XRF

蛍光X線分析(XRF)の原理

蛍光X線分析とは?

蛍光X線分析(XRF)は、X線と物質との相互作用を利用して元素組成を測定する分析技術です。固体、液体、粉体の分析に適しており、物質組成の定性・定量分析に有効な手法としてさまざまな場面で用いられています。また、一部の例外を除き非破壊で分析することができます。

XRF にはエネルギー分散型 XRF (EDXRF)と波長分散型 XRF(WDXRF)の2つの主要な手法があります。それぞれ、測定の簡便さ、分解能の高さ、測定可能な元素範囲など異なる特徴を持ち、目的に即した手法を選択することができます。

一般的にEDXRFは、ナトリウム(Na)からウラン(U)までのすべての元素を検出可能であり、WDXRFはさらにベリリウム(Be)まで拡張することができます。濃度は100%からppm、場合によってはサブppmレベルの分析が可能です。また、分析対象元素とサンプルマトリックスに依存しますが、一般的に分析対象元素が重い元素であるほど検出限界は高くなります。

XRFは冶金、科学捜査、ポリマー、エレクトロニクス、考古学、環境分析、地質学、鉱業など多様な分野において、迅速な特性評価ツールとして世界中の多くの分析ラボで使用されています。

X線

X線は電磁波の一種であり、紫外線とガンマ線の中間のエネルギーを持ちます。波長は通常0.01~10 nmで、これは0.125 keV~125 keVのエネルギーに相当します。

19世紀後半からの四半世紀にX線放射のさまざまな探査が行われましたが、その特性を実際に科学者の目に留めたのは、1895年のヴィルヘルム・レントゲンの放電管の研究でした。レントゲンは後にノーベル賞を受賞し、現在でも多くの言語でレントゲンの名前が使われています。

X線は病院での医療用画像診断や空港のセキュリティゲートでの手荷物検査など、社会で広く使われています。また科学分野では、元素や構造の分析に不可欠なものとなっています。

X線と物質との相互作用

19世紀末から20世紀初頭にかけてのレントゲンの研究により、X線の透過性は急速に認知され、医療用画像診断の有用性はすぐに認識されました。しかし、X線と物質との相互作用は単に「透過」するだけではなく、より複雑なものです。物質に到達したX線の一部は吸収され、一部は散乱、どちらも起こらない場合、X線は物質を透過します。

吸収が起こると、X線は原子レベルで物質と相互作用し、蛍光X線を発生します。この蛍光X線がXRFの基礎となります。散乱は、エネルギーを失う場合と失わない場合があり、それぞれコンプトン散乱、レイリー散乱と呼ばれます。吸収・蛍光、コンプトン散乱、レイリー散乱、透過のどれが発生するかは、試料の厚み、密度、組成、X線エネルギーに依存し変化します。

蛍光X線分析 - 基本的なプロセス

蛍光X線分析は原子レベルで起こる簡単な3ステップのプロセスで考えることができます。

  • 1次X線が、原子核を取り囲む軌道の一つから電子を叩き出す
  • その結果、その軌道は不安定になる
  • 均衡を保つため、電子が抜けた穴に、よりエネルギーの高い外側の軌道から電子が落ちてくる(遷移)。放出された電子と置き換わった電子では後者の方がエネルギーが高く、このエネルギーの余剰分が蛍光X線の形で放出される。


放出された電子と置換した電子のエネルギー差は元素ごとに特有の値を持つため、放出される蛍光X線のエネルギーは分析対象元素ごとに異なる値を持ちます。蛍光X線分析装置が元素組成の迅速な分析に適しているのは、このような重要な特性があるからです。

一般に、特定の元素の蛍光X線のエネルギーは材料の化学的性質とは無関係です。例えば、CaCO3、CaO、CaCl2から得られるカルシウムのピークは、3つの物質で全く同じエネルギー位置にあることになります。

X線分析顕微鏡(微小部X線分析装置)の原理

蛍光X線 - 多重遷移

多くの原子は複数の電子軌道(K殻、L殻、M殻など)を持つため、さまざまな蛍光遷移が可能です。

例えば、K殻、L殻、M殻を持つ原子にX線を照射すると、K殻の電子が飛ばされて穴が開き、そこにL殻またはM殻の電子が充填される場合が考えられます(K遷移)。また、L殻の電子が飛ばされて穴が開き、そこにM殻の電子が入ることもあります(L遷移)。

このように、1つの元素に対して複数の蛍光X線ピークが存在する可能性があり、これらのすべてのピークがスペクトルに現れます。元素ごとに発生する遷移の種類が異なり、かつ、それぞれが持つエネルギーも異なることから、元素ごとに特徴的なフィンガープリントを形成します。

