粒度分布の基礎知識と様々な粒度分布計について知った上で、実用上でしばしば問題になることなどについて解説します。
一般的に、ほとんどの粒子は凝集しながら存在しています。またその凝集状態が安定して存在することは難しく、時間とともに変化し、また分散処理や混和状態によっても変化します。そのため同じ試料を時間をおいて測定すると、まったく同一のものであっても測定結果が異なり、超音波分散などの処理を行うとさらに分布の形状が変化します。しかし、安定して分析を行う方法はいくつかあります。一般的には試料を希釈し、分散処理をした上で測定します。これは、なるべく粒子を一粒(一次粒子)の状態にするための処理であり、希釈をして粒子間の距離を広げ、分散剤を添加したり、超音波分散によって凝集をほどいてから分析を行います。こうすることで、凝集による影響を最小にして測定することができます。
もう 1 つの方法は、なるべく原液・使用状況に近い状態で測ることです。製品として使われる粒子はその状況に応じて安定となるように設計されています。したがって、実際の使用条件(濃度、温度など)のもとで測定を行うとより安定した測定ができます。このように粒子の分散状態を把握し、求めている分散状態へ戻す方法をあらかじめ検討して知っておくことが安定して分析するための重要なポイントとなります。
大きさが数十 nm 以下の粒子については、一般的に動的光散乱法と電子顕微鏡がよく用いられます。しかし、この 2 つの分析手法で得られる結果は大きく異なるため、誤解を招きやすくもあります。よくある現象として、動的光散乱法で分析された結果が、電子顕微鏡で観察した粒子径よりも非常に大きい値で得られることがあります。
電子顕微鏡 | 動的光散乱法 | |
---|---|---|
粒子径 | 幾何学的径 | 拡散係数相当径 |
粒子径基準 | 個数基準 | 散乱光強度基準 |
状態 | 乾燥・真空 | 液中 |
普段、電子顕微鏡で観察をしている場合、観察しているのは個数基準でのサイズになります。また、視野はある程度人が決めるため、自ずと大量にある小さい粒子の情報が主体的になります。また乾燥させて真空中で測定を行うため、凝集しているように見えているものも、液中で孤立分散していたかどうかはわかりません。
一方で、動的光散乱法では、散乱光強度基準の粒子径分布が得られます。前述の通り、ナノ粒子では散乱光強度は粒子径の6 乗に比例するため、大きい粒子が、非常に少量であっても大きく強調されたような形状の粒度分布が得られます。また、液中で凝集を起こしている粒子が存在すると、さらにその影響が大きくなります。もし、分布が非常に狭い場合や適切に粒子径基準を換算した場合であっても、動的光散乱法では、粒子径の定義として粒子の周りのイオンの大きさも含む拡散係数相当径を測定しているので、一般的に数 nm 程度大きくなります。
このように、電子顕微鏡と動的光散乱法は、どちらもナノ粒子を分析することができる手法ですが、測定結果として異なる内容が得られることにご留意ください。
製品の管理のために、粒度分布計を用いた管理基準を作成されることがあると思います。 このとき、なるべく下記のことに気を付けていただきたいと思います。
ここまで解説したように、測定原理やそれを用いた粒度分布計によって、粒子径の定義と最初に得られる粒子径基準は異なります。一般的には最初に得られる粒子径基準、例えばレーザー回折 / 散乱式では体積基準、動的光散乱法では散乱光強度基準を使っていただくことをお薦めします。粒子径基準を別の粒子径基準に換算することは可能ですが、それによって、粒度分布の形がいびつになったり、エラーやゴーストを作り出したりなど、もともとの情報の精度を著しく失うことがあります。なるべく最初に出てくる粒子径基準で管理を行っていただくことで、粒度分布計としても最も精度・感度のバランスの良い状態で管理することができます。
最大粒子径などの管理指標としてD100 や D99.99 などを用いる場合がありますが、通常はお薦めできません。粒度分布計は一般的に粒子の集団としての情報を得ることを得意としており、イレギュラーな1つの粒子を発見するような目的には適していません。粒度分布はヒストグラムで表記されるため、D100 などは、ヒストグラムの分画のサイズ分だけ離散的な値を取ることになります。管理に向いている安定的で連続的な値を得るには、ヒストグラムの両端からではなく、中間の情報を使うことが望まれます。D1 や D99 も多く用いられていますが、D10 や D90 などを用いた方がより安定的な結果が得られます。
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