原料・最終製品を問わず粉体粒子を扱う工業では、粉体粒子の特性評価は広く行われている。評価項目は分野によって少しづつ異なるが、粒子の大きさとその分布は最も重要な特性であり、必ず要求される評価項目である。そこで粒度分布測定を行うべく、測定装置のカタログを集めてみると、実に様々な装置があってどれがどれだか判らない。検討の末どうにか数機種に絞って、実際にサンプルを測定してみるとその測定結果がかなり違ってしまい、このハイテク時代に粒子の大きさ一つ満足に測れないのか、と嘆かれた方も少なからずおられると思う。
粒度分布測定は、ある大きさの粒子がどれだけあるかを求めることである。従って粒度分布測定には、粒子の大きさを測る技術と、その大きさの粒子の重量なり個数を測る技術が要求される。即ち、測長と秤量もしくは計数技術である。これらの計測機器は基準原器によって厳しく校正され、A社の測定器とB社の測定器で測定結果が大きく違うと言うことはありえない。個々の測定技術の精度は高いのに、なぜ粒度分布の測定結果は測定原理、装置、測定者によって食い違うのか、本稿では、少しく粒度分布測定に携わってきた立場から、粒度分布測定の難しさを解説すると共に、克服の展望についても若干触れてみたい。
本論文は、1992年に、(財)ファインセラミックスセンター 試験研究所 プロセス技術部 部長 椿 淳一郎様に特別寄稿いただいた[Readout No.4 JANUARY 1992]の内容です。
重厚長大時代の粉粒体は、数十から数百μmの鉱石、セメント、穀物等が主体で、粒度分布測定はふるいによって行れ、40~50μm以下の粒子はサブシーブ粒子と呼ばれ、微粉として扱われていた。
しかしその後、軽小短薄、ハイテク、先端材料の時代になり、ミクロンからサブミクロンの粒子が実際の生産に供られるようになり、さらに現在ではCVD、PVD等の超微粉製造技術も実用に供せられている。このように生産技術の進歩にともなって、測定対象となる粒子は10年で1桁ずつ小さい方に広がっていると言える。現在は、数十nmから数百μmまでの4桁の範囲で粒度分布測定が要求されている。数十nmから数百μmの範囲を極微の世界から日常生活の長さに移してみると、数mmから数十mの範囲である。
即ち蟻や米粒の大きさと高層ビルの高さを同時に測ろうという話である(図1)、さらに粒度分布測定では、大きさを測るだけでは片手落ちで、その粒子の存在割合まで求めなくてはならない。存在割合を重量基準で求めるとなるとその範囲は12桁になり、mgから始めるとktonにおよぶ、このように広い範囲では、粒子の大きさはノギスやマイクロメータで測り重さは天秤で秤る、と言った直接的測定は不可能である。必然的にいくつかの測定技術が駆使されることになる。これが様々な原理に基づく粒度分布測定装置が市販されている、主な理由である。
物差しや秤りを使わずにどうやって大きさと重さを測定するのか、粒子の大きさや量(濃度)によって変化する物理量を測定することで、間接的に知ることができる。
例えば、最も広く使われているレーザ回折散乱法では、光の散乱回折パターンが粒子の大きさに関係し、散乱光の強さは粒子個数に比例することを利用している。また遠心沈降光透過法では、液中での粒子沈降速度は粒子の大きさの二乗に比例し、光の透過量は懸濁液中の粒子の大きさと個数濃度に関係することを利用している。即ち遠心沈降光透過法では、沈降速度から粒子径を求め、光の透過量からその粒子の存在割合を間接的に求めているし、レーザ回折散乱法では回折散乱光強度分布を粒度分布に換算している。
ここで厄介なのは、利用している物理現象が粒子径や濃度以外の因子によっても変化することである。例えば遠心沈降光透過の場合は、粒子の沈降速度は粒子密度と粒子形によっても変化し、粒子が光の波長より小さくなると光の透過量は粒子の屈折率の影響を強く受ける。またレーザ回折散乱法においても、粒子が光の波長より小さくなると、散乱パターンは粒子屈折率によって大きく変わってくるし、粒子の形状も散乱パターンに影響を及ぽす。現在、測定が比較的簡単な粒子の密度は実測され、粒子の形は球として測定して物理現象が解析されている。しかし粒子屈折率のあつかいは容易でなく、各々のメーカーによって対応が異なっている。これが原理の同じ装置でも、機種によって測定結果が異なる大きな原因の一つである。またレーザ回折散乱法の場合には屈折率のあつかいに加えて、回折散乱光強度分布を粒度分布に換算する演算ソフトがメーカーによって異なり、これが測定装置を「個性」豊かなものにし、機種間の違いを大きくしている。
