レーザー回折 / 散乱法では、粒子径の違いによる散乱パターンの変化を用いて粒子径を算出しましたが、Mie 散乱を起こす領域よりもさらに小さい粒子径の領域では、散乱が等方的になる Rayleigh 散乱となり、散乱パターンからでは粒子径を算出することができなくなります。
粒子は溶媒中でブラウン運動をしています。ブラウン運動は粒子が小さいと速く、大きいとゆっくりとした動きになります。この粒子にレーザー光を照射したとき、散乱光の強度は、このブラウン運動によるゆらぎを持っています。したがって、小さい粒子からは速く変化するゆらぎ信号が、大きい粒子からはゆっくりした変化のゆらぎ信号が得られます。このゆらぎ信号を解析して粒子径を算出するのが「動的光散乱法」です。解析方法には、大きく分けて「周波数解析法」と「光子相関法」の2つがあります。ここでは光子相関法に基づいて原理を説明します。
動的光散乱法で測定を行うとき、散乱光は光電子増倍管(PMT)などの高感度の検出器を用いて、フォトンカウントで取得します。そうして得られた散乱光強度 I(t) は、下記の式に基づいて相関関数の形に計算されます。
\(g_2\left(q,\tau\right) = <\text{I }(t)・I (t+τ) >)\)
得られた自己相関関数は、横軸を遅れ時間τとして描くと上図のようになります。ここでは室温の水中で、粒子径に分布がない粒子群を想定して計算しています。このように、小さい粒子は自己相関関数が早い遅れ時間で変化し、大きい粒子は遅い遅れ時間で変化していることがわかります。ここでは横軸に対数軸を取っていますが、横軸を線形軸に取れば、指数関数的に減衰する形状になります。また、縦軸を対数軸に取り、横軸を線形軸に取れば直線的な形状となります。この自己相関関数から、前述の式に基づいて粒子径が求められます。自己相関関数は次のように表されます。
\(g_2\left(q,\tau\right) = <\text{I }(t)・I (t+τ) > =A\begin{bmatrix}1+Bexp\begin{pmatrix}-2\Gamma\tau\end{pmatrix}\end{bmatrix}\)
散乱ベクトルq 、時間差τ 、減衰定数Γ 、ベースラインΑ 、 切片Β
Γはブラウン運動している粒子の拡散係数Dと関係付けられます。
\(Γ=Dq^2\)
\(q=\begin{pmatrix}4πn/\lambda_0\end{pmatrix}\sin\begin{pmatrix}\theta/2\end{pmatrix}\)
このとき、分析装置が決まれば角度のθは検出器の配置、入射光の波長λ₀は用いている光源から決まり、自己相関関数から拡散係数Dを求めることができます。
そして温度と粘度の情報が与えられれば、拡散係数Dからストークス・アインシュタインの式で粒子径を算出できます。
\(D=kT/\text{3πηx}\)
拡散係数 D、粒子径 x、粘度 η、ボルツマン定数 k 、絶対温度 T
この演算も粒子が 1 つだけであれば容易ですが、分布を伴う粒子の集団として考えると、レーザー回折 / 散乱法と同様に逆演算となります。すなわち、既知の粒度分布からその粒子集団が作る自己相関関数を計算することは容易ですが、得られた自己相関関数から粒度分布を計算すると、数学的に複数の答えが出てきます。
このような演算を経て、粒子径として拡散係数相当径、粒子径基準として散乱光強度基準の粒度分布が得られます。ただしこの拡散係数相当径は、粒子自体だけでなく、それにひきつられて一緒にブラウン運動しているイオンの層(電気二重層)も含む大きさになります。
自己相関関数から粒度分布のヒストグラムをつくる際の演算方法には様々なものがあり、それぞれで結果が異なります。中でも、非常にシンプルにした解析方法であるキュムラント解析がよく用いられます。この解析方法では、強度分布からの平均値(「キュムラント径」や「Z 平均」と呼ばれる)と、分布の幅を表す多分散指数(PDI)が得られます。
動的光散乱法を用いた粒度分布計は、ブラウン運動を起こすほどの小さな粒子を対象としています。測定レンジは1 nm 以下から 10 um 程度となっており、レーザー回折 / 散乱法では測定できないようなナノサイズの粒子を測定することができるのが特徴です。サンプリング操作も容易であり、また比較的広いレンジで、低濃度でも高濃度でも測定できます。ただし、最初に得られる粒度分布は散乱光強度基準になるため、大きい粒子の影響を強く受けます。光散乱を用い一度に粒子集団全体を分析する原理のため、分布の幅が広いものに対しては大きい粒子の存在が小さい粒子の情報を隠してしまうこともあり、分解能と定量性能は高くはありません。またその測定結果は、逆演算を行うアルゴリズムに強く影響されます。
ナノ粒子解析装置 nanoPartica SZ-100V2の光学系
動的光散乱法の原理的にはなるべく低濃度の試料が適していますが、光学系の工夫により様々な濃度の試料を測定することができます。nanoPartica SZ-100V2では試料の濃度にあわせて入射光の強度を変化させ、最適な散乱光強度で測定を行います。また光を捉える検出器も、試料条件にあわせて使い分けることができます。低濃度の試料については、なるべく余計な光が入って来ない、90 度方向に設置された検出器を用いることが望ましいとされます。一方で高濃度の試料については、90 度方向にある検出器では散乱光を捉えられませんが、レーザー光が反射する方向に設置した検出器では、液体試料の側面から反射された散乱光を捕らえることができます。このように側方と後方の 2 種類の角度での測定が可能であり、広い濃度レンジの試料を測定できます。また「ゼータ電位」も一台の分析装置で評価できます。ゼータ電位は粒子の表面電位で、静電気的な反発により粒子の分散性に寄与します。
粒子のブラウン運動によるゆらぎと同様に、ゲルもゆらぎを持っています。ゲルは構造を持ちつつその中に溶媒を含んでおり、構造がゆらいでいます。ここにレーザー光を照射すると散乱光はゆらぎの情報を持って散乱されます。そのため、粒子の分析と同様の方法で分析を行うことで、ゲルの網目サイズを分析することができます。しかし実際には、ゲルは多くの場合位置によって構造が異なるため、粒子のように 1 点で測定をしただけでは、ゲルの全体の様子を表すことができません。したがって多点で分析を行い、平均化処理をした情報を用いる必要があります。
ナノ粒子解析装置
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