在直面しているエネルギー危機に対応した政策を加速していくため、国民や地域の信頼を積み上げていく必要がある。」と述べました。具体的には、カーボンプライシング、エネルギーの安定供給、投資促進策を中心に取り組み、再稼働と次世代革新炉開発を軸にした原子力政策の見直し、海底直流送電網の整備などにも言及しました。(2022年12月)

参考リンク:内閣官房「GX実行会議(第5回)


グローバル : COP27動向についての速報

2022年11月6日から18日まで、エジプトが議長国となりCOP27が開催されました。日本の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がまとめている事前情報では、国際協力、特に先進国による途上国支援が焦点となることが予想されます。国連(UN)はじめ現時点での主な情報として3点を列挙します(2022年11月)。

【国連グテーレス事務総長演説】
先進国と発展途上国で能力を組み合わせ、炭素排出量の削減、エネルギーシステムの変革、気候の大惨事の回避に向けて世界を方向転換するための歴史的な協定を求めました。主なメッセージは「私たちは気候地獄への高速道路にいる」、「米国と中国の2大経済大国は協定締結に特別な責任がある」、「ウクライナでの戦争とは異なる規模の危機」、「石油会社に課税し気候への影響に苦しんでいる人々を支援する」などと述べられています。

参考リンク:「COP27首脳会議でのアントニオ・グテーレス国連事務総長による開会挨拶」(シャルム・エル・シェイク、2022年11月7日)

 

「Sharm-El-Sheikh Adaptation Agenda」より引用

【シャルムエルシェイク適応アジェンダ】
京都議定書(COP3)にならい、エジプトが議長国として気候変動の影響を最も受けやすい地域に住む40億人の支援に向けた行動計画を示しました。「食の安全保障と農業」「水と自然」「人間居住」「海洋と沿岸」「インフラ」の5つのシステムについて、高温に強い農作物の栽培や、洪水・土砂崩れ災害の発生を知らせる早期警戒システムの導入を含め、2030年までに実現すべき具体策を盛り込みました。

参考リンク:「Sharm-El-Sheikh Adaptation Agenda

【洋上風力アライアンス(GOWA)への新たな参加 】
COP27において、気候とエネルギー安全保障に対する危機への対応として洋上風力発電施設を急速に増設するために、日本をはじめベルギー、コロンビア、ドイツ、アイルランド、オランダ、ノルウェー、英国、米国の9ヵ国が新たに Global Offshore Wind Alliance (GOWA) に参加することに合意しました。GOWAは、政府、民間企業、国際機関などの関係者が集まり、洋上風力発電の展開を加速するためのアライアンスであり、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)、デンマーク政府、世界風力エネルギー会議(GWEC)によって2022年9月に設立されたものです。

参考リンク:「Nine New Countries Sign Up for Global Offshore Wind Alliance at COP27 in Sharm El-Sheikh


ゼロエミッション車に向けた共同声明(COP26)

COP26において、主要市場では2035年までに、世界全体では2040年までに、販売されるすべての新車を電気自動車(EV)などのゼロエミッション車とすることが共同声明として発表されましたが、各国・各自動車メーカーの足並みは揃っていないことが浮き彫りになりました。
当声明への署名に応じたのは、UKやスウェーデンなど北欧諸国、カナダ、チリ、オランダなどの28ヵ国と、インドなど新興国10ヵ国、44都市・州。また自動車メーカーは、独Mercedes-Benz、米GM、Ford、中BYDなどの11社。さらに自動車メーカーの持株数が多い投資家や金融機関も加わります。一方で、日本、米国、中国、ドイツ、フランス、また日本の自動車メーカー、EV戦略を政府と進める仏ルノー、独VW、BMWなどは署名していません。Mercedes-BenzもDAIMLERとしての署名ではないことから、カーボンニュートラルに向けたブランド別戦略の濃淡が窺える結果となりました。(2022年 12月)

参考リンク:「COP26 DECLARATION ON ACCELERATING THE TRANSITION TO 100% ZERO EMISSION CARS AND VANS


グローバル:カーボンニュートラル加速のための国際協力強化(IEA、IRENA)

世界のGHG排出量の迅速な削減のため、国際エネルギー機関(IEA)と国際再生可能エネルギー機関(IRENA)から、強力な国際協力を促すレポートが同時に発行されました。
この背景には、世界的な政情不安定化によるカーボンニュートラル(CN)に向けたロードマップ進捗の遅れがあり、またCOP26における合意事項の再確認、および2022年11月に開催されるCOP27に向けた布石として位置づけられています。「国際協力の停滞はCN実現を数十年遅らせる」との警告が示されており、内容は5つのセクター(電力、水素、道路輸送、鉄鋼、農業)における行動変化、技術開発およびMaaS(Mobility as a Service)などのモーダルシフトが投資を呼び込み早期の市場拡大を実現するとしています。また、日本国内においては、「水素閣僚会議」が9月26日に開催されます。HORIBAでは、各国の発言からこれからの一年は水素製造のみならずグリーン発電(半導体)、モビリティの電動化、水素還元製鉄、土壌/水資源の保護などに注目が集まると予想しています。(2022年9月)

参考リンク: IEA「Breakthrough Agenda Report 2022
                   IRENA「THE BREAKTHROUGH AGENDA REPORT Accelerating Sector Transitions Through Stronger International Collaboration 2022」 


