光散乱現象のうち、回折と Mie 散乱の現象を用いるのが、レーザー回折 / 散乱法です。レーザー回折 / 散乱法では、下図のように、粒子の大きさによって散乱光強度の散乱角度依存性(散乱パターン)が変わるという現象を利用します。Mie 散乱の式は非常に複雑な式ですが、 パラメータの関係だけを示すように記述すると、下記のようになります。
これらのパラメータのうち、距離と散乱角は検出器の配置から、光の波長は用いている光源の種類から決まります。したがって屈折率がわかれば、ある粒子径によるθ方向の光強度(散乱パターン)が求められます。しかし実際には、粒子は1個で存在しているわけではなく、分布を持った集団で存在しているため、様々な粒子が様々な強度で出す散乱パターンが重ね合わされたものが測定されます。この散乱パターンから元の粒度分布を演算します。既知の粒度分布からその粒子集団がつくる散乱パターンを計算することは容易ですが、逆に、散乱パターンから粒度分布を計算することは、数学的に複数の答えがあり得る「逆演算」となります。このような演算を経て、粒子径として球相当径、粒子径基準として体積基準の粒度分布が得られます。
「レーザー回折 / 散乱法」は非常にバランスの良い分析方法です。サンプリング操作が容易かつ、広い粒子径レンジを分析できます。また最初に得られる粒子径基準が体積基準であることも、使いやすさとして重要な要素のひとつです。一方で、光散乱を用い一度に粒子集団全体を分析する原理のため、分解能および定量性能は高くはありません。
レーザ回折/ 散乱式粒子径分布測定装置 Partica LA-960V2 と典型的な測定例
レーザー回折 / 散乱法は、数ある粒度分布計の中で最も広い粒子径のレンジを有しており、10 nm からミリ単位の大きさまでを一度に測定することができます。これは回折と Mie 散乱という広い粒子径レンジで起こる現象を使っていることに加えて、光学的な工夫によるもので、赤色のレーザー光源だけでは 100 nm 程度がレンジの下限になりますが、青色の光源も併用することによって 10 nm まで測定範囲下限を広げることができています。
またレーザー回折 / 散乱法では、様々な状態の粒子を測定することができます。一般的なものとしては、湿式での測定と乾式での測定があります
懸濁液、エマルジョンなどの湿式(液体試料)の分析では、測定場所であるフローセルと、試料投入槽の間で分散溶媒を循環させているところに試料を投入し、光透過率が最適となる濃度で測定します。このとき、循環の途中に設けられている超音波プローブによって、凝集粒子をほぐして測定することもできます。
液体の溶媒中ではなく空気中の粒子、すなわち乾燥粉体の測定も可能です。粉体状の測定試料が、セルの中を上から下に落下していく中を測定します。このとき、何も力を加えずに固まっているものをそのまま測定することも、落下中に圧縮空気を当てることで固まりをほぐして測定することも可能です。
高濃度の懸濁液を測定することも可能です。通常は光が透過するように試料濃度を薄めて(希釈して)測定しますが、かわりにセルの光路長を短くして測定します。こうすることで、希釈すると分散状態が変化してしまう試料を原液のまま、もしくは原液に近い状態で測定できます。止まっている粒子を測定するため、分散状態を正しく把握するには、なるべく広い面積を測定することが重要です。 Partica LA-960V2 は、その光学系と広い面積を持つ専用セルにより、高濃度試料の測定に適しています。
さらにレーザー回折 / 散乱法では、湿式測定の循環路の途中にカメラと光源を設置し、流路中の粒子の画像を取得することも可能です。画像から、粒子径のほかに、円相当径、アスペクト比や長さなどの情報が得られます。また粒子径基準は個数で得られますが、体積基準などへの変換も可能です。画像解析法の分解能は、検出素子の 1 ピクセル当たりのサイズを指す場合が多く、その下限値は一般的に1 μm を切ることもよくあります。ただし粒度分布測定においては、この下限値は画像から算出できる粒子径の精度には影響するものの、測定可能な最小粒子径とは異なります。測定できる粒子径の下限は、粒子の像を解像することができる光学的特性(光学分解能)で決まります。実際には、光源を含む光学系にもよりますが、形状の情報までがわかるほどの情報を得る場合、通常は5 μm 程度が下限となります。