固体製剤中の薬物の結晶状態は、薬物の溶出性や吸収性などの製剤特性に影響を及ぼすため、その定量的解析は品質評価において重要です。インドメタシン(Indomethacin, IMC)を対象に、5種類の試料(a:γ型IMC結晶、b:α型IMC結晶、c:非晶質IMC、d:γ型IMC/非晶質IMC(9:1, weight ratio)混合物、e:γ型IMC/非晶質IMC(1:9, weight ratio)混合物)について、ラマン分光分析法を用いての非晶質状態を判別し、さらに非晶質量のを定量的に評価する可能性を示しました。
カルボニル基を介した水素結合様式が、IMC結晶多形間で異なっていることがラマンスペクトルから明らかとなり、結晶形の判別が可能であることが示されました(図1)。さらに、多変量解析によって、混合物中の非晶質定量の可能性があることが示唆されました(図2)。
顕微ラマン分光測定装置
医薬品開発において、結晶多形の制御は、溶解度等の物性が異なることから重要な課題です。 ある条件下での結晶形が、別の結晶形に容易に転移することもあり、原薬製造工程では望まない結晶形の混入を避ける必要があります。 透過ラマン分光法(TRS)は、結晶多形に対する感度が高く、非破壊で結晶形のわずかな違いが観察でき、低分子医薬品中の結晶多形を識別可能です。
透過ラマン分光装置
0.05%~0.5%の有効成分を含む錠剤のラマンスペクトルを取得し、錠剤中の有効成分濃度と相関があることが確認できました(図1)。近赤外吸収(NIR)法と比較して、高精度かつ一試料あたり数秒~数十秒と短時間で薬効成分を定量できます。低濃度の薬効成分も測定でき、湿式化学分析法である超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)と高い相関性がありました(図2)。
透過ラマン分光装置
顕微ラマン分光法は、高い空間分解能を有することから、医薬品や生体試料等の微小領域の組成・構造の違いによる可視化に有効で、特定成分の分散性評価や各成分の分布を面積比率として算出することも可能です。 高速マッピング機能「Swift」と高感度検出器「EMCCD」により、医薬品錠剤の状態の分布を高速、正確に確認できます。 共焦点性能が高いためクリアな微小成分イメージングを実現できます。
ラマン顕微鏡
固形製剤中の有効成分の溶解性は、その粒子径によってコントロールできます。ラマン顕微鏡の粒子解析ソフトParticle Finder* を用いて、錠剤のマッピング像から有効成分の粒子サイズの解析をおこない、その結果から、成分Aのメジアン径は3.9 μm であることがわかりました。
*ラマン顕微鏡シリーズ専用ソフトウェア LabSpec 6のオプション
錠剤断面出しユニットは、医薬品錠剤の平坦な断面出しを簡単に行うことができる便利なアイテムです。ラマン分光分析での錠剤成分の分布、結晶多形の観察や異物の分析の前処理に便利です。スライドガラス上で断面出し、そのままステージに載せて測定できます。
ラマンイメージング装置
口腔内崩壊錠の顆粒の外縁に約20 μmのコーティングの存在(Area3)を 確認し(図1)、さらに口腔内崩壊錠の原薬の結晶形を識別することができ ました(図2)。これは、従来の顕微ラマン分光分析では得られなかった情報 であり、また、顕微赤外分光法、熱分析法、粉末X線回折(PXRD)など他の 分析方法でも得られなかった情報です。低波数(LF)顕微ラマン分光分析により、製剤設計、不良錠剤の原因特定、製造工程の制御のための評価の信頼性を高めます。
Area3から、コーティングとして使われた二酸化チタンの特長的な強いピーク (150 cm-1)が観察されました。また、低波数ラマン分光による観察において のみ確認できる一水和物に特徴的な25cm-1に由来するピークをを確認する ことができました。
参考:Yamamoto, Y., Kajita, M., Hirose, Y., Shimada, N., Fukami, T., Koide, T.(2023). Pharmaceutical Evaluation of Levofloxacin Orally Disintegrating Tablet Formulation Using Low Frequency Raman Spectroscopy. Pharmaceutics 2023, 15(8),2041 & Supplementary Materials
Ultra Low Frequency Raman Module
ラマン分光装置に透過ラマン測定ユニットを接続し、透過ラマン分光測定 を行いました。カフェインを充填したカプセルの測定において、通常のラマン分光測定(後方散乱)(図1(b))と比較して、透過ラマン測定(前方 散乱)(図1(a))では、前方散乱ではゼラチン由来と考えられるベース ラインの傾斜は軽減され、蛍光発光によるカフェインのピーク強度の減少 も回避できたと考えられます。さらに、各種カプセルの透過ラマン分光 測定において、同様の結果を得られました(図2)。この結果は、製剤試験の含量均一性試験や品質管理に貢献します。
Transmission Raman
有効成分の溶出性の違いには粒子径や粒子形状が影響することが知られています。粒子分散ユニットとラマン顕微鏡の粒子解析ソフトであるParticle Finder を用いて原薬粉末の粒子径とアスペクト比を解析しました。測定結果より、この粒子はメジアン径3.7 μm の粒子であり、アスペクト比の中央値は0.9 と球に近い形であることが分かりました。
ラマン専用自動粒子解析ソフトParticleFinderを用いたラマン分光分析結果より、混合物の各成分別粒子統計解析ができます。
Particle Disperser
ラマン用粒子解析ソフトウェア
透過X線分析により、非破壊・非接触で異物を捉えることができました。さらに、蛍光X線分析により異物の主成分が、鉄、ニッケル、クロム、モリブデンであることがわかり、異物はステンレス鋼片であると推定できました。
微小部X線分析装置 (X線分析顕微鏡)
ラマン分光分析を用いることで、原薬結晶多形を容易かつ短時間で識別できます。複数の結晶多形が存在することが知られているカルバマゼピンのFormⅠおよびFormⅢの等量混合物を、飽和エタノールに加え攪拌し、ラマンプローブを液浸し測定しました。時間経過に伴いFormⅢに由来するピーク(図中A)の増加とFormⅠに由来するピーク(図中B)の減少が見られ、安定晶へ収束している様子が確認できました。