日本:水素保安戦略の策定に係る検討会(経済産業省)

気候変動、水素利用技術の進展、業態の多様化/複合化、安全要請など、水素保安を巡る内外環境が大きく変化する中、水素の社会実装加速を目的に、全体戦略とサプライチェーン全体を見渡すための題記検討会が発足しました。
論点には、消費者・地域住民等の安全の確保、円滑な水素利用を進めるためのサプライチェーン全体のシームレスな対応、水素の物理的特性や技術的進展/リスクに応じた対応などが挙げられています。8月5日に第一回(事業化ヒアリング、これまでの取組整理)を実施し、2023年2月には取りまとめ、公表とある。それに先立ち、2022年7月にNEDO主催による「水素・燃料電池成果報告会2022」が3日間にわたって大規模に開催されました。そこでも半数近くの時間が水素ステーション関連、地域での水素利活用モデル、Power-to-Gas、水素サプライチェーン、水素発電等について活発に議論されており、技術開発の枠組みを超え社会実装に向けた議論が始動しています。(2022年8月) 

参考リンク:経済産業省「第1回 水素保安戦略の策定に係る検討会」 


グローバル:エネルギー/鉱物/DX/宇宙分野へのウクライナ侵略インパクト(NEDOレポート)

「ウクライナ・ロシアレポート(エネルギー資源、鉱物資源・希ガス、デジタル・宇宙分野へのインパクト)」と題するレポートがNEDOから発行されました。資源価格の高騰、サプライチェーンへの影響、技術開発を含め短期的、中長期的に重要とされる事項を整理し、DX/宇宙/食料分野への影響にも言及しています。 
エネルギー課題に関しては、短期的には省エネという概念が薄かった欧州に対し、ヒートポンプなど日本の省エネ技術にとって千載一遇のビジネスチャンスと謳われています。また中長期的にはエネルギー安全保障を考慮したカーボンニュートラルの実現が重要とも。鉱物課題に関しては、蓄電池などリサイクル技術の活用促進、代替資源の開発、資源確保のレジリエンス向上、戦略的国際連携などが必要だとしています。さらに、サイバーセキュリティ、仮想通貨の利用が功を奏したなどDX分野の重要性も言及。ロシアが担う国際宇宙ステーション(ISS)の高度制御への影響など宇宙分野、またロシア、ウクライナ合わせて50%以上の世界生産シェアを占める、ひまわり油、大麦、小麦の価格高騰など食料分野への影響がまとめられています。(2022年7月) 

参考リンク:NEDO「ウクライナ・ロシアレポート」 


日本:サーキュラーエコノミー(循環経済)への動き

欧州のバッテリーパスポート(蓄電池に使用した材料、サプライチェーン、カーボン・フットプリント、性能などの情報を記録する仕組みの開発)に追従する形で、日本国内でも蓄電池を先行事例に、資源・製品価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止等を目指すサーキュラーエコノミー(循環経済)への取り組みが本格的に始動しています。 
その目的は、ライフサイクルでのGHG排出量(カーボンフットプリント)低減のみならず、リスクを継続評価・低減していく仕組み(人権・環境デュー・ディリジェンス)の確保にあります。一方で、リユース・リサイクルのための流通実態の把握、使用済み電池の回収力強化、リユース電池市場の活性化、リサイクル基盤の構築に加え、業界を横断したデータ連携・トレーサビリティの構築(DX)が課題として挙げられ、「必要なデータの特定」、「システム要件の特定」、「海外との調整」など、サプライチェーン全体を機器・製品・部品レベルで高度に連携させ、設計・生産から販売・保守・サービスまでを効率化・高付加価値化する必要があるとしています。(2022年7月) 

参考リンク: 経済産業省「蓄電池のサステナビリティに関する研究会 中間整理案」「データ連携について


インフォメーション

HORIBAを選ぶ理由

科学技術の発展と地球環境保全への貢献を企業理念にかかげるHORIBAは、常にゆるぎない「ほんまもん」の技術を追求しています。

グローバルパートナーシップ

HORIBAは各地域で拠点の整備を進め、各国政府の大型プロジェクトや権威あるアカデミアとのプロジェクトのパートナーに選ばれています。その実例の一部をご紹介します。

FC EXPO 2023

FC EXPO 2023

3/15~3/17 開催のスマートエネルギーweek内 FC EXPO 2023 におけるHORIBAブースの出展内容をご紹介します。

エネルギーTOP

HORIBAは、それぞれのエネルギー源を最適な方法で、高効率・低排出、かつ少ないエネルギーロスで運用し、かしこく「つくる」「ためる」「つかう」新時代の到来を実現すべく、分析や計測の側面から総力を挙げて取り組んでいきます。 


分野別 分析・計測ソリューション

水素エネルギー製造・利用

水素・アンモニアなどを媒体とするエネルギーの製造・利用に役立つ、HORIBA独自の幅広い「はかる」技術

CO2の循環

CO2を発生源から回収し、資源として有効活用するための様々なプロセスに「はかる」技術で貢献

エネルギー利用の最適化

研究開発現場におけるエネルギー消費量を「見える化」し、最適な利活用へと繋げる「エネルギーマネジメントシステム」の構築