脱炭素社会に向けた各国の動きやニーズ、戦略、技術的期待

2015年のパリ協定での採択をきっかけに、世界はカーボンニュートラルの実現に向けて一気に歩みを進めており、日本でも「2050年にカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことが宣言されています。
こうした脱炭素・持続可能なエネルギーシステムの構築は世界共通の課題であり、グローバルに拠点を網羅するHORIBAは、刻々と変化する各国の政策・技術・経済的な動向を逃さず把握しています。ここでは、HORIBA独自の視点でとらえた最新の動向についてまとめたいくつかのトピックをご紹介します。
(下記の内容については公的機関から公表された情報をもとに整理しておりますが、当社独自の解釈や見解・知見などが含まれていることにご留意ください)

これからのエネルギー社会を支える新しい技術に貢献するHORIBA

目次


環境問題とHORIBAのあゆみ

はじめに、HORIBAのあゆみについて簡単にご紹介します。
HORIBAは創業当初から70年以上にわたり「高効率」「低排出」をミッションに、独自の高度な「はかる」技術を磨くことで、大気汚染や水質汚濁など環境問題解決への取り組みに大きな役割を果たしてきました。中でも赤外線ガス分析技術はコア技術の1つであり、1957年国産初の工業用ガス分析計「GA-1」の開発に始まり、環境用分析機器としてもその活躍の舞台を拡げ、今日の幅広い製品展開に至っています。
HORIBAのガス分析計は基本技術・部品のすべてを社内で開発・製造し、その分析性能を高めるとともに市場からの開発課題にすばやく対応できることが強みです。かつて大気汚染が深刻な社会問題となっていましたが、1966年の自動車エンジンからのCO排出濃度規制開始に先駆け、HORIBAは1965年に国産初の自動車排ガス分析計「MEXA-1」を開発。その優れたガス分析技術は、もう一つの大気汚染の発生源であった工場からの煙道排ガスにも応用されました。
それ以来HORIBAは、環境汚染の低減や関連規制への対応に貢献する分析・計測技術の発展に取り組み続けており、そして今、水素やCO2といったエネルギー関連の新しい「はかる」技術開発にも幅広く、グローバルに貢献しています。

参考リンク:HORIBA 技術情報誌 “Readout” 環境関連技術

国産初の自動車排ガス測定装置 MEXA-1

国産初の自動車排ガス測定装置 MEXA-1

国産初の工業用途赤外線ガス分析計 GA-1

国産初の工業用途赤外線ガス分析計 GA-1

「高効率」「低排出」で環境技術に貢献

「高効率」「低排出」で環境技術に貢献


脱炭素社会に向けた各国の動き

2050年付近にカーボンニュートラルを宣言する各国の潮流にあわせて、北欧先行で内燃機関自動車廃止の動きが活発化しています。北米ではカリフォルニア州などが2035年までに廃止、中国も2035年までに新車販売を電気自動車(Electric Vehicle: EV)やハイブリッド車などのNEV(New Energy Vehicle)のみにすることを2020年9月に宣言しました。イギリス政府も2040年に置いていた目標を2030年(ハイブリッド車は2035年)に前倒しすることを宣言しています。

背景の理解には、IEA(国際エネルギー機関)発表の「World Energy Outlook(WEO) 2020」が役立ちます。当レポートでは「Net Zero Emissions by 2050(NZE2050)」シナリオが新しく追加されました。NZE2050シナリオでは2019年までの電動車普及予測を大幅に修正し、乗用車では2030年までに電動車を50%以上、トラックであっても30%としています。特にトラックではその半分以上を燃料電池車(Fue Cell Electric Vehicle : FCEV )としており、FCEVの普及速度は従来予測に比較して10倍近くにもなります。脱炭素社会を実現するための努力は、まさに今、世界各国から始まっています。

参考リンク:IEA『World Energy Outlook 2020』および当レポート内『Report extract Achieving net-zero emissions by 2050


再エネ比率からみた各国の水素貯蔵ニーズ

IEAの「World Energy Outlook(WEO) 2019」では、欧州の水素戦略では「カーボンニュートラルに向けて、まずエネルギー効率化、次に再生可能エネルギー(再エネ)の利用拡大、そして電化等が困難な分野で水素を適用する」と位置づけています。変動の大きい再エネはその規模を拡大するだけではなく、同時に省エネルギーや変動を吸収する効率的な使い方が求められています。

IEAの2024予測では、各国の再エネ普及比率から取り組みを6段階に分けています。日本は2段階目に低い「電力系統システムへの僅かな影響」と位置づけており、6段目に置かれた「季節間もしくは年をまたぐ超過・不足」には当面届かないため、再エネの水素貯蔵ニーズが高まるのはまだ先と考えられています。一方、再エネ比率の高い欧州の国々では、電力調整手段として電解および水素貯蔵の技術確立を急ぐ必要性に迫られています。
このように日本と欧州各国では、再エネ比率に依存して水素/エネルギーの技術戦略が異なってきます。

