溶媒中の粒子はプラスかマイナスの電荷を帯びており、粒子の分散安定性はこの表面電荷に大きく依存します。 溶媒中でマイナスに帯電している粒子とその周りのイオン分布を下図に示します。
粒子表面の近傍では粒子表面の電荷と反対符号のイオンが多く存在します。 粒子分散液に電圧をかけると、粒子表面の電荷量に応じて粒子が並進運動します。この運動は電気泳動と呼ばれます。 この時、粒子と共に電気泳動するイオンの表面をすべり面と呼びます。 ゼータ電位とは、すべり面での電位と定義されており、粒子の分散性の指標として広く使われています。
粒子のゼータ電位はレーザードップラー電気泳動法という手法で測定することができます。 ここでは、レーザードップラー電気泳動法を用いたゼータ電位の測定原理を説明します。
電極付きセルに入った粒子分散液に電圧を印加し、粒子を電気泳動させます。 電気泳動している粒子にレーザー光を照射し、粒子からの散乱光を検出します。 この時、粒子の電気泳動速度に応じて散乱光の周波数がドップラーシフトします。
ドップラーシフト量ΔVdと電気泳動速度(正確には電気泳動移動度)Uは以下の関係で結ばれています。
\(U=\frac{\lambda{\cdot}{\Delta}V_d}{2{\cdot}E{\cdot}n{\cdot}\sin({\theta}/2)} \) …(1)
レーザー波長λ、電場E、溶媒の屈折率n、散乱角θ
そして、下記のヘンリーの式を用いて、電気泳動移動度Uから粒子のゼータ電位ζが求められます。
\(ζ=\frac{U{\cdot}{\eta}}{{\varepsilon}{\cdot}f(ka)} \) …(2)
溶媒の粘度η、溶媒の誘電率ε、ヘンリー係数f(ka)
ヘンリー係数f(ka)は粒子径や粒子表面の電荷量に応じて2/3~1の範囲で変わるパラメータです。 多くの粒子分散液では、イオンの厚みに比べて粒子径が十分大きくなり、f(ka)=1となります。 f(ka)=1の場合の(2)式はスモルコフスキーの式と呼ばれ、電気泳動測定で最も広く使われている関係式です。
レーザードップラー法は非常に簡便に粒子のゼータ電位を測定出来る分析手法です。 サンプル濃度は低濃度からある程度高濃度まで測定可能ですが、レーザーが透過する程度の濃度である必要があるため、不透明な高濃度試料は、レーザーが透過できるまで希釈する必要があります。
ナノ粒子解析装置 nanoPartica SZ-100V2と典型的な測定例
nanoPartica SZ-100V2の光学系を下図に示します。 セル中の試料にレーザーを照射し、前方方向に配置した検出器(PMT)で散乱光を検出します。 実際には、入射光の一部を分岐させた参照光を散乱光と干渉させたヘテロダイン光学系を採用しています。 ヘテロダイン光学系により、入射光の周波数に比べて極めて微小なドップラーシフト量でも検出することができます。
レーザードップラー法はゼータ電位の平均値だけでなく分布も測定できるという特徴があります。 また、測定に必要なサンプル容量は100μLと小容量なので、容量が限られる貴重なサンプルなどのゼータ電位測定にもお使いいただけます。
典型的な測定例
粒子のゼータ電位は溶媒のpHやイオン濃度にも依存します。ゼータ電位がゼロになるpHを等電点と言います。 等電点では粒子が最も凝集しやすくなるため、安定した粒子分散液を得るためには、等電点を回避したpHにする必要があります。 ここではpHを変えながらリゾチームのゼータ電位を測定した結果を示します。
このグラフから、リゾチームの等電点はpH11.4であることがわかりました。
このように、レーザードップラー電気泳動法によるゼータ電位測定を通して、簡便に粒子の分散安定性を分析することができます。
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