GD-OES

GD-OES法の原理

GD-OES法とは

グロー放電発光分析法(Glow Discharge OpticalEmission Spectrometry:GD-OES)は、スパッタリングにより試料表面から原子を弾き出し,原子をプラズマ状態に励起し、生じた発光を測定することによって試料の組成を分析する方法です。
rf-GD-OESは、極めて高速でアルゴンイオンスパッタリング(約10 nm/s)し、排気は ロータリーポンプによる排気系 だけが必要で、アルゴンガスが少量で済むなど使いやすい装置です。さらにこのような特長だけでなく、深さ方向の表面解析ができるツールとして、また実用的な表面技術として画期的なものです。
GD-OESに高周波電源を適用する手法(rf-GD-OES)はフランスのジョバンイボン社によって開発され、非導電性コーティングや材料解析にまで用途が広がっています。この手法は厚膜およびバルクの組成分析の基準分析法として、国際標準化機構(ISO)により認められています。

本分析法はガス状のO,N,H,Clなどを含め、元素の深さ方向の分布状態(デプス・プロファイル)を数十 ppmの感度で測定することができます。最近ではrf-GD-OESの優れた分析感度を利用して、薄膜の組成解析やさまざまな物質の極表面の分析に応用されるようになっています。これは、nmオーダ(10-9 m)で深さ方向の組成分布を測定できる本技術の長所が認識されるようになってきたためです。

GD-OESの歴史

rf-GD-OES法の光源となるグロー放電ランプは1967年にGrimmによって開発され、1970年代後半に商用化されました。
当初は、金属材料の成分分析などに活用されており、直流放電方式(DC方式)が主流でした。その後、酸化膜や塗装皮膜などといった非導電性試料・皮膜の分析ニーズが高まり、1988年にM. Chevrierにより高周波方式(rf方式)が開発され,1992年にS. A. Jobin-Yvon社(現 HORIBA FRANCE)により製品化されました。それ以降、K. Marcusらにより、rf方式としてのグロー放電光源の研究が行われ,欧米を中心に研究・開発されてきました。
日本国内においては、1980年代に鉄鋼分野での亜鉛アルミニウム二層めっき鋼板の深さ方向の定量的な評価方法として適用され、めっき量の管理などの生産部門に応用されてきました。1997年に清水教授がnmオーダーの皮膜の深さ方向分析に活用できることを示唆して以来、精力的な調査・広範な分野への応用が行われてきました。最近では、迅速性・簡便性を備えた表面分析手法として、めっき・蒸着・スパッタ皮膜の分野において広く活用されるようになりました。

発光部

装置の手前の扉を開いたところに試料室・測定部分があり,その中心部分に測定部分があります(Figure 1)。Figure 2に測定部分の断面構造を示します。測定部分はグロー放電ランプとも呼ばれ、円筒状の電極(アノード)が絶縁体で覆われており、中心部分の穴部分に試料をセットし、真空を保つ構造になっています。試料は一般的に平板状のものが多くなります。試料をセットした状態で、試料の背面側に高周波印加用の電極(発振子)をつけ、電極と一緒に試料をシリンダーにて押さえ保持します。このとき、アノード部分は数100 Pa程度のアルゴンガス雰囲気下にあり、試料背面より13.56 MHzの高周波を印加します。高周波の印加によって、試料表面にマイナスの電位が生成します。この電位差によってプラズマ中のアルゴン陽イオンが試料表面に衝突することで試料表面をスパッタリングします。
このスパッタリングによって、試料表面に存在する元素が原子化され、プラズマ中に導入され、アルゴンプラズマのエネルギーにより励起されます。励起状態より基底状態に戻るときに元素固有のエネルギーを放出します。これが元素固有の発光となり、グロー放電ランプ部分より光が放たれることになります(Figure 3)。Figure 4に高周波を印加した際に、試料表面にマイナスの電位が生成するメカニズムを示します。高周波を印加すると、その周波数に従い試料表面の電位がプラス、マイナスと交互に変化します。このときプラズマ中のアルゴン陽イオン、電子が交互に試料表面に移動します。しかし、電子の方がアルゴン陽イオンに比べて質量が軽いため移動が容易でありその結果、試料表面は安定した自己バイアスと呼ばれるマイナス電位となります。自己バイアス電位により,試料表面に対しアルゴンイオンによる安定なスパッタを維持することが可能です。このような課程によりスパッタ・発光が起こるため、rf-GD-OES法では試料の導電性・非導電性に影響されずに分析を行うことができます。

Figure 2 マーカスランプの断面

マーカスランプの構造

Figure 2 マーカスランプの断面

マーカスランプの断面

Figure 3 発光原理イメージ

Figure 3 発光原理イメージ

Figure 4 自己バイアス電位のメカニズム

Figure 4 自己バイアス電位のメカニズム

分光・検出部

rf-GD-OES法の装置構成をFigure 5に示します。測定部分(グロー光源ランプ部分)より放たれた光は、集光レンズにて集光され、分光器に導入されます。rf-GD-OES法で用いられる分光器は、ポリクロメータと呼ばれるパッシェン・ルンゲ型の分光器です。パッシェン・ルンゲ型分光器は、分光器内に凹面型回折格子を有し、ローランド円上に複数のスリットと光電子増倍管を配置した多元素同時測光型の分光器です。また、グロー放電自体プラズマ温度が400~500 Kという低温プラズマであり、他の発光分析法と比較して発光が弱いため感度の良い光電子増倍管を用いたポリクロメータを用いるのが一般的です。測定される波長領域は,110~900 nmという紫外・可視・近赤外領域です。

Figure 5 装置構成

Figure 5 装置構成

スパッタ面積とスパッタ痕

rf-GD-OES法で分析される面積は一般的に4 mmΦです。これはFigure 2のアノードの寸法に依存しており、アノードの径を変更することで測定面積を変更することができます。4 mmΦ以外にも、1 mmΦ~7 mmΦ程度まで様々なサイズのアノードがあります。Figure 6にrf-GD-OES法にて測定した後のスパッタ痕を示したようにスパッタ後は非常に綺麗なクレータ形状になります。クレータ形状の外周部の盛り上がり部分は、スパッタ残渣として堆積したものです。約100 μm程度の深さまで分析可能です。

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