蛍光X線 - 強度

ある物質がX線を吸収する量はX線のエネルギーによって変化します。基本的に、低エネルギーのX線は高エネルギーのX線よりも多く吸収されます。

電子を軌道から追い出すには、X線のエネルギーがその電子の結合エネルギーを上回る必要があります。しかし、X線のエネルギーが高すぎると、X線と電子の結合効率が悪くなり、数個の電子しか追い出すことができなくなります。X線のエネルギーが電子の結合エネルギーに近づくと、放出される電子の量が増えます。一方、結合エネルギーをわずかに下回るX線は、その殻から電子を放出するのに十分なエネルギーには足りず、より低い殻から電子を放出するにはエネルギーが高すぎるため、吸収率の低下が見られます。

上記で説明したように、入射したX線がすべて蛍光を発するわけではありません。入射X線に対する蛍光X線が発生する割合を蛍光収率と呼びます。軽元素の蛍光収率は非常に低いため、軽元素の感度は一般的に低くなります。

蛍光X線分析装置

蛍光X線分析は、蛍光X線を分析することにより、特定の物質の元素組成に関する情報を得る技術です。

一般的な蛍光X線分析装置の主な構成要素は以下の通りです。

  • 試料を照射するためのX線源
  • 試料
  • 放出された蛍光X線の検出

 

蛍光X線分析装置は、X線の強度(通常1秒あたりのカウント数)をエネルギー(通常eV)の関数として表示する、XRFスペクトルを生成します。

蛍光X線分析には、主に2つのタイプがあります。「エネルギー分散型XRF(EDXRF)」と「波長分散型XRF(WDXRF)」で、主に蛍光X線の検出・分析方法が異なります。

エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDXRF)

「EDXRF」は、さまざまなエネルギーのX線を直接測定する装置です。各エネルギーにおけるX線の相対数をカウントしプロットすることで、XRFスペクトルを生成しています。

ED検出器では、X線による電離現象を利用して半導体材料中(多くはシリコン)に電子-正孔対を生成することで、X線を電気信号として取り出すことができます。エネルギー\(E_x\)の入射X線は半導体材料に吸収され、1つまたは複数の電子-正孔対を生成します。生成のためのエネルギー(\(E_{EHP}\))は、その半導体材料ごとに決まっており、X線はそのエネルギーが\(E_{EHP}\)より低くなるまで電子-正孔対を生成します:

電子-正孔対の数\(=E^x | E^{EHP}\)

生成後、電子は検出器から引き離され、ある一点へと集められることで電流が流れます。電流は電子・正孔対の数に比例し、それ自体がX線のエネルギーに直接比例します。

この解析作業を高速で繰り返しエネルギーごとに分類することで、エネルギーごとの頻度分布、つまりXRFスペクトルを生成します。

波長分散型蛍光X線分析装置(WDXRF)

「WDXRF」は、X線をその波長に応じて物理的に分離する装置です。

X線を結晶に照射すると、X線は波長(エネルギー)に応じてさまざまな方向に回折します。測定したい波長のX線が得られる角度に分光結晶と検出器を配置することで、特定の波長のX線強度を得ることができます。

広い波長範囲のX線を得るために、「シーケンシャル型装置」と「多元素同時型装置」が存在します。シーケンシャル方式では、検出器を一定の位置に設置し、分光結晶を回転させて異なる波長のX線を連続的に検出器に拾わせます。この方式では、XRFスペクトルはポイントごとに構築されます。また、多元素同時測定方式では、複数の分光結晶/検出器ユニットを固定して配置することで、複数の元素を同時に検出することができます。

「EDXRF」と「WDXRF」技術の主な違いは、達成可能なエネルギー(スペクトル)分解能にあります。「WDXRF」システムでは、設定により5eVから20eVの分解能が得られますが、「EDXRF」システムでは、使用する検出器の種類により150eVから300eV以上の分解能が得られます。

「WDXRF」の高い分解能は、スペクトルの重なりを減らすという利点をもたらし、複雑な試料をより正確に特性評価することができます。さらに、バックグラウンドが減少するため、検出限界と感度が向上します。

しかし、「WDXRF」システムには光学部品(分光結晶やコリメータなど)が追加されるため、効率が大きく低下します。一般的に、これは高出力のX線源によって補われますが、コストと使いやすさに大きな影響を与える可能性があります。追加光学部品もコストに影響し、比較的高価な装置となります。

最後の違いは、スペクトルの取得にあります。XGTシリーズのような「EDXRF」システムでは、スペクトル全体がほぼ同時に取得されるため、周期表のほとんどの元素を数秒で検出することができます。「WDXRF」では、スペクトル取得はポイント・バイ・ポイントで行われるか(非常に時間がかかる)、または同時検出可能元素の数が非常に限られています(検出可能元素が増えるほど高価なオプションとなる)。

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