参考リンク:IEA『Status of Power System Transformation 2019


電解水素(グリーン水素)への期待

「World Energy Outlook(WEO) 2020」では、COVID-19からの回復シナリオと経済成長の両立が強く述べられています。特に再生可能エネルギーへの投資を加速しないと経済回復は大幅に遅れ、特に発展途上国の生活の質を長期的に落とすとも述べておりESG投資の重要性を訴えます。
またIRENA(国際再生可能エネルギー機関)のレポート「Green hydrogen cost reduction」では、再生可能エネルギーを利用して生成するグリーン水素のための水電解装置の課題について言及されています。
グレー水素(化石燃料由来の水素)に対して現在3倍以上高いグリーン水素(再生可能エネルギー由来の水素)の製造コストを、電解プラントの規模拡大(1MW→20MW)によって1/3に削減できるとしています。また、電解の方式に関しても、実用化目前の「固体高分子膜(Polymer Electrolyte Membrane: PEM)形水電解」は「アルカリ形水電解」よりも変換効率およびすばやい起動停止による柔軟性(電力調整手段)の点で有利と報告されています。

さらに、特に日本で技術開発が進む固体酸化物形(Solid Oxide: SO)方式は、電極の劣化や高温下でのシーリングに課題があるため研究開発段階にあるものの、変換効率の高さと、水蒸気とCO2から直接合成ガスを生産できる点において、CO2の回収・貯留・有効活用(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage: CCUS)や合成液体燃料の製造など、さまざまな用途に活用できるため、将来有望とも報告されています。

なお、このIRENAレポートではセルからシステムレベルまでの技術課題が詳細に解説されているため、技術解説書としても大いに参考になります。

参考リンク:IEA『World Energy Outlook 2020』および IRENA『Green hydrogen cost reduction


日本政府方針: グリーン成長戦略とDX

2020年10月、日本は「2050年カーボンニュートラル」を宣言、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標を掲げました。この目標は従来の政府方針を大幅に前倒すもので、エネルギー産業の構造転換や、大胆な投資によるイノベーションといった現行の取り組みの加速が必要です。そのために2020年末には2つの大きな方針が日本政府から出されました。一つは「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」、もう一つが「デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速」です。注目すべきは両者が相乗りの形で今後の政府方針を形づくるであろうと予測される点です。

グリーン成長戦略では、カーボンニュートラルを電化社会と置き、電力・電池を効率的に「つくる」「ためる」「つかう」ためには強靭なデジタルインフラが必要と説かれています。またそのために10 年間で2 兆円の「グリーンイノベーション基金」を呼び水として、民間企業の研究開発・設備投資を誘発し野心的なイノベーションへ向かわせるとされています。

電源ミックスにおける再エネ比率など、各国の置かれた状況によりエネルギー政策は異なります。例えばパイプラインで水素を「はこぶ」計画のドイツと、豪州の褐炭水素を船舶で「はこぶ」計画の日本は同じ道を進むことはできません。水素コスト低減にも限界があるため、10年ほど前に家庭用エアコンの性能を飛躍的に高めた「トップランナー制度(省エネ法)」を再度取り入れるなど、民間主導による効率向上のための技術開発、水素ガスタービン発電など水素需要の創出も求められています。日本は先端技術の開発とその輸出に進むことも一つの選択肢になるようです。

参考リンク:経済産業省 『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を策定しました』、経済産業省『デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会』、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)『グリーンイノベーション基金事業』、資源エネルギー庁『トップランナー制度について


排出量取引に向けた取り組み

CO2と水素を原料とする「合成燃料」や化成品の合成の技術開発が欧州や日本を中心に進んでいます。こうした合成技術はその技術的課題の解決だけでなく、「カーボンプライシング」と呼ばれる排出量取引の制度設計も急がれています。
カーボンプライシングは排出量の多い化石燃料に課金や課税し排出減を促す施策です。先行する欧州では排出量取引価格が現在1トンあたり5000円で排出量取引がビジネスとして成立するレベルに達している一方、日本ではまだ300円程度となっており、引き取り側にメリットが生まれないことから、日本では普及が進まないのではとの懸念があります。
日本では現在、排出量算定が標準化されておらず取引価値が曖昧となっており、国際取引にも対応できない様子です。事業者にとっては、製品がカーボンニュートラルであることを宣言するため、合成燃料のプロセス特定・CO2排出源の特定・サプライチェーンにおける事業者の相互関係の特定などが必要とされます。そのためには、ISO14064-1など国際標準との整合性や、環境特性の評価方法を国内・業界団体等で策定し国際標準化するなど、対策指針も出されています。現在、日本政府主導のカーボンプライシング制度設計議論が本格的に始まった段階です。

参考リンク:経済産業省『世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等のあり方に関する研究会

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