このように粒度分布は、物理現象を介して間接的に測定されるので、同じ粒子でも介在する物理現象が異なると、主に形状の影響を受け違う測定結果を得ることがある。人間の寸法にも、身長、B、W、H等の寸法があるのに似ている。粒子の場合もB,H>Wが好まれるとは限らないが、球に近づくにつれ測定原理(介在物理現象)の影響を受けにくくなるのは、ずんぐりした体型ではB≒H≒Wになるのに似て面白い。これが測定原理によって測定結果か異なる原因である。
いずれの原理で測定するにせよ、測定時には1個1個に分散された状態でなければならない。ミクロン、サブミクロンと粒子が小さくなるにつれて、次第に分散しにくくなり、適切な分散媒、分散剤、分散条件を選ばないと、凝集した粒子を測定してしまうことになる。サブミクロン粒子でも、図2(A)に示した様に個々の粒子がはっきり識別できる場合は、分散時間を十分にとれば粒度分布が変化しなくなるので、適正分散条件を決めることはそれほど難しくない。しかしファインセラミックス原料粉体のように仮焼工程を経て製造される粒子は、図2(B)に示す様に雷おこしのようになり1個1個の粒子の識別は難しくなる。
図2 多様な粒子形態
このように仮焼された固い凝集体の場合は、外力に応じて粒子は分散され、粉砕機によって初めて1次粒子までの分散が可能となる。このような粒子の場合は、分散条件を明確にすることが必要である。一般に粒子の分散には超音波バスもしくは発振子が用いられるので、分散力の目安として超音波の出力と照射時間が付記されることが多い。しかし超音波照射の効果は、懸濁液の量や使用ビーカーの大きさなどによっても著しく異なるため、出力と照射時間を合わせただけでは、測定結果に大きな違いを生ずる。これが測定者に起因するばらつきである。
しかし現実の粒度測定で最も問題となるのは、初歩的なミスである。それは、使用装置の測定範囲を超えた粒子を測定してしまうことである。測定装置は測定範囲外の粒子でも範囲内の粒子として処理してしまうため、範囲外、特に大きい粒子が多くあると大きな誤差の原因となる。これはかなり初歩的なミスと言えるが、測定結果のばらつきの最も大きな原因となっているようである。
これは測定者だけの責任ではないが、装置の調整も測定結果に大きな影響を及ぼす、特にレーザを使った装置ではちょっとした光輪の狂いが大きな誤差を生むだけに、装置の調整は大切である。
同じ試料を同じ原理の装置で測定して、いつも同じ測定結果を得るためには、測定装置の標準化と試料調製法の標準化が不可欠である。そのためには、装置によるばらつきと試料調製によるばらつきを、実際のデータで明らかにする必要がある。ファインセラミックスセンター(JFCC)では、41社の参加を得てマルチクライアント研究「粒度分布測定装置の系統的比較と測定術確立」を組織し、2年間検討を続けてきた。その結果、試料の調製条件を共通にするなら、測定結果のばらつきを半分に抑えらることが明らかとなった。さらに、粒子屈折率の影響の少ないミクロン粒子の測定結果はかなり一致しており、装置標準化の可能性も示唆された。また試料調製条件の標準化に対しても目処を付けることができた。
日本ファインセラミックス協会(JFCA)の標準化委員会においても、ファインセラミックス原料に限定はされているが、粒度分布測定技術標準化の戦略が立てられているし、粉体工学会のサブミクロン粒度測定グループ会が学問的検討を進めているので、産学の協力を得て粒度測定技術が標準化されるのもそう遠くないものと期待している。現在の測定装置は、測定結果を一目見て装置名まで判るほど「個性的」あるが、標準化はこれらの「個性」を奪うことになる。しかしこのような「没個性化」は、ユーザーにとって多いに望むところである。
「個性的」な測定結果と言うのは困りものであるが、各々の原理に応じた機能の個性化は大歓迎である。これまではファインセラミックス原料粉体を念頭において、装置上の問題、測定上の問題について言及してきたが、粒度分布測定において考慮しなければならないことはまだある。一つは、測定対象が無機物、有機物から生体まで極めて多様であることである。もう一つは、ユーザーニーズの多榛性である。とにかく速く簡便に測りたい、分解能が欲しい、精度よく測りたい。トップサイズを知りたい、できるだけ安く、…と多様である。このような多様性を、1台の装置で満足するのは先ず不可能である。これらの多様化はますます深まって行く傾向にあるので、各メーカーにはユーザーニーズをよく読んで機能の個性化を多いに進めてもらいたいし、各測定原理の個性・特徴を明確にし、各々の守備範囲を整理するのが研究者の課題ではないかと思う。
拙稿より、粒度分布測定は、現代のハイテクをもってしても一筋縄ではいかないこと、しかしまたメーカー、ユーザー、研究者が一致協力するならば、十分解決可能な困難さであることを、お分かりいただけたら幸である。
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